子虎の完走
「……あれ? コレで3冊目終わり?」
今回、早かったな。思わずパラパラと残りのページを確認したんだけれど、余白ばかりでちょっと勿体ない使い方だなって感じる。
「まっ、いっか。なんとなくキリのよさそうなところで終わってたからね」
それにしても、この一年の子虎ちゃんはらしくなかったな。
ぎこちないままお父さんの時間が終わっちゃうんじゃないかって心配だったもん。
パタン、とお父さんが残してくれた日記帳を閉じて大切に本棚へ収める。
翻訳して書き写した方の日記帳も閉じて手を乗せる。
「亀夜ちゃんが素直に甘えてたのが印象的だったかな。ソレに、子虎ちゃんと一番長いって、おじいちゃんたちの付き合いからきてたんだね」
おばあちゃんも、とんでもない奴隷召喚をしてたんだな。なんでもできるから波瀾万丈な日常だって楽しんできてそうだけれども。
ただ私は、穏やかに過ごしたいから奴隷は一人がいいな。
「ちぃちゃんどうしたの。なんだかすんごくしんみりだよ」
物思いに耽っていると、ドアの方から声をかけられた。パッチリおめめにちょこんとした八重歯、白く短い髪が爽やかなお姉さん。子虎ちゃんがキョトンと首を傾げていた。
「子虎ちゃん。ちょっと考え事。ところで、さ。やっぱり子虎ちゃんはお父さんを奪いたかったの?」
枷を外したからには全力でお父さんを求めたはず。婚礼生誕の儀をするにしてもしないにしても、私は子虎ちゃんにとって望んでない存在だったはず。
「そっか。そこまでいったんだね。そうだよ、奪いたかった。優太くんが気付いていない間なら、私にもチャンスがあったから」
まっすぐ強い眼差し。もう後悔なんてしてないんだろうな。
「でも結果はちぃちゃんも知っての通り、優太くんは誰の奴隷なのか自力で気付いた。だから諦めもついたんだ」
笑顔にちょっと哀愁が漂ってる。諦めはついたのかもしれないけれど、それでも大切だった事には変わりがないから。
「そっか……」
「そんなしょげちゃダメだよ。優太くんを奪うって決めてからの1年間は凄く楽しかったから。それに……」
「きゃっ」
子虎ちゃんが踊るようなステップで目の前までやってくると、私の両脇を抱えて持ち上げた。
「ちぃちゃんと遊ぶ日々だったすっごく楽しいからね。さすがは優太くんが選んだだけあるよ」
「子虎ちゃん」
お母さん達の中で一番華奢なのに、一番長く私を持ち上げてくれる。
「もう、私そんなに小さい子供じゃないよ」
「知らないもん。持ち上げられる間は持ち上げちゃうから。高いの、好きでしょ」
敵わないな、ホント。
「うん。大好き。そうだ、終わったよ、3冊目の日記帳」
「そっか。じゃあ次で最後の日記帳になるんだね。鈴と一緒に選んで買った、私の日記帳」
「……玲ちゃんと一緒に買ったの?」
「そうだよ」
キョトンと答えてるけど、玲ちゃんかなり内心複雑だっただろうな。
一緒に同じ物を買えて嬉しいとか、お父さんのためになんで色々考えなくっちゃいけないのとか、嬉しいと憎々しいが練り合わさって頭テーレッテレーになったはず。
「私も知りたいな。優太くんが何を思って毎日を生きてきたのか。人生を走り抜いたのか。負担になっちゃうけれど、翻訳お願いね、ちぃちゃん」
「勿論だよ」
最後の白色の日記帳。きっと全部が詰まってる。楽しかったことも、ツラかったことも、お父さんの悩みも。
一方的に見ることしかできないけれども、教えてほしいな。お父さん。




