第16話:二人の虎、吠える
第16話:二人の虎、吠える
2028年1月25日(日)、ボートレース下関・ピット裏。
山口支部の若手たちが一堂に会する中、ゲストとして招かれていた九州の二大巨頭――大峰幸太郎と西野貴志が、速水誠の39号機の前で火花を散らしていた。
「だーかーら! 西野さん、あんたの教え方は雑すぎっとよ! 誠くんみたいな繊細な子は、ウチの『愛の旋回』で育てるのが一番ばい!」
大峰が泣きそうな顔で西野に詰め寄る。一方、西野はマブイ計26,000をパチパチ放電させながら一歩も引かない。
「何ば言いよるか、大峰さん! 誠に必要なのは、外からまとめて飲み込む『強襲の魂』たい! 4カドの極意を教えられるのは、この俺しかおらんと!」
二人のSG級レーサーが合計10万を超えるマブイ圧をぶつけ合うため、真冬のピットは陽炎が立つほどの熱気に包まれた。
誠が仲裁に入ろうとするも、「あの……お二人とも、俺は山口支部ですし、自分なりに……」と熱量に弾き飛ばされる。
新入りの野田あかりはスマホで自撮りしながら「誠先輩、これマジでウケるんだけど! 九州のトップ二人が先輩の取り合いとか、エモすぎて死ぬ!」と大はしゃぎ。
神田真琴は「誠さんは私と同じ長崎支部に来るべきですよ〜!」と腕を掴み、守屋あおいはペラ調整用のハンマーをミシミシ鳴らして不機嫌そうに睨む。
その時、誠の足元で昼寝をしていたシロが立ち上がった。
「……バウッ!!」
短く吠えた瞬間、周囲の過熱したマブイが一気に浄化され、絶対零度の静寂が訪れる。
大峰も西野も思わず口を閉じ、「およよ……シロちゃんに怒られてしもうたね」「ああ。俺たち、大人の余裕がなかばい」と肩を落とした。
静まり返ったピットで、瓜生俊樹が淡々と言った。
「……誠は、誰の弟子にもなりません。俺と誠で、新しい山口の時代を作る。……そうだな、誠?」
「……ああ。俊樹の言う通りだ」
誠は改めて、大峰の「愛」も西野の「強襲」も、自分のわずか1,000のマブイに最適化して取り込む覚悟を決めた。




