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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

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第166話:ドリーム戦、三つ巴の極限地帯 ― 爆炎・大群・黄金 ―

2030年8月1日、午後20時30分。兵庫県・尼崎競艇場。

「大宮橋右衛門杯」初日、最終12レース。

全国のからくり競艇ファンが、そして世界中の5億人を超える視聴者が固唾を飲んで見守る中、その瞬間は訪れようとしていた。

昼間の熱気がまだ残るピットには、オイルとマブイの焦げるような香りが漂っている。神戸の夜空を貫くカクテル光線が、鏡のような尼崎の「静水面」を白く照らし出す。だが、その滑らかな水面下には、大宮家が仕掛けた無数の「マブイ糸」が、獲物を待つ蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。

「これより、初日ドリーム戦に出場する6艇がピットアウトいたします。……まさに神々の激突。三冠を狙う若き龍、迎え撃つ絶対王者、焼き尽くす爆炎、そして暗躍する虫の王。今、歴史が動きます!」

実況の絶叫と共に、爆音を響かせて6隻の機体が水面へと滑り出した。


ピット離れ。その瞬間から火花が飛び散る。

3号艇の大宮忠志が、昼間の屈辱を晴らすべく猛烈な前付けを狙うが、それを2号艇の速水誠が黄金のマブイを噴射して阻止する。

「12レース、ドリーム戦! 1号艇は佐賀の絶対王者・大峰幸太郎! 2号艇、下関の英雄にして三冠を狙う速水誠! 3号艇、大宮家の矜持を賭けて復讐に燃える大宮忠志! そして4号艇、カドから全てを焼き尽くす福岡の爆炎・西野貴志!!」

誠の39号機は、カクテル光線を浴びて、以前とは違う、どこか「瑞々しい」輝きを放っていた。

昨夜、野田あかりが不眠不休で施した**『黄金の防虫バグ・シールドコーティング』**。それは単なる装甲の強化ではない。大宮家の虫たちの付着を防ぎ、同時に敵のマブイ干渉を撥ね除ける、あかりの執念が結晶化した「絶縁層」であった。

「師匠……聞こえるっすか? コーティングの定着率は100%、マブイ伝導率も理論値通りっす。西野さんの炎も、大宮さんの虫も、今の師匠には指一本触れさせないっすよ!」

無線越しに届くあかりの声は、極度の疲労を感じさせながらも、確固たる自信に満ちていた。

誠はコクピットで深く頷き、隣の3号艇・忠志を、そして4カドに構える西野を鋭い眼光で捉えた。

(あかり……信じているっす。お前の磨き上げたこの翼で、俺は空を支配するっす!)

2. スリットの爆発、そして「炎の壁」

「大時計、始動! 全艇、凄まじいマブイの集束! ……3、2、1、スタートォ!!」

号砲と共に、1マークへと向かう6艇が横一線に並ぶ。

だが、その均衡を破ったのは4コース、福岡の会長・西野貴志だった。

「若造共がちょこまかと……纏めて地獄の業火で消毒バイ!!」

西野の機体がコンマ01という、針の穴を通すような弾丸スタートを決める。そのまま内側の艇を飲み込むように、強烈な絞り捲りを仕掛けた。

西野の放つ**『奥義:爆炎・業火絨毯』**が水面を覆い尽くし、尼崎の静水面は一瞬にして沸騰した地獄へと変貌する。

吹き荒れる熱風と、視界を遮る赤い炎。

本来ならば、この熱量だけで機体の冷却系はパンクし、パイロットは意識を失うはずだった。

しかし、誠の39号機は違った。あかりが施したコーティングの表面が鏡のように炎を反射し、機体内部の温度を一定に保つ。誠は炎の渦中でも、冷静にスロットルを握り続けていた。

「させるかよ、速水誠! コーティングごと、バラバラにしてあげましょう!」

そこへ、炎の隙間を縫うように、大宮忠志が3号艇から禁忌の戦術を放つ。

『寄生蜂・自爆特攻カミカゼ』。

数百匹のからくり蜂が、熱を遮断された誠の機体を目がけて一斉に突撃。接触と同時に爆発し、コーティングに物理的な亀裂を入れようと試みる。

3. 三つ巴を断つ「陽炎スカイハイ」

炎と虫、そして内側で踏ん張る絶対王者。

1マークは、もはや競艇のそれではなく、マブイと技術が交錯する異次元の戦場となっていた。

「佐賀の意地、見せちゃるバイ!!」

1号艇・大峰幸太郎が、沸騰する水面をものともせず、超人的な体幹で機体を抑え込み、インから強引な先マイを放つ。しかし、水面は西野の爆炎によって水蒸気が爆発的に発生し、機体の姿勢を維持するための浮力が失われる「キャビテーション(空洞現象)」が発生。大峰の艇さえも、わずかに外側へ流される。

全艇がバランスを崩し、沈没の危機に直面したその瞬間――。

「……シロ、今っす!! この『熱』を喰うっすよ!!」

(フゴォォォォォォォォォォン!!!!!)

誠の膝の上で、シロが天を仰いで咆哮した。

黄金のマブイが最大出力で解放される。だが、誠はそれをただの推進力にはしなかった。

彼は、西野が作り出した猛烈な「上昇気流」と、水蒸気が生み出す気圧の差を瞬時に計算。あかりのコーティングによって空気抵抗が極限まで抑えられた翼が、その気流を完璧に捉えた。

『奥義:黄金・陽炎かげろうスカイハイ』!!

39号機は、沸騰する水面を力強く蹴り、これまでにない超高度へと舞い上がった。

西野の爆炎を「上昇気流」という追い風に変え。

大宮の虫を「手の届かぬ眼下」に置き。

大峰の絶対的なイン戦を、その「頭上」から。

カクテル光線の下、黄金の残光が夜空に一筋の虹を描く。

誠は、混沌とする1マークの全てを、文字通り「超越」して飛び越えた。


「誠、出たぁぁぁ!! 地獄の1マークを飛び越え、黄金の陽炎となって独走態勢!! これが、これが山口の、そして世界の速水誠だぁぁ!!」

からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV最終確定

> 【神・ドリーム戦】速水誠、爆炎と虫の群れを逆手に取った『陽炎』で全艇を圧倒! 驚異の三冠ロード、尼崎にて本格始動!! 累計PVは驚愕の7億を突破!! サーバーは物理的に崩壊寸前!!

>

【ドリーム戦・12R最終結果】

| 順位 | レーサー | 支部 | 戦評 |

| 1着 | 速水 誠 | 山口 | 爆炎を利用した超高度旋回。コーティングの効果絶大。 |

| 2着 | 大峰 幸太郎 | 佐賀 | 混乱の極みで2位を死守。王者の底力。 |

| 3着 | 西野 貴志 | 福岡 | 「俺の炎を羽ばたきに変えるとは……末恐ろしかバイ!」 |

| 4着 | 大宮 忠志 | 滋賀 | 「……あのメカニック、計算済みでしたか」 |


レース後、ピットに戻ってきた誠を待っていたのは、涙で顔をくしゃくしゃにした野田あかりだった。

「師匠!! 100点……いや、10,000点満点の『陽炎』だったっす!! あかりの整備、間違ってなかったっすね……。ギャル的にマジで歴史変えちゃったっすよ!!」

誠はコクピットから降りると、あかりの煤けた右手に力強くハイタッチを返した。

「あかり、ありがとうっす。お前が磨いてくれたから、俺は炎を熱いと思わずに飛べたっす」

師弟の絆が尼崎の夜に温かく灯る一方で。

ピットの隅、闇に沈む大宮家のブースでは、忠志が自らのタブレットに表示された、誠の機体の「防御データ」を忌々しげに眺めていた。

「……いいでしょう。通常の虫が効かぬというのなら、こちらも家門の誇りを捨て、古の封印を解かざるを得ませんね」

忠志の背後で、巨大な、それこそ機体一つを丸呑みできそうなほどの「影」が蠢いた。

それは、かつて大宮橋右衛門が「制御不能」として封印した、伝説のからくり機獣。

「……明日は、**『からくり機獣・大ムカデ』**を解禁します。速水誠、あなたの黄金、その百足むかでの足ですべてバラバラにして差し上げましょう」

闇の中から、無数の節足が擦れ合う、不気味な金属音が響き渡った。

三冠への道。誠の前に、真の「絶望」が鎌首をもたげようとしていた。

「シロ、明日も……頼むっすよ」

(フゴッ!!)

誠は夜空に光る月を見上げ、明日のさらなる死闘を覚悟した。


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