1冊に一生をかけて
相変わらずシトシトと降り続く雨の日々。
梅雨間は洗濯物に困って仕方がない。勿論外へ気軽にお散歩へも出かけられないし、お買い物も億劫だ。
しないわけにはいかないから出かけるけれども、傘を持たなきゃいけない分、どうしても荷物を運ぶのが大変だ。
それでも毎日やらなくちゃ溜まっていって後が大変だから続けていく。
まぁ家のこと以外やることないから大した労働じゃないんだけどな。これで子育てとかあったら状況が一変するんだろうけども……丸投げするしかないからな。
そんな朝の家事の途中で休日の亀夜が起きてくる。食事のタイミングが読めないネックはあるものの、多少は待ってくれるからありがたい。
1人分の食事と、間を持たせるための俺のお茶を用意して食卓へ。
最近は亀夜に限らずみんな俺と同席して食事を取ることを要求してくる。
例え話題がなくても、一緒にいる。貴重な時間を一緒に過ごせるように。
不意に亀夜は、どんな物語が好きか尋ねてきた。
平和で穏やかな話がいいかな。辛くて苦しいのなんて、現実だけで充分だから。
後は、子供の成長を追体験できるようなお話しがいいかな。雰囲気だけでも感じてみたい。
「そう……か」
朝の会話はコレで終了。食事の音だけがただ静かに響き渡る。
食べ終わったと思ったら亀夜は、雨の中一人でお出かけしていった。お昼ご飯はいるとのこと。
帰ってきてからラーメン茹でるかって公算を立てる。気分は味噌かな。
あその前に、濡れるだろうから風呂でも沸かすか。
小1時間ほどで帰ってきた亀夜。買ってきた荷物を預かってからお風呂へ誘導する。なぜか亀夜の身体を洗うことに。
子虎の話を聞いてずっと気にはなっていたらしい。終わってからではできなくなるからと、今回お願いしてみたんだとか。
まっ、俺に関することは生きている間にしかできないからな。
シャンプーをしながら何を買ってきたのか聞いてみる。クチナシの香りが妙に鼻につく。ここまで濃く直に嗅いだことはなかった気がする。
「本……だ。読み聞かせでも、やろうと思って……ね」
振り向きざまに見上げる黒い瞳が妙に怪しくて涼しい。シャンプー中なのによく目を開けていられるなって思った。魔法でガードしていたようだ。
控えめに上がった口角が楽しそうで何よりだ。
亀夜の休日に1時間、俺のために読み聞かせ会を開く。
奴隷の立場で贅沢な話だから断ろうと思ったんだけれども、俺じゃ本は読めないし折角買った本をムダにしたくないと押し切られた。
だから今日から始まった。静かに優しい声色で紡がれる物語を、贅沢に時間をかけて堪能する。時間になったら感想を言い合う。
思ったことの違いが楽しいだなんて知らなかった。
ジックリと時間をかけて、1冊の本を共有しきれたらいいな。




