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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第7章:江戸川死闘編

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第141話:師弟の意地、無の波動 ― 7R・世代を超えた山口vs大阪決戦 ―

2030年4月22日、午後2時。

江戸川競艇場は、第5レースで原田ももが放った、氷の女王二人を泥に沈めるという「もも色ドロ沼ターン」の衝撃から、未だ冷めやらぬ熱狂の中にあった。山口支部の若手が女王二人を食うという歴史的大金星。山口勢の勢いは、もはや堤防を越えて東京湾まで届かんとするほどだった。

しかし、第7レースを控えたピットの空気は、再び重く、冷徹な静寂へと引き戻されていた。

そこには、江戸川を制し「泥の王者」となった速水誠。

マブイを一切持たない瓜生俊樹。

そして、この二人の前に立ちはだかるのは、大阪支部の生ける伝説――鎌倉明奈の師匠であり、かつて「難波の女帝」として一時代を築いたベテラン、坂田結衣であった。

「若手の勢いがいいのは結構だけど、少し浮かれすぎじゃないかしら?」

坂田は、愛犬のフレンチブルドッグ「小鉄」を膝に乗せ、使い込まれた機体のカウルの上でタバコをくゆらせていた(もちろん火はついていないが、彼女の放つマブイが先端を赤く発光させている)。


坂田結衣の瞳は、数えきれないほどの修羅場を越えてきた者だけが持つ、濁りのない冷徹さを宿していた。彼女は鎌倉のような華やかな「氷」は使わない。彼女のマブイは「空間の歪み」を捉える精密なレーダーだ。一瞬の隙間、水面のわずかな反発の差を見極め、そこを針の穴を通すような精度で射抜く「差しのスペシャリスト」。

誠はチルトを限界の3.5まで叩き上げた。シロの背中に浮かぶ古代の黄金紋様が、かつてないほど激しく燃え上がり、周囲の空気をイオン化させてパチパチと放電させる。

その横で、瓜生俊樹は相変わらずパグのパスタを撫でながら、無表情に水面を見つめていた。

「……誠。派手に行くのはお前の役目だ。俺は、その陰に潜む」

「俊樹、頼むぞ!」


「第7レース、予選スタート! 速水誠、3.5のチルトが生む超抜の伸び! 4番・坂田は泰然自若の構え、5番・瓜生は……影のように気配を消している!!」

実況が絶叫する中、号砲が鳴り響いた。

誠はスリット付近から機体を浮かせ、泥の粒子をマブイの衝撃波で圧縮して爆発させる「泥杭」を全開にした。黄金の輝きを放ちながら、江戸川の空を滑走する『スカイ・ハイ』。誠の独走かと思われた。

しかし、ベテラン坂田は慌てない。

誠が作った猛烈な引き波の「外側」の、潮流が最も緩やかになる死角レーンに機体をピタリと吸い寄せた。

「あきな、見てなさい。あの若僧は『力』に頼りすぎている。江戸川の泥は、重力に逆らう奴から順に、水底へ引きずり落とすのよ」

坂田がハンドルを切り込み、誠の着地際を狙って必殺の差しを入れようとした、その刹那だった。

坂田のレーダーが、突如としてバグを起こしたように真っ白に塗りつぶされた。

(……!? マブイの反応が……消えた!?)

坂田のインコース、存在しないはずの空白から、4号艇・瓜生俊樹が音もなく、波も立てずに突き刺さってきた。

『奥義:サイレント・バックファイア』

瓜生は一切のマブイを放出しない。それどころか、周囲のマブイの残滓さえも吸い込んで「無」に変換する。坂田が長年の経験で読んでいた「マブイの波動」という指針を、瓜生はその存在そのもので抹消したのだ。気配を消し、物理的な音さえも吸い込む静寂の伏兵。

「なっ……何!? 何も見えない、何も聞こえない!!」

坂田のハンドル操作が一瞬、ほんのコンマ数秒、凍りついた。


「俊樹、ナイス! そこを貰う!!」

坂田の動きが止まったその隙間。空中にいた誠が、自身の異常振動をジャイロ効果に変え、空中で無理やり機首を内側へ向けた。

それは、重力に従い落下するエネルギーを、そのまま旋回力へと転換する荒技。

『極意:黄金・泥杭連斬こんごう・どろくいれんざん』!!

誠の機体底面から放たれた黄金のマブイが、江戸川の泥を幾重にも重なる「刃」へと変え、坂田の進路を格子状に切り刻んで封鎖した。

上からは誠の「動」の圧力が、内からは瓜生の「静」の虚無が。

山口支部の新旧コンビによる、あまりにも美しく残酷な連携コンボ

ベテランの坂田結衣は、一瞬にして逃げ場のない「袋小路」へと追いやられ、引き波に飲み込まれて失速した。

4. カササギPV更新:二億の熱狂

からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【山口の鉄壁】速水誠と瓜生俊樹、ベテラン坂田結衣を「静と動」の連携で完全完封! 山口支部、もはや手が付けられない強さ! 累計PVはついに2億の大台を突破!


ピットに戻ってきた坂田結衣は、ヘルメットを脱ぎ、ふぅとため息をついた。

「……負けたわ。マブイを消す子に、泥を刃にする子。山口支部、化け物の巣窟ね」

それを見届けていた守屋あおいは、誠が無事にトップで帰還したことに安堵しつつも、瓜生との見事すぎる連携に少しだけ眉をひそめていた。

「俊樹くん、今の連携は良かったわ。誠くんの死角を完璧に埋めてた……。でも、誠くんの泥が派手すぎて、モニター越しでも眩しい! 誠くん、あんなに光らなくてもいいのに……あかりちゃんがまた『師匠、尊いっす!』とか言い出すじゃない!」

あおいの背後の温度が再び下がり始める。

「あ、あおい! あれはレース上必要な演出だ!」

誠が慌ててタラップを駆け上がってくる。

江戸川・マブイ開花賞。

山口支部の連勝街道は止まらない。しかし、PVが2億を超え、注目度が極限まで高まる中、誠たちの前に「愛知の空中艦隊」水谷佳恵が、いよいよ牙を剥こうとしていた。

「誠。お前の黄金、空の上で叩き落としてあげるわ」

チルト3度の死神が、不敵な笑みを浮かべて愛機を水面へ下ろす。


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