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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第6章:ダービー編

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第102話:金の斬撃と佐賀の龍 ― 蔵野、大峰、西野の乱戦 ―

電子の深淵「カササギ」が映し出す、安芸の熱狂

からくり競艇公式YouTubeチャンネル**『カササギ』**。それは、2029年現在、全人類の意識が収束する「電子の聖域」である。

チャンネル登録者数は数億に達し、ライブ配信の同時接続数は常に天文学的な数値を叩き出す。このチャンネルが単なるメディアではないと言われる所以は、その「双方向性」にある。視聴者がスマートフォンの画面をタップし、あるいはVRゴーグル越しにレーサーへ送る「マブイ(感情エネルギー)」は、量子通信網を経て宮島ボートレース場の「万魂石」へとダイレクトにチャージされる。

画面上に流れる無数のコメント、色とりどりのスーパーチャットの光は、そのまま水面を走る機獣アニマ・ギアの推進力へと変換されるのだ。カササギPVカウンターが「100万」刻みで跳ね上がるたび、レース場の気温は1度上昇し、空間の磁場が歪む。今、この瞬間も、1億6,000万を超える衆望が、宮島の海を物理的に沸騰させようとしていた。


2029年7月8日、午後。G1宮島ダービー二日目、第7レース。

宮島の潮は急激に引き始め、世界遺産・厳島神社の「大鳥居」はその巨大な足元を干潟へと露出させていた。神域の風景が刻々と姿を変える中、ピットに並ぶ六つの機獣は、それぞれの「属性」を研ぎ澄ませ、獲物を待つ猛獣のように低く唸っていた。

「誠の同部屋、瓜生が勝ったか……。だが、広島の海を山口の若造に明け渡すわけにはいかん。安芸の神々は、我ら蔵野のやいばに宿っておられる」

インコースに鎮座するのは蔵野剛くらの ごう

鳴門で対戦した蔵野まいの従兄であり、広島が誇る金属性の名門「蔵野家」の若き柱石である。彼の放つマブイは、冷徹なまでに鋭利に研ぎ澄まされた日本刀の如き殺気を孕んでいた。艇体からは絶えず「キーン」という、鼓膜を刺すような高周波の金属音が響き渡る。彼の狙いはただ一つ。最速の初動で外敵を両断する必殺の抜刀旋回――**『金剛一閃こんごういっせん』**である。


だが、センターコースに陣取るライバルたちもまた、一筋縄ではいかない怪物揃いであった。

3コースには、佐賀の巨匠・大峰幸太郎。

異世界のドラゴンを彷彿とさせる圧倒的な旋回力を持つ彼は、鳴門での激闘を経て、速水誠という新星を認めつつも、自らの内なる「龍」がまだ衰えていないことを誇示しに来た。彼の機体からは、水面を焦がすような熱気が立ち上っている。

そして、4カドから不敵な笑みを浮かべるのは、福岡の野獣・西野貴志。

「4カドからの強襲こそが、ボートレースの華ばい! 蔵野も大峰も、まとめて捲りきってやる! 九州男児の意地、見せちゃる!」

西野はあえてカド位置を選択。全速捲りによって、宮島の静寂と蔵野の鉄壁を同時に破壊せんとする、破壊神の構えであった。

ピットでモニターを注視する速水誠は、シロの頭を撫でながら呟いた。

「(シロ、このレース……誰が勝ってもおかしくない。属性と経験、そして意地が真っ向からぶつかり合っている)」

(誠、気を引き締めろ。1億6千万の衆望が、あいつらの背中を押しすぎてやがる。何かが起きるぜ……!)


大時計の針が動く。1億6,200万人の視線が、スリットラインという名の境界線に収束した。

【西野貴志 ST .03】

「西野が行ったぁ! 4カドから、弾丸のような飛び出し! 福岡の野獣が、広島の懐を食い破るか!!」

実況の叫び通り、西野は宣言通りのロケットスタートを決めた。内側の艇を置き去りにし、1マークへ向けて一気に絞り込む。しかし、1コースの蔵野剛は、その暴威を前にしても瞬き一つしなかった。

「……遅い。我が『金』のことわりに、野性の風は届かぬ」

蔵野が金属性のマブイを解放した瞬間、1号艇の初速が物理法則を無視して、0から100へと跳ね上がった。西野の強襲が届くわずかコンマ数秒前に、最短距離で1マークの頂点ポイントを「斬る」ように旋回。

『蔵野流・金剛旋回』!

黄金の刃が水を割り、後続の進路を物理的に両断した。西野の捲りは蔵野の放つ「金の磁場」に弾かれ、外側へと膨らんでいく。

2026年2月4日 13時:からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 「【衝撃】蔵野剛、西野の強襲を紙一重で斬り捨てる! 広島の意地が爆発! 累計PVは1億6,200万を記録し、地元の熱気は最高潮へ!!」

>

カササギのコメント欄には「地元最強!」「蔵野の抜きが速すぎる!」といった賞賛が滝のように流れ、PVはさらに加速していった。


バックストレッチ。蔵野剛が1位、大峰幸太郎が2位、西野が3位。

上位三人がマブイの火花を散らす中、その後方、5コースと6コース。そしていつの間にか、西野の内側へ音もなく潜り込んでいた三人のベテランがいた。

「若いの。派手なマブイも結構だが、水面を本当に知っているのは誰か……教えてやろう」

宮本太一(54歳)、長谷川一樹(60歳)、東野寧(53歳)。

2029年、全盛期を遥かに超えた領域へ達した兵庫の熟練トリオ――通称**『チームシャイン』**である。

彼らには、コアマブイも外付けマブイも存在しない。測定器が表示するのは常に「0」である。だが、彼らには一億六千万の衆望すら凌駕する、数十年に及ぶ「経験の重み」があった。エンジンの油にまみれ、何万回とプロペラを叩き、何十万回とターンマークを回り続けてきた職人の魂。

そして、その名の由来となったのは、夕陽を完璧に反射して神々しく光り輝く、**「無駄を削ぎ落とした、美しきスキンヘッド(頭部)」**であった。


2マーク。蔵野が金属性のマブイを霧状に散らし、盤石の旋回を披露する。その瞬間、蔵野の視界が真っ白に染まった。

「なっ……!? 目が……眩む!?」

夕陽を浴びた宮島の水面。そこに反射するのは神域の光だけではない。宮本、長谷川、東野の三人が、絶妙な角度で頭部を傾け、太陽光を1マークの懐へと収束させたのだ。物理的なフラッシュ攻撃。 蔵野の「金の磁場」を、三人の「頭部の反射光シャイン」が貫いた。

「長谷川の微調整による、極限の低速粘り……」

「東野のペラが作り出す、一寸の狂いもない真空の水流……」

「そして、わしの宮本流・針の穴を通す差し!」

マブイがないからこそ、彼らは蔵野が放つ強力な磁場干渉を一切受けない。三人は阿吽の呼吸で、蔵野が作ったわずかな引き波の隙間に、吸い込まれるように艇を差し込んだ。最短距離の、さらにその内側を通る神速の職人芸。

『究極職人旋回・黄金の反射シャイン・ゲート』!!

「な、なんだあの差しはぁ!? チームシャイン、内から三連勝の勢いで突き抜けたぁ!! カササギの画面が真っ白だ! 眩しすぎるぅ!!」

実況の叫びと共に、PVカウンターは爆発。1億6,500万という異次元の数値を刻んだ。


「くっ……! 姑息な……! だが、技術だけでこの『金剛』は折れん!」

蔵野剛は、視力を奪われながらも「金の感覚」を頼りに強引に機体を立て直す。しかし、宮本太一の「どこからでも差す」技術は、蔵野の引き波さえも自らの加速装置に変えてしまっていた。長谷川の徹底した整備によって「一滴の無駄もない」回転を維持するプロペラが、宮島の重い塩水を完璧にグリップしている。

(誠! あいつら……マブイがねぇのに、なんであんなに速ぇんだ!? 反射光で目が眩んで、シールド越しでもチカチカするぜ!!)

ピットでシロが吠え、誠もまた、震える手でモニターを見つめていた。

「……あれが、マブイに頼らない『技術の極致』。幸田さんとはまた違う、職人の世界か……」

2026年2月4日 13時15分:からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 「【神技】チームシャイン、兵庫のベテラン勢が宮島をジャック! マブイ0の『差し』が蔵野の『金』を切り裂く! 累計PVは1億6,500万を突破!!」

>

第7レース:最終周・勝負の行方

| 順位 | レーサー | 状態・タクティクス | 状況 |

| 1位争い | 宮本 太一 | シャインの輝き | 蔵野の懐を死守。マブイ0の奇跡を継続中。 |

| 1位争い | 蔵野 剛 | 金剛一閃の再起 | 最終コーナーでの逆転を狙い、金のマブイを臨界まで圧縮。 |

| 3位 | 長谷川 一樹 | 整備の鉄槌 | 大峰の「龍」を完璧に封じ込める老練な位置取り。 |

| 4位 | 大峰 幸太郎 | 龍の咆哮 | 隙を伺い、三連単に食い込もうと機獣を唸らせる。 |

宮島の空に、夕陽と「三人の光」が交差する。

名門のプライドか、それとも職人の意地か。一億六千万の観衆が目撃したのは、神域の空気を物理的に焼き切る、あまりにも眩しすぎる終幕であった。

「わしのペラ調整、宮島の潮に完璧に合ったわい……。若いもん、これが『仕事』っちゅうもんや」

東野の静かな呟きが、轟音の中に溶けていった。


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