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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第4部 江戸川死闘編

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闇を裂く爆音(スパイラル・パイル)

   二〇三〇年一月二十七日、二十時。ボートレース江戸川――プレミアムG1『 G1江戸川選抜戦』、予選三日目・最終第十二レース予選記者選抜。

 カクテル光線に照らされた水面は、不規則にのたうち回る漆黒の鏡。ピットの最奥には、東京支部の生ける伝説・石田健太郎さんがパグ型の超高密度消音プロセッサー『ミヤビ』と共に、計測マブイ数値「〇(ゼロ)」の絶対領域を纏って鎮座していた。

 【固有電算ハック:『ナイトサイレンサー』】

 周囲の音、振動、対戦相手のマブイ波動を無限に吸い込むブラックホール。

「誠師匠。三十九号機のクランクギヤに、物理的な打音へと変換する『特殊反響同調バランサー』を組み込んでおいたっすよ。吸い込まれるよりも早く、機体の内部で爆音を鳴らし続けるっす!」

 チーフ整備士・野田あかりが不敵に笑い、俺(誠)の網膜バイザーへ新しい数式をハッキングする。落水失格の地獄から、ここは一着以外準優への道が閉ざされる極限の勝負駆け。

 大外、六号艇。公式チャンネル『カササギ』のPVは発走前にして【九五、〇〇〇、〇〇〇】を突破。

(誠、気をつけろ……。こいつのマブイの消灯は本物だ。俺たちの電算気配も、波の感覚も、すべてがこの漆黒の鏡に溶かされるぞ!)

 相棒のパグ機獣・スーが、紅いビースト・アイを危険に明滅させて低い電子の唸り声を上げる。

 俺はシールドを下げ、弟・健吾の言葉を反芻した――「自分の中に、誰にも壊せない絶対の『超回転』を創り出せ」。

 大時計の針が動く。ピットアウト!

 俺は滑らかな加速を完全に捨て、クリア・シルバーのマブイパルスをメインプロペラの先端へと一点集中させ、うねる泥水を力任せに後ろへと爆発的に蹴り飛ばした。

 【固有限界加速:『杭打ちの加速パイル・ドライブ』】

 大外から泥水を激しく爆発させ一直線に突き進む三十九号機! 内枠を絞り込み一マークへ差し掛かった、その刹那。

 すべての音と反響が、一瞬にして完全消去された。

「……っ!? なんだ、この感覚は……!?」

 エンジンの咆哮も、カウルの下の風も、船底を叩くバイブレーションも。そのすべてが石田さんの「無の波動」へ吸い込まれた。時速もスロットルの開度も認識できない絶対の静寂。ジャイロを失い、自滅していく死神の絶対支配。

 だが、その無音の深淵で、俺の中に宿る「速水兄弟の根性」が静かなる怒りとなって激しく爆発した。

「音をすべて吸い尽くされるなら……吸い込まれるよりも早く、俺自身の内部で、壊れない打音を刻めばいい……!」

 バイザーの目を閉じ、視覚も聴覚もすべて捨てた。俺は自らのマブイパルスを心臓の鼓動と同期させ、エンジンブロックへ一定の周期で力ずくで叩き込み始めた。

 ドン。ドン。ドン。

 健吾がバンクの上でもがく時のあの拍動。あかりのバランサーが俺のマブイの残響を物理的な超振動打音へとハックし、石田さんの「無の領域」を内側から爆発的に突き破った! スーの紅い瞳が輝き、ハンドルを伝って泥の質量が確かなグリップとして戻ってくる。

「聞こえる……俺の、相棒の、魂の打音が……!! 見えた……そこが、俺の、往くべき道だぁぁぁーーー!!!」

 一マークの頂点、ハンドルを強引に内枠へとねじ込む。螺旋の超回転と破壊質量を完全融合させた、江戸川の闇を討つための最終解答!

 【固有限界駆動:『奥義・螺旋杭打スパイラル・パイル』】

 限界を超えて咆哮するメインプロペラが、無の空間を力ずくで掻き回し、強烈な爆音を強制的に再生成リブートした! ドォォォォン!!! という衝撃波が、石田さんの静寂を内側から木っ端微塵に粉砕!

「なっ……僕の静寂のコードを、ただの内部打音で引き裂くだと……!?」

 驚愕する石田さんを尻目に、白銀黒影の機体は一ミクロンの狂いもなく正確に旋回を完了させ、バックストレッチへと突き抜けた。

『一着、6号艇・速水誠!!! カササギPVは一億の大台を完全突破!!』

 回航してきた俺は、激しいキックバックに両腕の感覚を失いかけながらも、不敵な王者の笑みを見せた。

「あかり……お前のバランサーが、俺のクランクのリズムを完全に繋いでくれた。この江戸川の闇、俺たちの打音で叩き割れる」

「当然っすよ、誠師匠! 三十九号機を世界で一番知ってるのは、この俺っすからね!」

 大外からの劇的なる一着。得点率は奇跡的に回復し、明日の予選最終日、勝負駆けへの望みは繋がれた。だが東都の魔窟の最深部には、未だあの男――『江戸川の暴走王』濱田一翔さんが、牙を獰猛にギラつかせて待っている。

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