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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第1章:学校編

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第2話:模擬レース

琵琶湖の「大宮機艇教習所」特設コース。

新入生にとって最初の試練となる模擬レースが幕を開ける。スタンドからは、縫合痕の刻まれた顔で、上田通彦校長が冷徹な眼差しで水面を見つめていた。

「第1班、ピット離れ!」

号令とともに、6隻の教習用ホバーが一斉に水面へと飛び出す。

山崎 征也の1号艇は、コアマブイ10000の圧倒的な出力により、水面を爆破するかのような加速を見せた。対照的に、速水 誠の6号艇(39号機)は、ガラガラと金属が擦れ合う異音を立て、最後方からのスタートを余儀なくされる。

「誠……やっぱりあのエンジンじゃ、ピット離れすらまともにできないの?」

2号艇の守屋 あおいがバックストレッチで誠の横を通り過ぎる際、一瞬心配そうに視線を向けた。

しかし、誠は冷静だった。

「……今だ。チルト0.5の『隙間』を見つけろ」

誠は、軸が歪んだ39号機の振動の周期に、自分の1000しかないマブイの波形をあえて同期させた。

ガタガタと震えていた機体が、ある一点でピタリと静まる。「異常振動」をマブイで相殺する、毒島譲りの精密調整だ。

待機行動を終え、大時計の針が動き出す。

1200mの短距離決戦。スタートラインを通過した瞬間、山崎の1号艇が早くも独走態勢に入った。

「悪いね、速水。君とは魂の格が違うんだ!」

山崎が第1ターンマークに差し掛かる。マブイを炎のように噴出させ、力任せに旋回しようとしたその時――。

大外から、一筋の銀光が飛び込んできた。

誠の6号艇だ。

「……遅いな、山崎」

誠はハンドルを切り込まない。代わりに、マブイを機体右側のスカートに一点集中させ、「チルト0.5」の機首の低さを利用して、水面をえぐるように突き刺した。

今村豊が生み出した伝説の技術。減速せず、むしろ旋回中にマブイの噴射を最大化させる「全速旋回」。

「なっ……あんな角度で、弾かれずに回れるわけが……!」

山崎の目の前を、誠の39号艇が最短距離の「差し」で切り裂いていく。

しかし、立ち上がりで山崎の「マブイ量」が再び誠を圧倒する。

「技術がなんだ! 出力でねじ伏せる!」

山崎の機体が、再び誠の背後に迫る。1800mのロングコースであれば誠の調整力が勝るが、ここは短い1200m。

「……だったら、これしかない」

誠はタブレットを叩き、走行中に**「仮想チルト3.0」**の設定へとマブイを強制変換した。

菅文哉が求めた、極限の「伸び」。

39号機のボイラーが悲鳴を上げ、蒸気が漏れ出す。誠の腕に、激しい金属耳鳴りが突き刺さる。

「くっ……顔が剥がれるよりは、マシだろ!」

上田校長のあの言葉を叫びながら、誠は残りのマブイすべてをタービンに注ぎ込んだ。

歪んだ軸が千切れそうになりながらも、39号機は最後に一度だけ「咆哮」を上げ、ゴール板の直前で山崎の機体をハナ差だけ抜き去った。

レース後、ボロボロになった39号機とともにピットに戻った誠。

そこには、腕を組んで待つ上田校長の姿があった。

「校長……39号機、壊してすみません」

誠が頭を下げると、上田は縫合痕のある指で、誠の震える腕を指差した。

「……今の旋回、誰に教わった」

「ビデオで見ました。校長の現役時代の……最短軌道を」

上田はわずかに目を細めた。

「……あれは私が『マブイの糸』で水面を縫っていた時の走りだ。だが、お前はそれ以上に危うい。機体の悲鳴をマブイで押さえ込むなど……一度顔が剥がれる経験をしたいようだな」

厳しい言葉。だが、上田は最後にポツリと付け加えた。

39号機の軸を直しに来い。……瓜生と一緒にだ」

上田校長の言葉に、誠と瓜生は顔を見合わせた。それは単なる居残り練習の指示ではない。自分たちの「持たざる者なりの戦い方」を、あの不死鳥が注視し始めたという宣言だった。

「……はい、校長!」

誠の震える腕には、まだ39号機の異常振動の余韻が残っていた。だが、その痛みこそが、山崎征也という「天才」を一度でも上回った証。

山崎は悔しげに唇を噛み、守屋あおいは安堵したように息を吐く。

琵琶湖に夕闇が迫る中、彼らの本当の地獄——卒業までの過酷な日々が幕を開けた。




ついに次回は卒業試験。誠はあえてチルトを3度まで上げて挑みます。伸びがかなりつきますがその結末はいかに?

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