火の色の水面、氷壁の防盾
2030年4月23日、午後16時45分。
ボートレース江戸川を囲む堤防スタンドは、数万人の熱狂によって物理的に震えていた。
空は、沈みゆく夕陽の朱と、江戸川の濁流から立ち昇る白霧が混ざり合い、幻想的な火の色に染まっている。満開の桜が強い川風に煽られて雪のように舞い散り、その一枚一枚が、これから始まる生死を賭けた旋回を祝福し、あるいは弔うかのように水面に降り積もる。
ファンファーレが鳴り響いた瞬間、空気は凍りついた。6艇の機艇がピットを離れ、エンジン音が重低音の地鳴りとなって響き渡る。
「マブイ開花賞、優勝戦。ついに発走です。……これは、ただの競艇ではない。山口の黄金、佐賀の誇り、大阪の経験、遠江の極寒……全てが一つに混ざり合う、神話の誕生を目撃せよ!!」
実況の声は、すでに理性を超えた高揚感に包まれていた。
俺はチルト3.5という極限の角度を維持したまま、静かにインコースへ機体を向けた。足元では、パグのスーの紋様がかつてない輝きを放っている。その黄金の光は、艇の周囲にある泥水を、まるで聖水のように透き通った真水へと変質させるほどの浄化能力を発揮していた。
「誠くん、私についてきて……! あなたを一人にはさせない!!」
大外の守屋あおいの機体が動いた。彼女は本来のコース取りを無視した超弩級の前づけを敢行。強引に俺の隣、2コースの領域へ機体をねじ込んだ。山口支部の黄金と氷が内側に並び、鉄壁の陣を敷く。
しかし、それを許すほど九州の壁は甘くない。3号艇、佐賀の絶対王者・大峰幸太郎が、愛犬ムネリンの咆哮に呼応するようにスロットルを開ける。
「誠くん、山口の勢いだけで江戸川は獲れんバイ!!」
大峰の機体から、特殊なマブイ燃料が燃焼した際に生じる佐賀の特製煙幕が放出され、視界を不気味な灰色に染め上げる。さらに4号艇、遠江の神・河合準が、冷やし中華のマヨネーズからヒントを得たという独自の高粘度マブイ波動を氷結させ、大峰の煙幕さえも凍った壁へと変えながら、独自の進路を築いていく。進入は163/245。一触即発の緊張感の中、大時計の針が動き出した。
「スタートまで、3秒……2秒……1秒!! 行ったぁぁ!!」
スリットラインを越えた瞬間、全観客が目撃したのは、物理法則を置き去りにした跳躍だった。
コンマ01。俺が叩き出したのは、機械ですら計測不能なレベルのゼロに近いタッチ。俺の39号機は水面を蹴るのではなく、スーの咆哮と共に垂直に近い角度で真上へ飛び上がった!
「っ……速水くん、正気!? そのタイミング、その角度……自殺行為よ!!」
2号艇のベテラン・坂田結衣が叫ぶ。彼女はフレンチブルドッグ小鉄の嗅覚を研ぎ澄ませ、俺の機体が空中分解する未来を予見しようとした。しかし、俺たちの軌道に迷いはない。
俺の左側からは、3号艇の大峰幸太郎が『佐賀流・空中噴煙』を噴射し、俺の空の翼を視界から消し去り、その推力を奪おうと肉薄する。さらに右側からは、4号艇の河合準が放つ絶対零度の波動が俺の機体を包み込む。だが、河合の冷気は意外な効果を生んだ。機体の表面温度が急降下したことで空気分子が機体表面で整列し、空気抵抗が極限まで減少。俺たちの空飛ぶ39号機は、さらに加速を増して1マークへと突き進んだ。
1マークに向けて、俺、大峰、河合の三艇が、空中でぶつかり合うような泥と氷と噴煙の混沌を形成したその時だった。
「誠くん、今!! 私の氷の道に入って!!」
6号艇、守屋あおいが動いた。彼女は自らの機体を、大峰と河合の進路を妨害するための盾として投げ出したのだ。あおいの機体から放たれた『奥義:氷壁の防盾』が、水面上に厚さ1メートルの絶対零度の氷壁を垂直に作り出す。それは大峰の噴煙を物理的にシャットアウトし、俺が着水するための清浄な氷の滑走路を一時的に形成した。
「あおい、恩にきる!!」
俺は空中で機体をバンクさせ、あおいが作った氷の道へ向けて降下を開始。だが、そこを最外から狙っていた5号艇・西野貴志が掟破りの全速捲り差しを狙うが、それを坂田結衣の『小鉄・嗅覚差し』が、猟犬のような精度で阻止しにかかる。
【からくり競艇公式YouTube『カササギ』Template更新】
> 【衝撃のスタート】速水誠、コンマ01で空中へ完全跳躍! 大峰・河合の包囲網を、山口の絆が生んだ「氷の壁」が分断し、累計PVは驚愕の3億8,000万を突破!!
【優勝戦:1マークの激突情勢】
| 勢力 | 戦法 | 現状 |
| 速水 誠 | 黄金・泥杭(空中) | 空中から氷の滑走路へ向けて降下中。着水が鍵。 |
| 大峰 幸太郎 | 佐賀の噴煙 | あおいの氷壁に阻まれ、旋回軌道を修正中。 |
| 守屋 あおい | 氷壁の防盾 | 誠を守るために自身の進路を捨て、後続をブロック。 |
| 河合 準 | 氷結波(マヨ増し) | 氷壁をさらに補強し、独自の3番手を確保。 |
| 坂田 結衣 | 嗅覚差し | 西野の強襲を察知し、最短距離で内を突く。 |
堤防の上では、あかりがメガホンを投げ捨てて絶叫していた。
「師匠ぉぉ!! そこで回ったら重心が死ぬっす! 墜落するっすよ!!」
あかりの隣で、瓜生俊樹が静かに、 Alexander しかし力強く拳を握りしめていた。
「いや。誠なら、あの氷の摩擦係数さえも計算している。あそこから、泥を掴む着水ができるはずだ」
俺はヘルメットの中で目を見開いた。眼下にはあおいに守られた氷の光。横には、噴煙の中から強引に鼻先を突っ込んでくる大峰の機体。俺はチルト角度のレバーをさらに引き抜き、足元の相棒と共に吼えた。
「行くぞ、スー!! 黄金の泥を、江戸川に刻むんだ!!」
俺の39号機が氷壁を蹴って火花を散らしながら、泥の深淵へとダイブする。だがその瞬間、上空を完全に覆い尽くした大峰の特製噴煙と、下から突き上げる河合の冷気が再び俺たちの視界を遮った。世界の時間が、俺とスーの二人だけに許された一瞬の静寂の中に閉じ込められていく――。次話、江戸川の空中で、俺たちの魂が限界を超えたプラズマの咆哮を放ち、戴冠のゴールへと弾け飛ぶ!




