友情の防波堤(フレンドシップ・バリア)
二〇二九年七月二十四日、十六時五十五分。ボートレース宮島――プレミアムG1「宮島レディースダービー」最終日・第十二レース優勝戦。
公式チャンネル「カササギ」のPVは二億二千万を突破。
衝撃の四カド捲りで一マークを制したのは、四号艇・竹下莉々華。限界を超えた熱量でカウルが悲鳴を上げる中、彼女の背後には誰もが予期せぬ「鉄壁の碧き盾」が立ち塞がっていた。兵庫支部・莉々華の幼馴染の相棒、六号艇の登えりなだ。
「莉々華、そのまま前だけ見て走れぇぇ!!! 後ろは俺が全部、命懸けで止めてあげるから!!」
えりなから立ち上る深く澄んだ碧色のマブイパルスが、宮島の水面に多重引き波の迷宮を形成していく。あおいの空中旋回に必要な揚力を内側から相殺し、近間の重厚な旋回軸をも翻弄する、計算し尽くされた防衛プログラム。その余波に一瞬足を取られたあおいは、四番手まで押し込まれた。
「えりなちゃん……!!! ありがとうぅぅ、俺、絶対に最後まで落ちないで頑張るからぁ!!」
莉々華は涙で歪む視界を無理やりこじ開け、第二ターンマークへと突入。えりなが後続を引き波の迷宮へ誘い込み、トップを快走する「ステンノー」のジャイロに絶対の安全マージンをもたらしていく。
ピットでモニターを解析していたあかりが、震える声で呟いた。
「あの子たち、お互いを信じる絆のパケットだけで、エンジンの物理的な不具合を強制無効化してるっす。物理法則を、友情という名のシステムバグで完全に捻じ曲げてるっすよ……!」
新王者・速水誠もまた、その光景をクリア・シルバーの瞳に焼き付けていた。誠の足元でスーが一度だけ鼻を鳴らした。かつて仲間と共に背負った二億の重圧を、彼女たちも二人で、最高速の翼へと変換してみせたのだ。
「さあ、レースはファイナルラップ!!!」
四番手から先行する二人の背中を見つめ、守屋あおいはヘルメットの奥で静かに微笑んでいた。
「(莉々華ちゃん、えりなちゃん……すごいよ。今のあなたたちは、水面の誰よりも、最高に綺麗だ。……でもね、俺も最後まで、勝負師としてあなたたちの壁に全力で挑ませてもらうよ!)」
あおいの「天衣・改」が、最後にして最大の真白き「天女の霧」のサージを放出する。
しかし、その先を行く莉々華の瞳には、すでにゴールラインの向こう側の笑顔がハッキリと見えていた。
「莉々華、全速で行きますぅぅぅ!!!」
最終第二ターンマーク。兵庫の若き比翼の蕾たちが、最大の大輪を咲かせようと、今、最後のハンドルを傾けた。




