鋭い黒と白のモヤモヤ
ぽかぽか陽気が暖かくも、雨の日も多い気まぐれな春。
昨日の雨の影響でやや湿気が気になりつつも、お洗濯には丁度いい日和をしていた。
朝の家事が終わったら何をしようかな。みんな揃っての休日だからお出かけするのもいいかもしれない。
そんな希望は意外な形で打ち砕かれる。
「提案なんだが子虎……少しケンカでもしてみない……か?」
亀夜が子虎にケンカを売った。理由もわからないまま。
別に最近不仲だったわけでもないし、今朝何かが起きたわけでもない。子虎もキョトンとしていたし。千羽と氷竜も目を丸くしていた。
ただ亀夜からするともう確定事項らしく、引く気はない。
子虎も説得していたんだけれど「うじうじしている姿が煮え切らなくて……な。少し、殴り飛ばしたく……なった」と聞く耳を持たない。
終いには「いいから、かかって……こい。踏み込まないのなら、優太を独占してしまう……ぞ」とらしくない煽りをしだした。
ただ最期の言葉が効いたのか「優太くんは亀夜の奴隷じゃないっ!」て子虎がムッとし出してヒートする。
興に乗った亀夜が微笑むと、二人して庭へ向かった。洗濯物、干してあるんだけどな。
対峙する亀夜と子虎を遠く眺めながら、どっちの方が強いのか千羽と氷竜に尋ねる。だいたい予想はついているんだけれども。
ただコレまた予想がないな答えが返ってきた。
わからない。あの二人、今まで一度だってケンカしたことないから、と。
亀夜が黒雲のような闇をばら撒いて得意の陽動戦術に持ち込もうとしたのだけれど、子虎の光魔法が隠れることを許さない。
簡単に居場所を特定されては、おもしろいように雷撃や打撃を食らってしまう亀夜。
正直、亀夜の圧勝だと思っていた。けれど相性っていうのがあるようで、為す術なくボコボコにされてしまう。
撃ち放たれる岩塊も子虎の反射神経で回避され、懐に潜られては雷撃を纏った拳を腹へめり込ませる。
とにかく一方的だった。研ぎ澄まされた運動神経の前では策が役に立たない。
ただ、攻めているはずの子虎がとにかくツラそうなのが目についた。
「諦めなきゃいけないから、諦めるって決めたんだ! 奪っちゃったらきっと、楽しくなんて笑えなくなっちゃうからっ!」
「いいじゃないか、往生際が悪く……たって。欲しいから手を……伸ばす。シンプルな望みは、生きる糧になる……だろう?」
「わがままばっかじゃっ、嫌われちゃうじゃん!」
「時にはそのわがままが、互いを満たすことも……ある。素直を捨てて、子虎は笑えるの……か?」
「わかんないよっ! バカぁぁぁぁっ!」
涼しい微笑みで窘める亀夜を、子虎が胸中に押し込んでいた想いを吐露するように拳へ乗せてぶつけていく。
途中から、魔法合戦がなくなっていた。
仰向けに倒れる亀夜に馬乗りになって。子虎が青空へ拳を振り上げ点々止まる。
昨日で止んだはずの雨が、亀夜の顔へポタポタと降る。
圧勝で……完敗だった。
移り変わりやすい春の天気は、安定するのにまだまだ時間はかかると思う。
でも、確かに晴天の兆しは見えた。亀夜が、作った。
「悪かったな……子虎。とんだ茶番に付き合って……もらった」
返ってくるのは嗚咽だけだけど、確かに言葉は届いている。
「荒治療なのはわかっているが、あまり時間もかけられないので……な。やれることはやったから、後は任せたぞ……子虎」
胸に埋めた子虎の顔を、亀夜は優しく手で包み込む。
黒の視線が俺を捉えた。託された。子虎の曇天を貫くバトンを。
刹那家の奴隷として、バトンを持ってゴールテープを切ってやる。




