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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第2章:駆け出し編

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第5話:女王の眼光、下関の邂逅

2027年6月初旬下関の街

「ええか誠、俊樹。プロの賞金は『自分を磨く金』やきん、無駄遣いしたら承知せんよ!」

菜奈が讃岐弁で釘を刺す中、誠はシロを抱きかかえながら、瓜生へのプレゼントを探していた。

「……誠、これ」

瓜生が指差したのは、マブイを一切通さない**「絶縁クロムバナジウム鋼」**のスパナセット。マブイ0の彼にとって、自分の力を吸い取られず、機体の純粋な物理振動だけを感じ取れる「絶縁」の工具は、何よりも価値があるものである。

その時、市場の空気が一瞬で凍りついた。

周囲にいた荒くれ者のメカニックたちが、一斉に道を開ける。

「……あら、こんなところで未来のスターに会えるなんて」

冷徹でありながら、全てを包み込むような圧倒的なマブイの波動。そこに立っていたのは、大阪支部の絶対的女王、鎌倉 明奈。

鎌倉が纏うマブイは、コア・外付け合わせて70,000。それはもはやオーラというよりは物理的な「質量」となって周囲を威圧していた。

「君が速水誠くんね。上田校長(不死鳥)の秘蔵っ子……。でも、そのマブイ量で私の前に立てると思っているのかしら?」

鎌倉がわずかに瞳に力を込めると、誠は**「金属耳鳴り」**に似た激しい衝撃を感じ、膝を突きそうになる。

その時、誠の腕の中で大人しくしていたシロが、鎌倉に向かって猛然と吠えかかった。

「ワンッ! ワンッ!!」

ペキニーズという犬種は、かつて機獣を鎮め、周囲のマブイを浄化する「神」の象徴とされていた。

シロが放つ小さな振動が、鎌倉の放つマブイの圧力を、誠の周りだけ中和したのである。

「……へえ。面白いワンちゃんね。私のマブイに物怖じしないなんて」

鎌倉は薄く微笑み、誠の顔を覗き込む。

「誠くん。一つ忠告しておくわ。全24箇所のレース場を回るつもりなら、マブイを『節約』するだけじゃ足りない。マブイを『無』にする覚悟ができたら、大阪(住之江)へいらっしゃい」

鎌倉はそれだけ言うと、香水の代わりに微かな「高品質グリス」の香りを残して去っていった。

「……誠、大丈夫やきん?」

菜奈が心配そうに駆け寄るが、誠は鎌倉が去った方向をじっと見つめていました。

「……俊樹。今の、分かったか?」

「ああ。……彼女の周りだけ、マブイが完全に『統率』されていた。……あんなの、機械でも無理だ」

二人は、初賞金で買ったばかりの「絶縁スパナ」と「シロの最高級エサ」を握りしめ、自分たちの前にある壁の巨大さを改めて思い知ったのだった。

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