同期のギフト
SG「九州王座特区戦」の咆哮が消え去り、閉幕の余韻が残る唐津の特設ステージには、優勝戦以上の熱気と、どこか冷めやらぬ狂気が渦巻いていた。
「はいはーい! 皆さん、からつSG閉幕おめでとうっす! 師匠は準決で過負荷転覆したけど、ウチのテンションだけは爆上がりっす!!」
あかりがギャル全開のエネルギーで客席を煽ると、広場を揺らすほどの歓声が上がった。隣に立つ野田真理子さんが穏やかに手を振るだけで、殺気立っていた競艇ファンたちの心が、不思議と凪いでいく。結属性の使い手らしい、調律の力だった。
「実はうちら、プライベートでも「野田同盟」って呼んでるくらい仲良しなんっす! 次回は二人で鉄壁のラインを組んで、他支部の男どもをボコボコにする予定っすから!」
「あかりちゃんが爆属性の全速外マイを仕掛けるなら、私は結属性の後流同調で後ろを完璧にガードするわ。誰にも追いつかせない、鉄壁の回り足を見せてあげる」
話題は、準優勝戦で無念の転覆落水失格となった俺へと移った。
「もう、師匠は詰めが甘いんっすよ! 一千しかないのに古代パッチなんて扱うから、基盤がキャパオーバーでクラッシュするんっす!」
「でも、あの引き波の絶壁を垂直に駆け抜けた「古代跳躍旋回」、近くで見ていて震えたわ。次は私たちが誠さんをシステム的にしっかり支えて、流体エラーを起こさせないようにしなきゃね」
俺はステージの袖から、その様子を眺めていた。あかりが俺の代わりに笑っていた。それだけで、少し楽になった。
デバイスケージでは、スーが静かに佇んでいた。そこへ、優勝を飾った大峰幸太郎さんが連れるフレンチブルドッグの「ムネリン」が、フガフガと鼻を鳴らしてゆっくりと近づいてきた。ムネリンがスーの端子に鼻先をちょこんと寄せた瞬間、微弱な近距離バイオパルスを介して——「唐津の汽水密度データ」と「大峰さんの先マイの電算ログ」が一瞬で同期された。勝者から敗者へと贈られた、次の戦いへの最高のギフトデータだ。スーの鼻息がフガッと一度だけ鳴り、受信完了を告げる。
大峰さんは何も言わなかった。ただ、俺の方を一度だけ見て、豪快に笑いながら去っていった。
俺の端末には、スーを介して受信した流体ログと共に、下関の守屋あおいから送られてきた遠隔警告パルスが、あおいを象徴するツートンカラーで不気味に明滅していた。「帰還後の100本勝負アラート」だ。
俺は敗れた。でも、唐津の汽水面に刻んだあの航跡から、新しい絆という名の流体うねりが生まれていた。大峰のデータ、あかりと真理子の宣言、大内が今頃ポケットの中でメモリの焦げ跡を眺めているはずの姿。全部が繋がっている。
山口への帰路、俺は少しだけ前を向いていた。
スーが低く、一度だけ喉を鳴らした。




