掻っ攫う覚悟
今日の朝も子虎の朝シャンから始まる。
眠気をスッキリと覚ましてあげて、いつものスッキリした香りを髪に纏わせて、みんなと一緒に朝食を食べる。
出勤するのを見送ってから、子虎と2人で身体を動かし倒す。
庭でバレーやバドミントンをやって、コートのある公園へ出かけてテニスもやって、ボウリングを1ゲームだけ競って、アレもコレも楽しくて、アレもコレもやり足りない。
楽しい時間を過ごす度に、一緒に遊べる時間がなくなっていく。
その事実が、太陽が沈みゆくと共に大きく実感できてしまう。
夕焼けに伸びる影が、昇り始めた薄い月が、冷えてきたそよ風が、寂しさを際立たせる。
膝に手をやって息を荒げているんだけれども、まだまだ足りない。遊び足りない。
「そろそろ帰ろっか、優太くん。今日はお店のご飯を買って帰ろう」
元気のない微笑みで、細く小さな腕を俺に伸ばす。
俺よりも遙かに小さい身体をしているのに、どこまでも従いたくなる提案をしてくれる。
俺は、まるで駄々を捏ねてる子供だな。圧倒的な体力差と精神で、子虎は俺を見守ってくれている。
名残惜しいけどここまで、かな。
遊びを終わり、華奢で温かい手を取って帰路につく。
お店で晩ご飯を買ってから、子虎の背中に抱きついてホウキで飛ぶ。
足がキリキリ痛い。瞼が重い。気を抜くと眠ってしまいそうだ。
「ねぇ、優太くんはまだ迷ってるの?」
前を向いたまま、伸びた影に乗せて声を投げかけてくる。
決められない。千羽も、亀夜も氷竜も子虎もみんな大切で、誰か一人に天秤を傾けようとした瞬間、他の3人を見捨てるのか? ってなって。
「そっか。じゃあまだ私にもチャンス残ってるね。優太くんはそのまま迷っててよ。そしたら、私が掻っ攫ってあげるから」
どこか感情を押し殺した声色は、黄昏を帯びているように感じた。
まっすぐ前を見て振り向かない子虎。振り向くのを躊躇っているのか、或いは突き進む覚悟を決めたのか。
もしも迫られる選択を恋愛と呼ぶのなら、俺は相当向いていないな。心が濃霧に阻まれて行方不明になっちまってんだから。
世の家庭を持っている夫婦ってヤツは、光も射さない、濃い霧の中で出会って、手を繋いで、一緒に突破する為に進んでるんだろうな……
人生を一緒に迷える誰か、か。
そう考えるとゴールだけすればいい俺は、かなりズルしてるよな。
子虎に掻っ攫ってもらうのも楽かもしれないけど、俺の意志で未来を選ばなきゃいけないんだ。
薄暗い濃霧の中でも、未来を目指して歩くんだ。
きっと未来だって、俺を待っていてくれるはずだから。
帰ってから千羽に文句を言われ。まともなご飯を作れる体力ぐらい残しときなさいって。
そして他のみんなから睨まれてたよ。
ホント千羽はブレないな。




