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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第4章:嵐を呼ぶ死闘。住之江激闘編

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第48話:聖地の臨界点、そして三極の「怪物」たち

からくり競艇、そして現代の競艇において「勝負の鍵」を握るポジション。それが**「カド」**である。

通常、ボートレースは1〜3コースが助走距離の短い「スロー」、4〜6コースが助走距離の長い「ダッシュ」という隊型に分かれる。この境界に位置するダッシュ最内(主に4コース)を「カド」と呼ぶ。

スロー勢がスタートライン(スリット)に向けて慎重に加速を合わせる中、カドのレーサーは後方から全速の助走を乗せ、弾丸のごとき初速で飛び込むことができる。そのため、一気に内枠を飲み込む「捲り」の主役となりやすい。

「カド一撃」――それは、静寂を切り裂く一閃の雷。住之江のような狭い水面では、カドから放たれる爆発的なエネルギーが水面そのものを物理的に破壊する起点となり、全ての計算を無に帰す。

2029年1月15日。SGバトルトーナメント、優勝戦。

住之江の夜空は、三つの異常なマブイが放つ極光によって、昼間よりも明るく、そして不気味に照らされていた。

1枠には福岡「ポンコツ会」のリーダー、西野貴志。住之江の呪いを燃料に変え、機体から黒ずんだ爆炎を噴き上げている。

大外6コース、60mのハンデラインからは、高知の「龍」ことクーロン・サカモト。黒船のごとき巨躯が、静かに獲物を狙う。

そして5コースには、機体と植物を融合させた留学生、アルバート。

山口の仲間(あおい、大内、俊樹)が準決勝で敗退し、独り荒海に立つ速水誠。彼の1,000マブイは、怪物たちの前ではあまりに儚く見えた。

「誠、悪いが今日は『友情』やなか! この爆炎で住之江ごと焼き払うばい!」

西野の機体から、太陽のフレアを思わせる凄まじい「爆炎」が噴出する。

大時計がゼロを刻む。

西野の爆炎が1マークへ向けて弾丸のように突き進む中、クーロンの「黒船旋回」が強引にその進路を遮った。黒いマブイの壁と、赤黒い爆炎が真っ向から激突。住之江の水面に巨大な水柱と蒸気が爆発した。その衝撃波だけで、3枠の西村唯がバランスを崩し、後退するほどの異常出力だった。

だが、その激突の隙間を最悪の伏兵が突いた。

「ハバネロで攻撃力3倍! さらに**『悪魔の宿りデビル・ミスルトゥ』**、発動デース!」

アルバートが放ったマブイの「種」が、西野とクーロンが衝突させた莫大な熱量を吸収し、瞬時に異常成長を遂げた。太い蔦が触手のように伸び、西野の「爆炎号」とクーロンの「黒船」を同時に捕縛したのだ。

「な……マブイが吸われる!? 貴様、この草は何だ!」

「オー、これは相手の力を奪うエコな戦術デース!」

二人の怪物が植物に捕らわれ、水面で身動きが取れなくなる。優勝戦は一瞬にして「捕食者」アルバートの独壇場へと変わった。しかし、その時、誠のヘルメットの中でシロの声が低く響いた。

『誠、あの植物は強いマブイを好む。お前の「1,000」をおとりにしろ』

誠の1,000マブイは、他のレーサーに比べれば微々たるものだ。しかし、2200万PVの「応援」が結晶化したその純度は、どの怪物よりも高い。誠はあえて「スカイ・ハイ」を捨て、植物が蠢くマブイの澱みの中心へと突っ込んだ。

「シロ、行くぞ! ドリルを全開――吸わせるんじゃない、**『削り取って奪う』**んだ!」

誠の白銀のマブイが「水銀のドリル」へと集束する。アルバートが他者から強奪したエネルギーの「結び目」を、ドリルが粉砕。弾け飛んだ三人のマブイを、39号機は自機の推進力へと強引に再編コンパイルした。

「山口支部、速水誠! 泥沼から這い上がらせてもらいます!」

最終周回、第2マーク。

住之江の夜空に、一筋の白銀の閃光が走った。

蔦から解き放たれ、怒りに燃える西野の「爆炎」が内側を焼き、復帰した渡辺優子の剛腕ダンプが外を塞ぐ。誠の白銀は、その僅かな「針の穴」のような隙間へと吸い込まれていく。

ゴールライン直前。西野、誠、渡辺の三艇が、文字通り横一線に並ぶ。

エンジンは爆発寸前の悲鳴を上げ、マブイ石は臨界点を超えて眩い光を放った。

「いけぇぇぇ! 誠ぇぇぇ!!」

ピットからあおいの絶叫が響いた瞬間、39号機がシロとの完全同期によって、これまでにない**「白銀の瞬き」**を放った。

電光掲示板に映し出されたスロー映像。

誠の艇の先端が、西野の艇よりもわずか数センチ――まさに**「ハナ差」**だけ先にラインを越えていた。

「1着、速水誠! 山口支部の意地、聖地・住之江で結実!」

「……負けたばい。ガハハ、完敗たい!」

ピットに戻った西野は、悔しさよりも清々しさを湛えた顔で、誠のヘルメットを力いっぱい叩いた。

「誠、お前の『1,000』は、住之江の呪いすらも飲み込みおったな」

「……次は、もっと重いダンプぶち込んでやるからな」

渡辺優子も不敵に笑い、誠の健闘を称えた。

そこへ、検車場から飛び出してきた守屋あおいが、誠の胸に泣きながら飛び込んだ。

「バカ誠! 心配させないでよ……!」

「あおい……。皆の分まで、勝てたよ」

表彰式。

聖地の王座に座った誠の姿は、もはや「持たざる者」ではなかった。

異世界の留学生、高知の龍、そして福岡のポンコツ会。強大なライバルたちの力を受け入れ、再編し、己の力に変えていく**「因果転換」**の走法の完成。その姿に、カササギのライブ配信は過去最大の熱狂に包まれた。

影からそれを見守っていた大内胤賢が、小さく口角を上げた。

「おめでとう、誠。……でも、ここからが本当の地獄だぞ」


優勝:速水誠

MVP:西野貴志(ポンコツ会)

波乱:アルバート(植物属性の台頭)

第4章:嵐呼ぶ死闘・住之江激闘編、完

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