第123話:東京「三種の神器」集結 ― 江戸川の守護神、その圧倒的威容 ―
2030年、再建された江戸川競艇場。堤防を激しく叩きつけるのは、湿り気を帯びた東京湾の潮風だけではない。それは、外来の「王」を拒絶する、東都レーサーたちの剥き出しの敵意であった。
「ダービーキング? 宮島の凪で踊っていただけの天女の連れ添いか。ここは江戸川、泥と鉄の味がする場所だぜ」
スタンドを埋め尽くす江戸川狂信者たちの怒号が、コンクリートの壁に反響し、特有の**「金属耳鳴り」**となって誠の鼓膜を削る。
宮島での栄光から一年。誠が選んだ復帰の地は、機兵ボートレースの聖域にして、最も野蛮な力が支配する「東都の魔窟」であった。
ピットに並ぶ機体群は、どれもが宮島の洗練された美しさとは無縁の、無骨で重厚な装甲を纏っている。そこには、東京支部の精鋭たちが連れてきた「神獣」たちの気配があった。
東京支部女子トップ、大倉理恵。彼女の傍らには、透き通るような白銀の毛並みを持つチワワの「りん」が鎮座している。
「りん」はただのペットではない。彼女が放つ**『浄化のマブイ』**は、江戸川の濁りきった潮流と不規則なうねりを一時的に中和し、大倉の走るラインだけを「鏡のような凪」へと変質させる。
「速水くん。神を味方につけたイン逃げ、今の貴方に破れるかしら? 貴方の翼は、この泥にまみれて落ちる運命なのよ」
一方、アウトコースに目を光らせるのは、江戸川の暴走王・濱田一翔。彼が連れるのは、対照的な漆黒のチワワ「らん」。
濱田が操るのは、伝説の鋭角旋回をからくり機艇用に昇華させた**『13号機・アクセラ』**。江戸川の荒波を「抵抗」ではなく「反発」のエネルギーとして利用し、コーナーの頂点で物理限界を超えた角度で切り込む。
「空中旋回? 派手なだけで脆いんだよ。江戸川の波に叩き落とされて、魚の餌になりな」
「江戸川鉄兵」の静寂:石田健太郎
そして、最も不気味な存在が石田健太郎だ。
彼のマブイ測定値は「0」。しかし、それはマブイが無いのではない。パグの「ミヤビ」と共に、周囲の音とエネルギーを全て吸い込み、完全に遮断する**『ナイトサイレンサー』**の使い手なのだ。
彼が走る領域では、エンジンの爆音も、波の音も、観客の罵声もすべて消失する。相手レーサーは「無音の恐怖」の中で平衡感覚を失い、自滅していく。彼は江戸川の深い闇そのものであった。
「1R、江戸川・選抜戦! 1号艇に大倉、2号艇に誠、3号艇には長谷川家の刺客! 運命の針が動いたぁ!」
満潮へと向かう江戸川。海水が川を遡る「上げ潮」の勢いは凄まじく、水面には無数の小さな渦が生まれ、ボートを激しく上下させる。
誠は一年間のブランクを感じさせない集中力でスリットラインを狙う。コンマ10。悪くない。いや、この荒天ならトップクラスだ。
「よし、行ける……『波切』!!」
誠がマブイをブレードに集約し、うねりを切り裂こうとしたその瞬間。
3コースに艇を構える長谷川平士郎が、袖の中から鈍く光る「捕縛マブイ」を水中に放った。
『奥義:鬼平・水縄』!!
「なっ……!?」
透明なマブイの鎖が水中で蛇のようにのたうち、誠の39号機のプロペラに絡みついた。機体の回転数が急激に低下し、激しい異音がコクピットに響く。
「っ!? タービンが回らない! 潮の重さじゃない……何かに『掴まれて』いるっす!!」
通信機越しに叫ぶあかりの声も、江戸川名物の金属ノイズに掻き消されていく。
さらに誠を襲ったのは、精神への直接攻撃だった。
堤防に反響するエンジンの高周波が、スタンドの罵声と共鳴し、誠の脳内に**「キィィィィン!!」**という殺人的な音の杭を打ち込む。
「ぐ、あ……耳が……脳が揺れる……!」
視界が歪む。1マークが見えない。
前方では、大倉理恵が「りん」の加護を受け、まるでプールのような平滑な水面を優雅に独走している。背後からは長谷川の「水縄」が誠を泥沼へと引きずり込み、さらには濱田の愛機アクセラから繰り出される「Vモンキー」が鋭い牙を剥いて誠のサイドへ食い込もうとしていた。
からくり競艇公式YouTubeチャンネル『カササギ』PV更新
> 【絶体絶命】誠、江戸川の洗礼! 長谷川家の『捕縛』と大倉の『神のマブイ』に完全に封じられる! 累計PVは6,500万を突破し、掲示板は阿鼻叫喚!!
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【江戸川・選抜戦:1周2マーク情勢】
| 順位 | レーサー | 状態 |
| 1位 | 大倉 理恵 | 『浄化』により独走。江戸川の女神。 |
| 2位 | 長谷川 平士郎 | 誠を『水縄』で固定し、3番手へ突き落とそうとする。 |
| 3位 | 速水 誠 | 捕縛、耳鳴り、異常振動。完全な機能不全。 |
誠の意識が遠のき、機体が波に煽られて大きく傾いたその時。
ヘルメットの中で、シロが鋭い爪で誠の側頭部を小突いた。
『誠! しっかりしろ! 情けねぇ面してんじゃねぇ!』
黄金のマブイが誠の脳内に直接流れ込む。
『この耳鳴りは外からじゃねぇ。江戸川のノイズにテメェのマブイがビビって共鳴しちまってるんだ! 波を斬る前に、まず自分の中の「恐れ」を斬りやがれ!!』
シロの叱咤に、誠の瞳に一点の炎が宿る。
一年間の沈黙で培ったのは、天女のような美しさではない。
あらゆる理不尽を飲み込み、力でねじ伏せるための「静かなる怒り」だ。
「……あかり、聞こえるか。セッティングを捨てろ。機体の『共振係数』を最大まで上げろ。この不快な音を、全部エネルギーに変えてやる」
誠の39号機が、不気味な黒い光を放ち始めた。
それは、江戸川の魔物をも喰らい尽くそうとする、飢えた獣の咆哮だった。
「速水誠、沈んだか!? いや、止まっていない! 39号機、異常な振動を続けながらも、長谷川の鎖を引きちぎろうとしている!!」
誠はハンドルのグリップを指が食い込むほどに握りしめた。
長谷川の「水縄」は強力だが、それは「静止した力」にのみ作用する。ならば、自分自身が江戸川そのものよりも激しく「振動」すればいい。
「砕けろ……!!」
誠のマブイがプロペラを逆回転に近い超振動で震わせる。
物理的な鎖ではない、マブイの概念そのものを粉砕する**『新奥義:砕錨』**。
パキン、という硬質な音が誠の心眼に響き、機体を縛っていた透明な重圧が霧散した。
「なっ、俺の縄が……力で引きちぎられただと!?」
驚愕する長谷川を尻目に、誠の機体は「金属耳鳴り」の不協和音をエンジンの点火サイクルと同期させ、爆発的な加速を開始した。
「2周目1マーク、速水誠が内側から猛然と追い上げる! 1位の大倉、逃げ切れるか!?」
先行する大倉理恵は、バックミラーに映る誠の姿に戦慄した。
そこにあるのは、かつての爽やかなダービーキングの姿ではなかった。
泥に汚れ、耳鳴りに耐え、それでもなお「勝利」という一点にのみ執着する、修羅の姿。
「(これが……一年間、自分を削り続けた男の本当の姿なの……!?)」
大倉の「浄化」の凪が、誠の放つ圧倒的な「不協和音」によって激しく波打ち始める。
江戸川は、今や誠を拒絶する場所ではない。
誠が江戸川という魔物を乗りこなし、その背に跨ったのだ。
からくり競艇公式YouTubeチャンネル『カササギ』最終更新
> 【驚愕】誠、長谷川の『水縄』を力で粉砕! 江戸川のノイズを加速に変える新境地! PVはついに8,000万に到達し、伝説の第二章が幕を開ける!!
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【選抜戦:結果】
1着:大倉 理恵(逃げ切り成功、しかし誠の追撃に顔面蒼白)
2着:速水 誠(驚異の追い上げ。江戸川の洗礼を力で跳ね返す)
3着:長谷川(捕縛に失敗。誠の底知れぬマブイに恐怖)
ピットに戻った誠は、足元がおぼつかないほどの「異常振動症」に襲われながらも、あかりに向かって不敵に笑った。
「……あかり。江戸川、面白い場所だな。ここは、綺麗事じゃ勝てない」
誠の戦いは、まだ始まったばかり。
東都の神獣たち、そして「無音の怪物」石田健太郎が、さらなる深淵で彼を待っている。




