病室の鼓動、途切れた告白
第13話:病室の鼓動、途切れた告白
2027年8月15日(日):福岡市内・病院の午後
真夏の午後の光が、白いカーテン越しに病室を照らしている。
福岡競艇場では、誠の代わりに瓜生俊樹が準優勝戦のピットへと向かう時間帯。誠の病室は、外界の喧騒を忘れたような静寂に包まれていた。
誠の左腕を冷やす氷嚢の音だけが、コトコトと響く。
看病を続けていた守屋あおいは、誠の顔を見つめていました。落水した時の恐怖、そして今、目の前で静かに眠るように目を閉じている誠への愛しさが、彼女の中で制御不能なマブイの波動となって溢れ出した。
「……誠くん」
誠がゆっくりと目を開ける。
「あおい……まだ、いてくれたのか」
「当たり前でしょ。誠くんを一人にできるわけないじゃない」
あおいの声は、いつもの気の強いライバルとしてのトーンではなく、一人の少女としての震えを帯びていた。
あおいは、誠の動く方の右手を、震える指先でそっと包み込む。
誠はドクンと心臓が跳ねるのを感じた。
「私……ずっと誠くんを倒すことだけを考えてた。でも、昨日のレースを見た時、頭が真っ白になって……。その時やっと気づいたの」
あおいの瞳に涙が溜まり、マブイが桃色に輝き始める。
「私、誠くんのことが、ライバルとしてだけじゃなくて……!」
あおいの顔が誠に近づき、ついにその言葉が唇から零れようとしたその瞬間だった。
「よおっ! 誠! 生きとるかーーっ!!」
ガラリッ!! と、勢いよくドアが開きました。
そこに立っていたのは、福岡のエンターテイナー・西野貴志。
手には大量の明太子と、なぜかお見舞い用の派手な花束を抱えている。
「……あ」
あおいは弾かれたように誠の手を離し、真っ赤になって立ち上がった。
「あらら? もしかして、西野さんお邪魔やった? 絶好の『差し』のタイミングやったかね?」
西野に続いて、横西茜と瓜生俊樹までもがゾロゾロと入ってきた。
「誠、体調はどうだ?」
「横西、あんたノックくらいしなさいよ!」
「うるさいわね、あんたこそ何よその顔、ゆでダコみたいに真っ赤になって!」
「クゥーン……」
ベッドの脇で一部始終を見ていたシロが、呆れたように小さく鳴き、前足で顔を覆った。
あおいは恥ずかしさと悔しさで爆発しそうになりながら、誠と目を合わせることができない。一方の誠も、あまりのタイミングの悪さに「あ、いや……」と言葉を失っていた。
結局、あおいの決死の告白は、福岡の熱気と賑やかな仲間たちによって、夏の霧の向こうへと消えてしまったのだった。




