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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第7章:江戸川死闘編

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第146話:江戸川の咆哮、黄金のスタート ― マブイ開花賞優勝戦 ―

2030年4月23日、午後4時45分。

ボートレース江戸川を囲む堤防スタンドは、数万人の熱狂によって物理的に震えていた。

空は、沈みゆく夕陽の朱と、江戸川の濁流から立ち昇る白霧が混ざり合い、幻想的な「火の色」に染まっている。満開の桜が、強い川風に煽られて雪のように舞い散り、その一枚一枚が、これから始まる「生死を賭けた旋回」を祝福し、あるいは弔うかのように水面に降り積もる。

ファンファーレが鳴り響いた瞬間、空気は凍りついた。

6艇の機艇がピットを離れ、エンジン音が重低音の地鳴りとなって響き渡る。

「マブイ開花賞、優勝戦。ついに発走です。……これは、ただの競艇ではない。山口の黄金、佐賀の誇り、大阪の経験、遠江の極寒……全てが一つに混ざり合う、神話の誕生を目撃せよ!!」

実況の声は、すでに理性を超えた高揚感に包まれていた。


速水誠は、チルト3.5という極限の角度を維持したまま、静かにインコースへ機体を向けた。彼の背後では、ペキニーズのシロの紋様がかつてない輝きを放っている。その黄金の光は、艇の周囲にある泥水を、まるで聖水のように透き通った「真水」へと変質させるほどの浄化能力を発揮していた。

「誠くん、私についてきて……! あなたを一人にはさせない!!」

大外の守屋あおいが動いた。

彼女は、本来のコース取りを無視した超弩級の「前づけ」を敢行。強引に誠の隣、2コースの領域へ機体をねじ込んだ。山口支部の「黄金」と「氷」が内側に並び、鉄壁の陣を敷く。

しかし、それを許すほど「九州の壁」は甘くない。

3号艇、佐賀の絶対王者・大峰幸太郎が、愛犬ムネリンの咆哮に呼応するようにスロットルを開ける。

「誠くん、山口の勢いだけで江戸川は獲れんバイ!!」

大峰の機体から、特殊なマブイ燃料が燃焼した際に生じる「佐賀の特製煙幕」が放出され、視界を不気味な灰色に染め上げる。

さらに4号艇、遠江の「神」河合準が、冷やし中華のマヨネーズからヒントを得たという独自の「高粘度マブイ波動」を氷結させ、大峰の煙幕さえも「凍った壁」へと変えながら、独自の進路を築いていく。

進入予想は、163/245。あるいは、16/3425。

一触即発の緊張感の中、大時計の針が動き出した


「スタートまで、3秒……2秒……1秒!! 行ったぁぁ!!」

スリットラインを越えた瞬間、全観客が目撃したのは、物理法則を置き去りにした「跳躍」だった。

コンマ01。

速水誠が叩き出したのは、機械ですら計測不能なレベルの「ゼロ」に近いタッチ。

誠の39号機は、水面を蹴るのではなく、シロの咆哮と共に**「垂直に近い角度で真上へ」**飛び上がった!

「っ……速水くん、正気!? そのタイミング、その角度……自殺行為よ!!」

2号艇のベテラン・坂田結衣が叫ぶ。彼女はフレンチブルドッグ「小鉄」の嗅覚を研ぎ澄ませ、誠の機体が空中分解する未来を予見しようとした。しかし、誠の軌道に迷いはない。

誠の左側からは、3号艇の大峰幸太郎が『佐賀流・空中噴煙』を噴射し、誠の「空の翼」を視界から消し去り、その推力を奪おうと肉薄する。

さらに右側からは、4号艇の河合準が放つ「絶対零度の波動」が誠の機体を包み込む。

だが、河合の冷気は意外な効果を生んだ。

機体の表面温度が急降下したことで、空気分子が機体表面で整列し、空気抵抗が極限まで減少。誠の「空飛ぶ39号機」は、さらに加速を増して1マークへと突き進んだ。


スタート直後。1マークに向けて、誠、大峰、河合の三艇が、空中でぶつかり合うような「泥と氷と噴煙」の混沌を形成した。

「誠くん、今!! 私の氷の道に入って!!」

6号艇、守屋あおいが動いた。

彼女は自らの機体を、大峰と河合の進路を妨害するための「盾」として投げ出したのだ。

あおいの機体から放たれた**『奥義:氷壁の防盾アイス・シールド』**が、水面上に厚さ1メートルの「絶対零度の氷壁」を垂直に作り出す。

それは大峰の噴煙を物理的にシャットアウトし、誠が着水するための「清浄な氷の滑走路」を一時的に形成した。

「……あおいさん! 恩に着るっす!!」

誠は空中で機体をバンクさせ、あおいが作った氷の道へ向けて降下を開始。

だが、そこを最外から狙っていたのが、5号艇・西野貴志。

「甘い! ポンコツ会の限界、見せてやる!!」

西野が掟破りの全速捲り差しを狙うが、それを坂田結衣の**『小鉄・嗅覚差し』**が、まるで獲物の喉元を狙う猟犬のような精度で阻止しにかかる。


からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【衝撃のスタート】速水誠、コンマ01で空中へ完全跳躍! 大峰・河合の包囲網を、山口の絆が生んだ「氷の壁」が分断する!! 累計PVは驚異の3億8,000万を突破!! このまま山口が逃げ切るか!?

>

【優勝戦:1マークの激突情勢】

| 勢力 | 戦法 | 現状 |


| 速水 誠 | 黄金・泥杭(空中) | 空中から氷の滑走路へ向けて降下中。着水が鍵。 |

| 大峰 幸太郎 | 佐賀の噴煙 | あおいの氷壁に阻まれ、旋回軌道を修正中。 |

| 守屋 あおい | 氷壁の防盾 | 誠を守るために自身の進路を捨て、後続をブロック。 |

| 河合 準 | 氷結波(マヨ増し) | 氷壁をさらに補強(?)し、独自の3番手を確保。 |

| 坂田 結衣 | 嗅覚差し | 西野の強襲を察知し、最短距離で内を突く。 |


堤防の上では、あかりがメガホンを投げ捨てて絶叫していた。

「師匠ぉぉ!! そこで回ったら重心が死ぬっす! 墜落するっすよ!!」

あかりの隣で、瓜生俊樹が静かに、しかし力強く拳を握りしめていた。

「……いや。誠なら、あの氷の摩擦係数さえも計算している。あそこから、泥を掴む『着水』ができるはずだ」

誠は、ヘルメットの中で目を見開いた。

眼下には、あおいが作ってくれた氷の光。

横には、噴煙の中から強引に鼻先を突っ込んでくる大峰の機体。

誠はチルト4(仮定)のレバーをさらに引き抜き、シロと共に叫んだ。

「行くっすよ、シロ!! 黄金の泥を、江戸川に刻むっす!!」

誠の39号機が、氷壁を蹴って火花を散らしながら、泥の深淵へとダイブする。

優勝戦、伝説の旋回はここからが本番だった。



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