名門の誘い、そして山口の逆襲
第21話:名門の誘い、そして山口の逆襲
2028年5月:宮島競技場・ピット裏
誠の39号機を無慈悲に跳ね飛ばした堀尾大輔は、レース後、あえて誠を呼び出した。
「速水……貴様の『飛び』は面白い。だが、着水の瞬間にマブイが散っている。それでは次のターンで隙を晒すだけだ」
堀尾は、凹んだ誠の機体を一瞥して言う。
「……明日、俺の機体の整備を見に来い。名門がなぜ『重い』のか、その目で確かめろ」
「誠師匠をボコボコにしたくせに、何様っしょ!?」
鼻息を荒くするあかりを、瓜生俊樹が手で制した。
「……いや。あかり、これはチャンスだ。誠が堀尾さんの『重さ』を吸収すれば、チルト3.5は完成する」
瓜生自身も、G3初参戦ながら堀尾の背中を見て、自らの「無」のマブイをどう「実体化」させるか、そのヒントを掴もうとしていました。
翌朝、堀尾の整備ブースに現れた誠。その足元にはシロがいた。
「……ほう、それが噂のペキニーズか」
堀尾の厳格なマブイが、シロの穏やかな波動に触れ、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「速水、見ておけ。これが『堀尾家伝・定圧旋回』の根幹だ」
そして迎えたG3瀬戸内カップ 予選最終日
広島の帝王・堀尾大輔が圧倒的なパワーで首位を独走する中、宮島の電光掲示板を見つめる観客たちがざわめき始めた。得点率ランキング、その2位に「山口の無名」の名が刻まれていたから。
誠が堀尾のブースで「重圧」の真髄を学んでいる間、瓜生俊樹は淡々と、しかし完璧に着順をまとめていた。
1着、2着、1着、2着……。
派手な「チルト3.5」で注目を集める誠の影で、瓜生はマブイを一切出さない**「ステルス走法」**を極限まで研ぎ澄ませていたのである。
「……堀尾さんのダンプは、マブイの波動で相手を弾く。なら、マブイをゼロにすれば、弾く『的』すらなくなる」
瓜生の機体は、堀尾が作る巨大な引き波の中を、まるで水鳥のように滑らかに、誰にも気づかれずに潜り抜けていく。
「……何だと? あの山口の予備艇のような男が、俺のすぐ後ろにいるのか」
得点表を確認した堀尾は、初めて誠以外の若手に目を見開いた。55,000のマブイを持つ自分に対し、完全に「0」の男が並びかけてきている。
「實森、あの瓜生という男……何者だ。俺のレーダー(マブイ感知)に一度も引っかからなかったぞ」
弟子の實森ゆえも困惑気味。
「……瓜生さんは、誠さんの同部屋で。でも、ここまで静かに勝機を拾い続けるなんて、予想外です」
「ちょっと、俊樹サンが2位!? 誠師匠、のんびり教わってる場合じゃないっしょ!」
野田あかりが慌てて誠を急かすが、誠の隣で機体を見つめていたシロは、静かに瓜生が帰還するピットの方角を見つめていた。
「……わかってるよ、あかり。俊樹は、俺が堀尾さんの背中に必死に手を伸ばしてる間に、もうその懐に潜り込んでたんだ」
誠は瓜生の活躍を誇らしく思いつつも、相棒の「底知れない静かさ」に、心地よい寒気を感じていたのである。
宮島G3 予選得点率ランキング(暫定)
堀尾 大輔(広島):10.00(オール1着)
瓜生 俊樹(山口):9.50(ステルス連対)
速水 誠(山口):8.20(チルト3.5&堀尾の洗礼)
守屋 あおい(岡山):7.80(執念の備前旋回)




