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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第67話:鏡面の罠、大潮の「吸い込み」

からくり競艇が開催されるこの世界には、マブイを糧として生きる特殊な生態系「マブイ植物」が存在する。これらは周囲のマブイ濃度や地脈の乱れに反応し、物理現象を歪める力を持っている。

マブイ吸引草マブイ・ドロッセル: 大気中の浮遊マブイを吸収し、周囲を一時的に「マブイの空白地帯」にする。レーサーが近づくと機体への供給が途絶え、致命的な失速を招く。

重力蔦グラビティ・アイビー: 福岡のような潮位差の激しい水面に自生する。マブイを物理的な「重さ」に変換し、機体重量を数倍に跳ね上げる。

捕縛花(ハエトリグサ型マブイ植物): 獲物が放つ強いマブイの波動を感知すると一瞬で閉じ込み、そのエネルギーを吸い尽くす。

 大内胤賢はこの「捕縛花」の性質を機械的に再現。敵艇が放つ過剰なマブイや水面の乱れを、自身の燃料として強制的に取り込む禁忌のデバイスを作り上げたのである。

 2029年4月23日。ボートレース福岡、予選4日目。

 嵐が去った福岡の水面は、鏡のように穏やかだった。しかし、ピットに漂う空気は昨日よりも一層鋭い。「風がなか……。ばってん、こいが一番怖かたい」

 大峰幸太郎が低く呟く。今日は「大潮」。表面は静止しているが、水面下では淡水と海水が激しくせめぎ合い、第1マーク付近には巨大な吸引力が発生していた。ボートが内側へと引きずり込まれる、福岡特有の「魔の時間帯」である。

 「テヨン、準備はいいか。潮の引きに合わせて、お前が重りを担え」

 「ああ。お前はただ、最短距離を走れ」

 新見航平とキム・テヨンが滑り出す。彼らはテヨンが放つ「痛みのマブイ」を物理的な重力アンカー(錨)として海中に突き刺した。潮の流れを強引に固定し、その不動の支点を中心に、新見が氷上のスケーターのように最小半径を旋回する。

 「誠、大潮の引き波に逆らうな。……出すんじゃない、吸い込め」

 大内が誠の39号機に装填したのは、試作パーツ『再編・捕縛型増幅器』。誠はスロットルを緩め、出力を最小限に抑えた。機体は死んだように静かだが、インテーク(吸気口)は飢えた獣のように開かれている。周囲に渦巻く大潮のエネルギー、そして新見たちが撒き散らす「痛みのマブイ」を、誠の機体は「餌」として取り込み始めた。

 (誠! 来るぞ、絶影ラインだ! あいつらのマブイを根こそぎ食ってやれ!)

 シロの五感が、水底に沈む新見のマブイの「糸」を鋭利な鉤爪で捉えた。

 第12レース、1マーク。

 新見が電光石火の最短旋回に入ろうとしたその瞬間、誠の39号機が背後から吸い寄せられるように、その「影」に重なった。

 「ハエトリグサ……システム、起動!!」

 誠の右腕に熱い衝撃が走る。39号機のインテークが発光し、新見とテヨンを繋ぐ「痛みのバイパス」から過剰なエネルギーを強引に奪い取り始めた。

 「なっ……!? マブイが、吸い取られる……!?」

 テヨンが悲鳴を上げた。新見の負荷を肩代わりしていたマブイが誠の機体へと逆流。避雷針を失った新見の脳に、自機が生み出す膨大な負荷が直接突き刺さる。二人の共依存システムは崩壊し、新見の旋回が外側へ流れた。

 奪ったエネルギーを推進力へ変換した誠のマブイは、1,000から一時的に10,000へと跳ね上がる。

 「これが……あいつらの背負っていた『痛み』の重さか……! 重すぎるぞ、新見さん!!」

 誠は激痛に耐え、ハンドルをねじ込む。そこへ、外から大峰と宮地の師弟コンビが全速まくりで襲いかかる。福岡の第1マークは、四つの支部、四つの意志が交錯する混沌の爆心地と化した。

 「誠くん……あんな無茶な食事をして。壊れてしまうのは、機体じゃなくてあなたの心よ?」

 ピットで見つめる守屋あおいの手が不安げに胸元を握る。誠が吸い込んだのは、新見たちの絶望と絆。それを力に変えて駆け抜ける白銀の機体は、果たして救世主か、それとも全てを食らい尽くす魔物か。

 博多の鏡のような水面は、次の瞬間、誰の勝利の色に染まるのか。

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