恋のペラと、禁断の神調整
第11話:恋のペラと、禁断の神調整
2027年7月31日(土):佐世保競艇場・宿舎
佐世保の急激な潮流と複雑な風を攻略した誠と瓜生。優勝戦を終え、一行は明日からの福岡遠征を前に、長崎の宿舎で身体を休めていた。
1. 守屋あおいの「マブイの揺らぎ」
宿舎の女子フロア。守屋あおいは、タブレットに映し出された誠のレース動画を何度も巻き戻していた。
「……また、こんな危ない走りして」
かつては「誠くんに勝つこと」だけが彼女の全ての原動力だった。しかし、最近はその背中を追うたびに、胸の奥のマブイ石が妙な熱を帯びる。
「あおい、また誠くんの動画? 好きだねぇ」
同部屋の實森ゆえがニヤニヤしながら覗き込む。
「ち、違うわよ! 彼の『チルト3.0』をどう封じ込めるか分析してるだけ!」
「耳まで真っ赤にして言っても説得力ないよ。誠くん、鈍感だから自分から行かないと気づかないよ?」
「……うるさい。私は、ライバルとして……」
あおいは画面の中の、泥臭くも真っ直ぐな誠の瞳を見つめ、小さくため息をついた。
2. 横西茜の「内緒の神調整」
一方、男子ピットの端では、誠が39号機のエンジンの異音に頭を抱えていた。
「……ダメだ。島原の熱でバルブが歪んだのか、どうしても高回転でマブイが詰まる」
そこへ、ドカドカと足音を立てて現れたのは、群馬支部の横西茜だった。
「あーあ、ひっどい音! 誠、あんた整備のセンスは壊滅的ね」
「横西! お前、群馬に帰ったんじゃ……」
「樫葉に『誠が困ってるはずだから見てきて』って頼まれたのよ。……ほら、どいて!」
横西は「ペラを叩くのは嫌い」と公言するが、エンジンを触らせれば右に出る者はいない。彼女は誠の1000しかないコアマブイに合わせ、蒸気ピストンのタイミングを1000分の1秒単位でズラしていく [cite: 2026-01-22]。
「これ、内緒だよ? 支部の壁を超えて手伝ったなんてバレたら、山崎(征也)に何言われるか」
横西の指先が魔法のように動き、歪んだバルブがマブイの流動に合わせて最適化されていく。
「……よし。これで福岡の女王(鎌倉明奈)とも戦えるはず。あんた、あおいの為にも無様に負けないでよね」
3. シロが見つめる夜
「……ありがとう、横西」
調整を終えた39号機のエンジン音は、まるで生き物のように滑らかな「呼吸」を始めていた。
誠が宿舎の自室に戻ると、シロが珍しくドアの前で座って待っていた。その首には、守屋あおいから預かったという「岡山名物のきびだんご(マブイ安定剤入り)」の小袋が。
「……あおい。直接渡せばいいのに」
誠は不思議そうに笑いながら、きびだんごを一口食べた。
その頃、隣の部屋の瓜生俊樹は、誠の鈍感さに呆れ果てて、シロと顔を見合わせるのだった。




