表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/193

第183話:「静」と「動」のプレッシャー

2031年9月20日。岡山県、備前競艇場。

九月の午後の日差しが、徹底的に磨き上げられた「完全静水面」に反射し、まるで巨大な水晶の板のように輝いている。観客席を埋め尽くした数万の群衆は、異様なまでの熱気に包まれていたが、その中心にあるピットには、凍り付くような静寂が支配していた。

今、幕を開けるのは**『SG最速機兵決定戦スプリント』**。

通常のレースが「航跡の物語」であるならば、このスプリントは「一瞬の爆発」である。助走距離は極端に短く設定され、ターンマークまでの距離も通常より短い。そこでは、戦略を練る時間も、相手の出方を伺う余裕も存在しない。あるのは、静止状態から時速百キロオーバーまで、いかに早く到達するかという「加速の純度」のみ。

一号艇、速水誠。四冠の重圧を黄金の翼に変えた男。

二号艇、大内胤賢。山口が誇る最速のSS級、冷徹なる天才。

二人の怪物が、今、スタートラインの遥か手前で、それぞれの「機獣」を唸らせていた。

「スプリントは、最初の十メートルで全てが決まるっす。シロ、心臓を機体と完全に同期させるっすよ。一ミリのズレも許されないっす」

誠の声は、自分自身に言い聞かせるように低く、鋭い。膝の上のシロは、黄金のマブイを体毛の先まで巡らせ、心拍数を39号機のエンジンのピストンサイクルと完全に一致させている。

対する二コースの大内胤賢は、ヘルメットの中で冷ややかな笑みを浮かべていた。彼の駆る「ソニック・アロー」は、山口支部が総力を挙げて開発した、合理的かつ冷徹な加速特化型機体。

「速水くん。君の黄金は美しいけれど、僕の『最速』で塗りつぶしてあげるよ。競艇は、速い者が正しいんだ」

二人のマブイが水面でぶつかり合い、静かな備前の水面に細かな同心円状の波紋を描き出した。


「師匠! プロペラの回転数、レッドゾーン一歩手前っす! 蔵野家の高周波振動、全開で行くっすよ!!」

ピットのモニター越しに、野田あかりが叫ぶ。彼女がこの日のために徹夜で調整し続けた秘密兵器**「金属性クロノ・スプリンター」**。それは、プロペラそのものを微細に高周波振動させることで、水分子との間に「キャビテーションの膜」を意図的に作り出し、物理的な摩擦をゼロにするという禁断の技術だ。

「あかり……信じてるっす。このプロペラが、俺を光の速さへ連れて行ってくれるはずっす!」

誠は全速レバーを握りしめた。

通常のレースなら、マブイを温存し、後半の競り合いに備えるのが定石だ。しかし、このスプリントに「後半」など存在しない。スタートの瞬間、全ての魂を燃やし尽くし、一気にトップスピードへ乗らなければ、二度と背中を拝むことすら叶わない。

「シロ、三、二、一……行くぞ!!」


「大時計の針が動く! 備前SG最速機兵決定戦、第一レース……スタートォォ!!」

その瞬間、備前競艇場の空気が「爆発」した。

「なっ、これは……!? 1号艇、2号艇、完全なロケットスタートだぁぁ!!」

大村での「6コース・チルト3度」による伸びとは、明らかに質が違った。それは、静止していた質量が、一瞬にして光り輝く弾丸へと変貌するような、超次元の立ち上がり。

誠の39号機は、あかりが仕込んだ高周波振動により、水面との摩擦を完全に消失。ボートは水の上を走っているのではなく、氷の上を滑るレーザーのように加速していく。

一方、大内胤賢もまた、常人には制御不能なコアマブイ50,000という圧倒的な出力を、一点のロスもなく「ソニック・アロー」のプロペラに伝達。

ドォォォォォォォォォン!!

スリットラインを通過した瞬間、二人の艇から放たれた衝撃波マブイ・プレッシャーが物理的な壁となって周囲を薙ぎ払った。横を走る3号艇以下は、その圧倒的な圧力に弾き飛ばされ、一瞬にして後方へと置き去りにされる。

「誠と大内、スリット通過タイムは……驚異のコンマ00!! どちらもフライングなし、極限のタッチスタートだ!!」

実況の絶叫が、どよめく観衆の声をかき消した。

第四章:スリット後の「一騎打ち」 ―― 黄金と蒼の閃光 ――

1マークまでのわずか150メートル。

それは、からくり競艇の歴史において最も濃密な、数秒間の戦いとなった。

誠の「黄金の輝き」と、大内の「蒼い閃光」が、備前の静水面を左右に二分して切り裂く。

大内はSS級特有の精密なマブイ制御で、誠の懐を殺し、ターンマークの手前で封じ込めようと画策する。そのプレッシャーは、誠の視界を蒼く染めるほどの重圧だ。

「負けないっす……! この初速、あかりが、あいつが徹夜で削り上げたプロペラの結晶っす!!」

誠は金属性パーツから伝わる凄まじい反動を、逃がすのではなく、あえて「足の溜め(バネ)」へと変換した。振動が激しさを増すほど、39号機は二次加速を繰り返し、さらに速度を跳ね上げていく。

(フゴォォォォォォォォォン!!)

シロの咆哮がマブイを黄金の炎へと変え、39号機を包み込む。

もはやそれは艇ではない。大村で鷲となった誠は、ここ備前では、一直線に獲物を貫く**「黄金の弾丸」**へと進化したのだ。


からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【最速の証明】誠vs大内、伝説の0.00スタート! 備前の水面が二人の放つ衝撃波で爆ぜ、カメラが振動で悲鳴を上げる! 累計PVは一気に16億5,000万を突破!! 物理学者が「あの加速は相対性理論を超えている」とツイートし大炎上中!!

>

【予選第1R:1マーク進入時の情勢】

| 艇番 | レーサー | 状態 | 備考 |


| 1 | 速水 誠 | 黄金の弾丸 | 高周波振動により摩擦ゼロ。1マークへ最速到達。 |

| 2 | 大内 胤賢 | 蒼い閃光 | コアマブイ5万の暴力的な加速。誠と並走。 |

| 3 | 安貞 雄一 | 追走不能 | 二人の引き波に飲まれ失速。 |

| 4 | 平野 菜奈 | 観戦状態 | 「速すぎて見えない……」と絶句。 |

第六章:宿命の旋回、開始

「誠と大内、ほぼ同時に1マークへ到達!! 誠の『黄金・旋風』か、大内の『超速差し』か! 備前の静水面が、二つの魂に引き裂かれる!!」

二人のロケットスタートが生み出した巨大な引き波により、3位以下の艇は視界を奪われ、完全にレースから脱落した。ここからは、選ばれし二人の怪物による、純粋なスピードの殺し合いだ。

「師匠! そのまま、プロペラが砕けるまで回すっす!! 蔵野家の誇り、ここで見せてやるっすよ!!」

あかりの叫びがピットに響き渡る。

誠はハンドルを切り込み、膝の上のシロと共に、Gの嵐の中に身を投じた。

五冠へ向けた最初の旋回。

黄金の弾丸が、蒼い閃光を切り裂くべく、1マークの深淵へと突き刺さった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ