浪速の女傑、再起の眼光
第24話:浪速の女傑、再起の眼光
2028年7月7日(月):ボートレース下関・ピット展望室
誠が女王・鎌倉明奈を「飛び越えた」あの日、モニターに映るその衝撃的なシーンを、腕を組んで見つめる一人の女性がいた。
坂田結衣(51歳)。
大阪支部の重鎮であり、かつては数々のトップグレードを制した伝説の女性レーサー。そして、他でもない鎌倉明奈の師匠である。
「……あの子、ええ顔して走っとるわ。でも明奈、あんた、今の『ジャンプ』でちょっとビビったやろ?」
坂田は、豪快で姉御肌なオーラを放っています。最近は怪我の影響もありTGの舞台から遠ざかっていたが、弟子の敗北、そして「速水誠」という異質な才能の出現が、彼女の眠っていた闘争心に火をつけたのである。
レース後のピット。悔しさを隠しきれない明奈の前に、坂田が歩み寄る。
「明奈、何ぼーっとしてんねん。あんなチルト3.5の曲芸、一回見たら次は対策できるやろ。あんたの『静』のマブイは、そんな柔なもんか?」
「師匠……。申し訳ありません。でも、あの瞬間の気流が……」
「言い訳はええ! 明日の予選、私も走るわ。B1まで落ちても、腕は錆びてへんこと見せつけたる」
翌日の一般予選。坂田結衣は、51歳とは思えないキレのあるモンキーターンを披露。
彼女のマブイは、ベテランならではの「淀みのない水の流れ」。誠の爆発力とは対照的に、水面のわずかな隙間を縫うように機体を滑らせる技術は、まさに芸術品のようである。
「誠師匠! あのベテランの人の旋回、マジで無駄がなさすぎて『エグい』を通り越して『エモい』んだけど!」
一番弟子の野田あかりも、坂田の走りに目を輝かせる。
そして、2028年7月9日(水)ボートレース下関・TGマブイ開花賞 予選最終戦
誠の「空飛ぶチルト3.5」が話題をさらう中、下関の水面にはもう一つの「静かなる脅威」が潜んでいた。鎌倉明奈の師匠、坂田結衣。51歳にして「差しの坂田」の異名は健在である。
予選のメインレース。1号艇には、昨日の雪辱に燃える鎌倉明奈。3号艇に速水誠、そして6号艇の大外に坂田結衣が構えた。
「大時計、始動!」
誠は再びチルト3.5を最大噴射し、1マークで明奈の頭上を越えようと高く跳ね上がる。明奈もそれを察知し、マブイの壁を上空へ展開。誠と明奈、二人の天才による上空と水面の「高さ」を巡る攻防に、観客の目が奪われた。
しかし、その瞬間。
二人が火花を散らす1マークの最内、針の穴を通すようなわずかな隙間に、一筋の白い波紋が滑り込む。
「……若いのんが派手にやってる間に、お先に失礼するわ」
坂田のマブイは、派手さこそありませんが、水と機体の摩擦をゼロにする「極限の平滑化」を成し遂げていた。誠が跳ね、明奈がそれを防ごうと膨らんだ、その一瞬の**「マブイの空白地帯」**。
坂田はそこを、獲物を狙う蛇のように鋭く、そして音もなく差し抜けた。
「何っ!? いつ、そこに……!」
誠が着水した時には、坂田の機体はすでに1艇身、前を走っていました。
「……誠、見たか。あれが坂田さんの『差し』だ」
ピットに戻った後、瓜生俊樹が静かに言った。瓜生の「無」とはまた違う、経験に裏打ちされた**「急所を突く技術」**。
坂田はヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭いながら誠と明奈を呼び寄せた。
「明奈、上ばっかり見てどないすんねん。誠くんも、飛ぶことに夢中で『懐』がガラ空きや。勝負はいつだって、一番地味で、一番近い場所で決まるんやで」
誠は、坂田の圧倒的な「勝負強さ」に震えたのである。S級になり、チルト3.5で勝てるようになった自分がいかに慢心していたかを思い知らされたのだった。
現在のTGマブイ開花賞 状況】
1位:坂田 結衣(圧倒的な差しで得点率急上昇)
2位:速水 誠(チルト3.5の対策を練り直し中)
3位:鎌倉 明奈(師匠の檄に応え、マブイを再編)
圏外:野田 あかり(「坂田サン、マジで忍びの者っしょ……」と絶句)




