略奪の雷光
亀夜と子虎のケンカ……っていいのか?
からとにかく3週間経った今日。ようやく子虎と向き合うことができた。
目を覚ましてから、視界から逃れている子虎を見つけるのが大変だった。
俺の気配なんてバレバレらしくて、目処が立っていてもここ数日子虎を見つけられなかった。
だからカマをかけて、いると思う物陰にワガママを言った。
「子虎の朝シャンをしたい」って。
俺は、子虎がワガママを言ってくれるのをずっと待ってしまっていた。言ってさえくれれば、全力で叶えにいけるから。
けど違ったんだ。子虎だって、俺がワガママを言ったら叶えたいって思ってくれていた。
だから先陣を切る必要があった。隠れている枝葉に穴を開けて、ワガママをこぼしやすくするために。
俯きながらトボトボと出てくる子虎の手を引いて、お風呂場へと向かう。
一分にも満たない沈黙の移動。キレイに片付いた廊下。充分にスペースが確保された洗面所。小さくやわな肌の子虎。ピカピカの浴室。
刹那家に召喚された初めての朝、子虎に連れられて朝シャンを頼まれたときとは何もかも真逆だ。
そんな思い出話を一方的に喋りながら、子虎の白く短い髪を洗う。
あまりに反応がないから下手だったか聞いてみる。上手だよ、とだけ返してくれた。
本日の、一言目だ。
シャンプーの甘い香りを確かめながら、ジックリと時間をかけて思い出話を語る。
子虎と楽しんだ日々を中心に。また誘ってほしいってワガママを重ねる。
「ダメだよ優太くん。折角諦めてきていたのに、抑え込んできていたのに、そんな事言われたら奪いたくなっちゃうじゃん」
小さく震える肩。何に気付いているのか俺にはわからないけれど、それでも俺は子虎の奴隷でもあると改めて教える。
「違うの。優太くんは最初から私達の奴隷なんかじゃなかった。1人の魔女の、1人の奴隷なんだよ。だから、奴隷を奪っちゃいけないの。悪い魔女なんかに、なりたくない」
きっとまだ子虎にしか見えていない物が、見えてしまっているんだろう。
いろいろゴチャゴチャした関係が片付いて、視界がクリアになって、見えてしまった結末があるのかもしれない。
正直恋愛なんてよくわからないけれど、好き合っている者どうしが幸せに結婚できるわけじゃないんだ。
母さんも、そうだったし。
だからこそ雁字搦めになって望まない道を選ばされるより、ワガママに望む物を求めてほしい。
きっと人は、道を踏み外しながらじゃないと生きていけないから。
「いいのかな。私、略奪しちゃってもいいのかな。この略奪愛に、飛び込んでもいいのかな?」
ずぶ濡れの子虎が振り返って、見上げながら聞いてきた。
両腕を広げて受け止めることを誓う。例えどんな状態の子虎でも、抱き締めるって。
大声でなく子虎に押し倒されながら、両手で抱き締めて頭を撫でる。
この陽気なら、濡れて服だって着たまま乾くだろう。
ようやく、取り戻せた気がする。
にしても俺が誰か1人の奴隷、か。子虎は一体誰だと思ったんだろうな。




