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浪速の説法と、1000のマブイの使い道

第25話:浪速の説法と、1,000のマブイの使い道

2028年7月10日(木):ボートレース下関・整備室

準優勝戦を翌日に控え、誠は一人、39号機のキャブレターを分解していた。坂田結衣に差し切られたあの衝撃が、指先をわずかに震わせる。

そこに、ずかずかと遠慮のない足音が近づいてきた。

「なんや、えらい真剣な顔してんな、誠くん」

顔を上げると、タオルを首にかけた坂田結衣が、ニヤリと笑って立っていた。

「坂田さん……。先日のレース、完敗でした。僕のチルト3.5、坂田さんには見え透いていたんですね」

「曲芸としては100点や。でもな、競艇は空を飛ぶ距離を競うもんちゃう。1マークを最短で回った奴が一番偉いんや。あんた、自分のマブイが少ないことを理由に、『外に逃げる』癖がついてへんか?」

坂田は誠の手からスパナをひょいと取り上げると、エンジンのマブイ導入部を指差した。

「あんたのコアマブイは1,000。明奈や私らと比べたらカスみたいなもんや。でもな、1,000しかないからこそ、『一点』に凝縮した時の貫通力は誰よりも高いはずや。あんたは今、その1,000を機体を浮かせるための『揚力』に広げすぎてる。だから懐がスカスカになるんや」

坂田は誠の目をじっと見据えまる。

「いいか、誠くん。明日の準優、一回だけでええから、飛ぶのを我慢してみ。その1,000のマブイを、機体の右舷、水面と接する**『エッジ』の一点**だけに注ぎ込むんや。そうすれば、あんたの3.5は『飛び道具』やなくて、最強の『刃』になる」

その時、誠の足元で眠っていたシロが目を覚まし、坂田の足元にトコトコと歩み寄った。

「おっ、この子が噂の。……ええマブイしとるな。あんたが一点に集中する時、この子が周囲のノイズを消してくれる。最高の相棒やないか」

坂田はシロの頭を豪快に撫で回した。シロもどこか嬉しそうに尻尾を振っている。

「……一点に、凝縮。ありがとうございます、坂田さん」

「礼はいらんわ。その代わり、準優でヘボいレースしたら承知せえへんで。明奈と一緒に、あんたをボコボコに沈めたるからな!」

【準優勝戦 第12R 出走表】

鎌倉 明奈(大阪):女王の誇り。

瓜生 俊樹(山口):ステルス。

速水 誠(山口):坂田の教え。

坂田 結衣(大阪):浪速の女傑。

守屋 あおい(岡山):執念の旋回。

神田 真琴(長崎):南国の風。


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