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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

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第172話:黄金の三冠王、そして備前の風に誓う愛 ― 大団円 ―

尼崎競艇場の夜空を貫くカクテル光線が、黄金に染まる水面を狂おしく照らし出す。「大宮橋右衛門杯」優勝戦、最終周回第2マーク。

「大峰が来ている! 大峰が来ている!! 佐賀の絶対王者・大峰幸太郎、残されたマブイを全弾装填! 噴煙の龍となって速水誠の背中を捉えたぁぁ!!」

実況の絶叫が、地鳴りのような歓声にかき消される。

バックストレッチ、1号艇・速水誠のわずか半挺身後ろ。3号艇・大峰幸太郎の機体からは、水面を焦がすほどの黒銀のマブイが溢れ出し、物理的な圧力となって39号機を押し潰そうとしていた。

「若造……三冠の重み、その身に刻んで散るバイ!!」

大峰の咆哮と共に、彼の放つ『奥義:噴煙・不動明王』が誠の視界を真っ黒に染め上げる。

誠の鼓動が速まる。三冠まで残り数十メートル。だが、その数十メートルが、永遠の奈落のように遠く感じられた。

(重い……体が動かない……)

プレッシャーと大峰の闘気に当てられ、誠の指先がわずかに震える。

その時だった。

「フゴォォォォォォォォォォン!!!」

膝の上で、黄金の獅子と化したシロが、尼崎の夜を切り裂く咆哮を上げた。

その咆哮は、誠の心に直接流れ込む。

そこには、徹夜でグリスまみれになりながら「師匠、勝ってこいっす!」と笑ったあかりの顔があった。

準優勝戦で身を挺して道を切り拓いた瓜生の、無色の背中があった。

そして、今、自らの「氷」で誠を守るように背後に壁を作り、大峰の噴煙を食い止めているあおいのマブイの温もりがあった。

「……負けない。これは俺一人の勝利じゃない……俺たちの、三冠だ!!」

誠が覚醒した。

彼が39号機のスロットルを底まで踏み込むと、蔵野家伝来の金属性補強パーツが黄金マブイと120%の共鳴シンクロを起こした。

機体全体がまばゆい「光の矢」へと変貌する。

噴煙を斬り裂き、重力を置き去りにし、39号機は次元を超えた加速でゴールラインを突き抜けた。

「速水誠、三冠達成!! 江戸川、備前、そして神戸! 24歳にしてトリプルクラウンの称号を手にしたぁぁぁ!!」

その瞬間、尼崎競艇場の時計塔の封印が解かれた。

数万匹の「整備蛍せいびぼたる」が夜空へと放たれる。

からくり技術の結晶である光の虫たちが、夜の神戸を黄金色の絨毯で埋め尽くし、新王者の誕生を祝福するように舞い踊った。

2. 氷の女王の「全速プロポーズ」:衝撃の1マーク

ピットに戻ってきた39号機。

誠はヘルメットを脱ぎ、溢れる涙をグローブで拭った。

「あかり……やった。シロ、俺たち勝ったんだ……」

観客の歓声、フラッシュの嵐。

その喧騒を割って、一艘の機体が荒々しく接岸した。2着。死闘を繰り広げた守屋あおいである。

彼女は機体から飛び降りるなり、誠に向かって真っ直ぐに歩んできた。まだ防護服からは氷のマブイが蒸気となって立ち上り、彼女の顔は怒っているのか照れているのか判別不能なほど真っ赤に染まっている。

「誠くん……」

「あ、あおい! ありがとう。あおいさんの援護がなかったら、俺……」


西野も、児玉も、整備の手を止めたあかりも、そして敗北した忠志さえもが息を呑んで二人を見つめる。

あおいは、誠の胸ぐらをグイと掴み、至近距離までその顔を寄せた。

「三冠、本当におめでとう。……でも、私の心は、誠くんが三冠獲るまでずっと凍りついたままだったっす。……わかる?」

「えっ、えっと……」

「誠くんが三冠獲ったら、一番に言おうって決めてた。……私を、速水誠の『専属ペアボート』にしてほしい! つまり……私と、結婚してください!!」

一瞬、尼崎競艇場に完全な沈黙が訪れた。

そして一秒後、爆発したような歓声が沸き起こった。

「えっ……ええええええええええええっ!? け、結婚!?」

「返事は『ハイ』か『イエス』!! 優勝戦の1マークの差しよりも鋭い返事を聞かせてほしいっす!!」

あおいの瞳には、どんな機獣の襲撃よりも強い覚悟の光が宿っていた。


誠は顔を火が出るほど赤くし、しどろもどろになりながら助けを求めるように足元を見た。

そこには、あおいの愛犬ヘラ(ポメラニアン)と、いつの間にか仲良く鼻を寄せ合って寄り添うシロの姿があった。

シロは誠を見上げ、「フゴッ(いい加減、腹を括るっす)」と、どこか呆れたように、しかし慈愛に満ちた声で鳴き、誠の膝を鼻先でポーンと押した。

誠は覚悟を決めた。

目の前の、氷のように冷徹で、誰よりも熱い情熱を持つ女性の手を、そっと握り返した。

「……あおい。俺、不器用で、からくりと犬のことしか頭にないバカっすけど……あおいさんの隣が、一番落ち着く。……三冠だけじゃなく、俺の人生の1マークも、一緒に旋回してほしい。……よろしくお願いします!!」

「……っ、バカ……遅すぎるよ、誠!!」

あおいが誠の胸に飛び込み、二人は整備蛍の光の中で強く抱き合った。

その瞬間、神戸競艇場はこの日一番の、震天動地の大歓声に包まれた。

4. カササギPV更新:十二億の伝説

「歴史が変わった!! 記録が、そして愛が、神戸の夜を塗り替えたぁぁ!!」

からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV最終更新

> 【奇跡のダブル冠】速水誠、三冠達成&公開プロポーズ受諾! 黄金の龍と氷の女王、ついに一対の翼へ! 累計PVは驚愕の12億を記録!! 競艇の歴史、ここに完結し、新たなる神話が始まる!!

>

【大宮橋右衛門杯・最終総括】

| 称号 | 受賞者 | 状態 |

| 三冠王者(からくり王) | 速水 誠 | 伝説達成。伴侶もゲット。 |

| 最強の伴侶 | 守屋 あおい | 最速プロポーズ成功。氷解。 |

| 最高傑作メカニック | 野田 あかり | 「歴史的ハイライトっすー!」と号泣中。 |

| 名誉ある敗者 | 大峰 幸太郎 | 「若者には勝てんバイ……」と笑顔で隠居示唆。 |


「おい、行くバイ!! 三冠王と花嫁のダイブバイ!!」

西野貴志が豪快に笑いながら、誠とあおいを抱え上げた。

「披露宴のダンプは勘弁してやるが、水神祭のダンプは逃さんけんね!!」

瓜生俊樹も、ボロボロの体でパスタを抱きながら、優しく微笑んでいた。

「せーのっ!!」

ドボォォォォォォン!!

尼崎の静水面に、二人の王者と、二匹の犬が飛び込んだ。

黄金の蛍が舞い、カクテル光線が輝く中、誠は水中であおいの手を固く握りしめた。

からくり競艇。それは魂と機械のぶつかり合い。

しかし、最後に歴史を動かしたのは、誰よりも強く相手を想う「マブイ」だった。


これにて、大団円。

「あおい、大好きだ!!」

「私も、誠!!」

尼崎の夜空に、黄金の龍と氷の鳳凰が、仲睦まじく舞い上がった。



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