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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5章:誠の試練編

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第63話:静かなる「無」の脅威、下関コンビの共闘

からくり競艇における勝負は、単なる機体性能の優劣では決まらない。レーサーが自らの「マブイ(魂)」を機体へどう流し込み、水面という戦場をどう解釈するか。その練度が「テクニック」となって現れる。

マブイ・グリップ(霊的接地):

通常のボートは水との摩擦で旋回するが、からくり機艇はマブイを水面に「吸着」させる。これにより物理限界を超えた急旋回が可能となるが、レーサーの脳には多大な負荷オーバーロードがかかる。

波動相殺ノイズ・キャンセリング

他艇の攻撃的なマブイやうねりの振動に対し、自身のマブイを逆位相でぶつけて衝撃を無効化する。守備型レーサーには必須の技術である。

潜行旋回ダイブ・ターン

荒れた水面の表面ではなく、ドリルやプロペラを水底の安定した層まで深く沈めて旋回する技。新見航平や今回の誠が試みた、難水面での必勝テクニックだ。

マブイ・ステルス:

自身のマブイ出力を完全に遮断し、他艇のセンサーから姿を消す。瓜生俊樹のような特異体質のみが成し得る回避術。


 2029年4月21日。ボートレース福岡、予選2日目。

 ピット裏では、野田あかりと真理子が「接待偵察」と称してテヨンに明太子を振る舞う喧騒が続いていた。その離れた場所で、速水誠は盟友・瓜生俊樹と並び、表情を変え続ける那珂川の水面を見つめていた。

 「誠。……昨日の空中旋回、すごかったよ。君にしかできない、光の道だった」

 俊樹の静かな声が響く。彼はコア・外付け共にマブイ0という、この世界では生存すら困難な「マブイゼロ」の特異体質である。しかし、機体から漏れ出す雑念ノイズもゼロ。荒れ狂う福岡のうねりの中でも、彼の3号機は不気味なほど「無音」で安定していた。

 「俊樹……。俺、今日は空に逃げない。新見さんのように、この水の底を掴んで戦ってみたいんだ」

 「……いいと思う。誠が攻めるなら、僕が君の影になるよ」

 予選11レース、ピットアウト。

 2コースの誠に対し、俊樹が3コースから独自の戦術を展開する。大時計がゼロを刻むと同時に、誠はチルトを標準に戻し、あえて水面に張り付くような低重心の旋回を試みた。

 「(シロ、今だ! 潜るぞ!)」

 (了解だ誠! 表面の荒波に惑わされるな。水底の、静止した水流を掴め!)

 誠は新見の走りを脳内でトレースし、うねりの「底」にある高密度な水流に、39号機のドリルの先端を深く食い込ませた。

 そこへ、外枠から群馬の強豪・山崎征也が猛烈なまくりを仕掛ける。しかし、その進路に立ちふさがったのは俊樹であった。俊樹はマブイを持たないがゆえに、福岡の磁場や他艇のマブイ干渉プレッシャーを一切受けない。「絶対的な直進」を維持する俊樹の機体は、山崎のレーダーに映らない死角から、物理的な「壁」となって攻勢をシャットアウトした。

 俊樹の相棒パスタが、純粋な視覚情報の共有で俊樹をサポートする。

 (シロさん、誠さんの後ろは僕たちが守ります。ここはマブイの出力に頼る連中には地獄ですが、僕たちには最高の遊び場ですよ……!)

 俊樹の「無」のマブイが他選手の感知器を狂わせ、レースフィールドに巨大な「空白ホワイトアウト」を作り出した。後続艇はどこに壁があるのか判断できず、次々と失速していく。

 空白の守護に守られ、誠は昨日とは違う、力強い接地感グリップを伴ったターンを描いた。水底の重い水を掴み、それを推進力に変える確かな感触。

 「空を飛ぶだけが、俺の強さじゃない……! 俊樹、サンキュー!!」

 誠の白銀が那珂川の底を蹴って首位に躍り出た。山崎の華麗な旋回も、俊樹が作り出した無の空間に飲み込まれた。

 結果は、速水誠の堂々たる1着。2位には瓜生俊樹。山口支部による完全なワンツーフィニッシュに、福岡のスタンドはどよめいた。

 「誠、いいターンだった。水底の音が聞こえたよ」

 俊樹と拳を合わせた時、遠くから「あかりちゃん、もう明太子全部食べたの!?」という真理子の悲鳴が聞こえてきた。

 しかし、その光景を整備室の影から見つめる守屋あおいの瞳は、冷たく細められていた。

 「……俊樹くん、あの子とあんなに仲良くして。私の知らない誠くんの表情を、また一つ増やしてくれたわね……」

 誠が掴んだ新たな接地感。それが、さらなる嫉妬と、新見航平という巨大な壁を乗り越えるための鍵となる。

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