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奴隷日記  作者: 幽霊配達員
青の書
79/88

略奪の雷光

 亀夜と子虎のケンカ……っていいのか?

 からとにかく3週間経った今日。ようやく子虎と向き合うことができた。

 目を覚ましてから、視界から逃れている子虎を見つけるのが大変だった。

 俺の気配なんてバレバレらしくて、目処が立っていてもここ数日子虎を見つけられなかった。

 だからカマをかけて、いると思う物陰にワガママを言った。

「子虎の朝シャンをしたい」って。

 俺は、子虎がワガママを言ってくれるのをずっと待ってしまっていた。言ってさえくれれば、全力で叶えにいけるから。

 けど違ったんだ。子虎だって、俺がワガママを言ったら叶えたいって思ってくれていた。

 だから先陣を切る必要があった。隠れている枝葉に穴を開けて、ワガママをこぼしやすくするために。

 俯きながらトボトボと出てくる子虎の手を引いて、お風呂場へと向かう。

 一分にも満たない沈黙の移動。キレイに片付いた廊下。充分にスペースが確保された洗面所。小さくやわな肌の子虎。ピカピカの浴室。

 刹那家に召喚された初めての朝、子虎に連れられて朝シャンを頼まれたときとは何もかも真逆だ。

 そんな思い出話を一方的に喋りながら、子虎の白く短い髪を洗う。

 あまりに反応がないから下手だったか聞いてみる。上手だよ、とだけ返してくれた。

 本日の、一言目だ。

 シャンプーの甘い香りを確かめながら、ジックリと時間をかけて思い出話を語る。

 子虎と楽しんだ日々を中心に。また誘ってほしいってワガママを重ねる。

「ダメだよ優太くん。折角諦めてきていたのに、抑え込んできていたのに、そんな事言われたら奪いたくなっちゃうじゃん」

 小さく震える肩。何に気付いているのか俺にはわからないけれど、それでも俺は子虎の奴隷でもあると改めて教える。

「違うの。優太くんは最初から私達の奴隷なんかじゃなかった。1人の魔女の、1人の奴隷なんだよ。だから、奴隷を奪っちゃいけないの。悪い魔女なんかに、なりたくない」

 きっとまだ子虎にしか見えていない物が、見えてしまっているんだろう。

 いろいろゴチャゴチャした関係が片付いて、視界がクリアになって、見えてしまった結末があるのかもしれない。

正直恋愛なんてよくわからないけれど、好き合っている者どうしが幸せに結婚できるわけじゃないんだ。

 母さんも、そうだったし。

 だからこそ雁字搦めになって望まない道を選ばされるより、ワガママに望む物を求めてほしい。

 きっと人は、道を踏み外しながらじゃないと生きていけないから。

「いいのかな。私、略奪しちゃってもいいのかな。この略奪愛に、飛び込んでもいいのかな?」

 ずぶ濡れの子虎が振り返って、見上げながら聞いてきた。

 両腕を広げて受け止めることを誓う。例えどんな状態の子虎でも、抱き締めるって。

 大声でなく子虎に押し倒されながら、両手で抱き締めて頭を撫でる。

 この陽気なら、濡れて服だって着たまま乾くだろう。

 ようやく、取り戻せた気がする。

 にしても俺が誰か1人の奴隷、か。子虎は一体誰だと思ったんだろうな。

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