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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

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第157話:泥の執念、2位への航路 ― 準優勝戦11R・死闘の2マーク ―

2030年5月12日、夕刻。岡山・備前競艇場。

準優勝戦第11レースは、誰もが予想しなかった衝撃的な展開を迎えていた。

絶対王者・大峰幸太郎が放った「不知火噴煙」は、1コースの速水誠を物理的にも精神的にも完全に粉砕し、大峰はもはや独走態勢を築いて霧の彼方へと消えていた。

しかし、この「万衆衆魂祭」において、優勝戦への切符を掴めるのは上位2名のみ。

誠の目の前には、霧散した黄金のマブイの残香を嘲笑うかのように、巨大な漆黒の「壁」が立ちはだかっていた。愛知の老練なるベテラン、児玉大学である。

誠にとって、この2着争いは単なるレースの着順以上の意味を持っていた。それは、師匠としての矜持、三連覇への野望、そして何より――昨夜、守屋あおいと交わした「デートの約束」という、一人の男としての重い誓いを繋ぎ止めるための死闘であった。


「若いの、色恋に現を抜かすのは勝手だが……この備前の水面は、そんなに甘くないぞ。魂が浮ついていては、瀬戸内の泥に呑まれるだけだ」

児玉大学の駆る機体が、内側から鋭い角度で誠の39号機を圧迫する。

児玉は最新型の「外付け高出力マブイ・デバイス」を搭載しており、そのカタログスペックは**「70,000」**という圧倒的な出力を誇る。誠の純粋なコアマブイ数値は、測定上わずか「1,000」。

技術で補おうにも、バックストレッチの直線ではエンジンの地力が如実に現れる。70倍のパワー差に、39号機は喘ぎ、じりじりと引き離されていく。

「くっ……パワーが違いすぎる……! 直線で並ぶことすらできないなんて……!」

誠の焦りが、ステアリングを握る指先から機体へと伝わる。同調シンクロが乱れ、39号機が「やめてくれ」と悲鳴を上げるように激しく振動した。

焦れば焦るほど、機体は水面を叩き、失速する。前方を行く児玉の引き波が、誠の視界を泥色に塗りつぶしていく。

(……このままじゃ、あおいさんに顔向けできないっす。約束したのに……『勝って美味しいものを食べる』って、あんなに格好つけて言ったのに!!)

誠の脳裏に、夕焼けの中で顔を真っ赤に染めながら自分を見つめたあおいの瞳が浮かぶ。

その瞬間、誠の膝の上で、これまで沈黙を守っていた相棒が動いた。


「1位は大峰、独走! 問題は歴史に残る2位争いだ、児玉か、誠か!? 誠、ここで勝負に出た! チルト3.5の浮遊特性を捨て、児玉の猛烈な引き波のど真ん中に突っ込んでいく!!」

実況の声が裏返る。

誠は自らのアイデンティティである「スカイ」を捨てた。高く飛べば、児玉のマブイ出力が放つ風圧で場外まで吹き飛ばされる。ならば、泥にまみれ、水底ギリギリの最短距離を征くしかない。

「フゴォォッ!!」

シロが、かつてないほど鋭く、鼓膜を震わせる声で叫んだ。

シロは、誠の耳元に濡れた鼻を押し付け、テレパシーを介して児玉の機体が発する「マブイの周期」を伝えた。70,000の出力は強大だが、それゆえに一定のリズムで「出力の谷間」が生じている。児玉自身も制御しきれていない、極微細な揺らぎ。

「……見えた。シロ、あそこだね!!」

二周目、最終コーナー。

児玉が勝利を確信し、最短航跡をなぞろうとした一瞬。強大すぎるマブイの影響で、児玉のターンがわずか数センチ、外側へ膨らんだ。

誠は39号機の全エネルギーを、左側の噴射口から右側へ一気にバイパスさせた。

黄金のマブイを機体全体に纏わせるのではなく、プロペラの翼端だけに超高密度で圧縮する。

『奥義:潜水・スカイハイ』!!

高く飛ぶための翼を、水面を深く切り裂くための「鎌」へと変える。

誠の39号機は、児玉が作り出した巨大なマブイの激流の「隙間」へ、針の穴を通すような精度で潜り込んだ。水面下数センチの、気泡さえ立たない絶対静寂のライン。

児玉がハッとした時には、泥の中から飛び出した黄金のトビウオのように、誠の鼻先が児玉の機体の前に突き出ていた。


「速水誠が、出た!! 泥の中から黄金が舞い上がったぁぁ!! 児玉大学の猛追を、シロとの絆による精密旋回で振り切ったぁぁ!!」

最後の直線。誠は残されたマブイを振り絞り、児玉の再加速を抑え込む。

1着、大峰幸太郎。

そして、そのわずか1秒後。

「2着……滑り込んだのは、速水誠だぁぁ!!」

カササギPVは、誠の執念の2位確保に、4億を突破する勢いでカウンターが回る。

ピットに戻ってきた誠は、エンジンを切ると同時に、極度の緊張とマブイの過剰消費により、そのままコクピットの計器類の上に突っ伏した。

ヘルメットの中で、荒い呼吸音が響く。

「……勝った……勝ったっすよ、シロ……。これで……デートに……」

シロが「フゴッ」と安堵の吐息を漏らし、誠の頬を舐める。

ピットでは、競技委員に止められながらも最前列まで駆け出した守屋あおいが、安堵のあまり膝から崩れ落ち、涙を浮かべていた。

「誠……バカっ。あんな無茶して……心臓が止まるかと思ったよ……!」


からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【薄氷の進出】速水誠、児玉との死闘を制し2着! 大峰幸太郎、速水誠、そして準決10Rを制した守屋あおい……ついに優勝戦の役者が揃う! 恋、プライド、三連覇。全ての感情が備前の水面に集う!!

>

【準優勝戦・11R最終結果】

| 順位 | レーサー | 支 部 | 決まり手 |

|---|---|---|---|

| 1着 | 大峰 幸太郎 | 佐賀 | 捲り |

| 2着 | 速水 誠 | 山口 | 差し |

| 3着 | 児玉 大学 | 愛知 | |

夕闇が備前を包み込み、カクテル光線が灯る。

ピットボードには、明日の優勝戦、全宇宙が注目する「六人の戦士」の名が掲出された。

【万衆衆魂祭・優勝戦、枠順確定!】

* 1号艇:大峰 幸太郎(佐賀) ―― 佐賀の龍王。盤石のイン逃げを狙う。

* 2号艇:守屋 あおい(山口) ―― 氷の女王。誠への想いを力に変える。

* 3号艇:速水 誠(山口) ―― 黄金の新人。三連覇とデートの二冠を狙う。

* 4号艇:鎌倉 明奈(大阪) ―― 浪速の猛女。岡野を射止めるための旋回。

* 5号艇:岡野 銀太(愛知) ―― 恋の新人。女王の誘いに応えるための覚醒。

* 6号艇:石田 健太郎(東京) ―― 夜の帝王。不気味な無音の旋回で全てを奪う。

あおい、誠、岡野、鎌倉……四人の「愛と執念」を、絶対王者の大峰と夜王の石田がどう裁くのか。

ピットの隅では、あかりが「これ、ギャル的に世紀の対決っす。サーバーが物理的に爆発しても知らないっすよ!」と、モニターを四つ並べて叫んでいた。

歴史が動く、優勝戦まで、あと24時間。


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