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奴隷日記  作者: 幽霊配達員
青の書
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受け継がれた罪悪感

 刹那家のお母さん、明理さんの家で迎えた正月は見事な寝坊から始まってしまった。

 みんなからは珍しいとか寝ぼすけとか言われてからかわれてしまう。起きれなかったのを寒さのせいにしておいた。

 最高にサボって贅沢しているな……自分の家でもないのに。

 大切にされているというか、宝物扱いされている感じだ。埃が被らないようクリアケースにキレイに飾られている感じ。身動きして壊れることを許さないような、自由意志を許さない扱い……ココに泊まっている間だけだろうけども。

 まぁもう1つの目的である、娘達の家事を鍛えたいの方が大きいとも感じるけどな。

 明理さんは娘達に昼食のおつかいを頼んで出かけさせると、俺に昨日のお話しの続きをしてくれた。

 待望の長女・氷竜は明理さんと奴隷のみんなから大層かわいがられて育ったらしい。けども同時に、婚礼生誕の儀によって奴隷が消滅してしまうことを酷く恐れるようになってしまったとか。

 特に鳥人族の……次に儀を執り行う奴隷が。

 日が近付くにつれ、死にたくないと喚き散らすことが多くなっていく。明理さんも他の奴隷も困り果てることとなるのだけれど、一番その姿に心を揺さぶられたのはまだ幼い氷竜だった。

 みんなに懐いていた。だからこそ誰よりも別れを理解できなかった……許せなかった。

 誰よりも泣きじゃくって、駄々を捏ねて、一緒になってやめてって叫んだ。

 けども娘を産むために召喚した奴隷だから、例え失敗するのだとしても儀式をやめる気はなかった。

 鳥人族奴隷の拒否具合から、娘を授かるなんてダメかもとは思っていたけれども。

 実際、儀に入る直前まで氷竜と抵抗していたらしい。

 明理さんにとって様々な予想外が起こった婚礼生誕の儀。

 まず氷竜の時……というよりは、後から振り返ると誰よりも安産だったらしい。

 待望の2人目、千羽が産まれたはいいのだけれど、氷竜から憎しみの対象になってしまったんだと。

 千羽さえ望まれなければ、あの奴隷は死ななかったのに……って。

 当然娘同士は仲良くなんてなれずに、困った日々だけが続いてゆく。

 明理さんは打開をするために、生涯を共に過ごす用の奴隷を召喚する事にした。のだけれど……氷竜がまた、殺すための奴隷を召喚するんだって嫌悪感を顕わにした。

 そんなこと絶対に許さない。なんとしても止めるんだ。

 氷竜は召喚を失敗させるために、描いた魔方陣に一本線を付け足した。

 些細なイタズラだと俺は微笑んだのだけれど、想像より遙かに深刻なことを仕出かしていたらしい。

 なんでも、魔方陣は少しでも狂うと魔法が暴発してしまうほど繊細なんだと。

 たった1本の線が、召喚する奴隷に込めた想いと祈りをグチャグチャに書き換えてしまう。明理さんも気付くのが遅かったって今でも後悔している。

 召喚されたのは天使族の奴隷。プライドが高くて言うことを聞かない、困り果てた奴隷…いや、奴隷と呼んでいいかもわからない何か。

 家の中の雰囲気は荒れに荒れ、それでも取り繕いながらどうにか日々を過ごしていく。

 そんな中で、亀人族の奴隷の時間が差し迫ってきてしまう。3人で保ってきた均衡が崩れてしまう事に危機感を覚えては、話し合うことが増えた。

 いなくなってからのことを憂いながらも、婚礼生誕の儀を望む。重荷になるかもしれないけれど、虎の獣人の奴隷に後のことを任せて。

 状況は悪い状態のまま、亀夜が産まれて3人娘となる。

 そして、遂に天使がやらかした。明理さんの家での奴隷生活に耐えかねた彼は、明理さんと虎の獣人が留守の間に3人娘へ殺す気で暴行を加えた。

 虎の獣人が帰ってきた時には凄惨な状態になっていて、頭が真っ白になった結果、天使の奴隷を手にかけてしまっていた。

 明理さんが帰ってきた時には、全て終わった後だった。

 幼いとはいえ魔女。生命力の高さから辛うじて一命を取り留めていた。

 ただ奴隷による奴隷の殺しは御法度。本来なら殺処分を然るべき。なぜなら、殺しの経験は婚礼生誕の儀のメンタルに大きく影響されてしまうから。

 虎の獣人はその事を重く受け止めて死を受け入れようとした。けども明理さんは許すことにする。きっと4人目の娘が、3人の娘達に必要だからと。

 この一件があってから氷竜は大人しくなり、明理さんの家に平穏が訪れる。

 そして最後の婚礼生誕の儀をする前に新たな奴隷、悪魔のケバブさんを召喚した。

 今度こそつつがなく、けれども1番厳しい難産を乗り越えて子虎が誕生した。

 奴隷時代に背負った罪悪感を、子虎は間違いなく受け継いでいる。

 だから俺に、子虎の罪悪感を拭い去ってあげてとお願いされた。

 想い……重い……けども、やらなきゃ俺はスッキリと婚礼生誕の儀を臨めない。

 約束はできないけれども誓った。ケバブさんに叩かれた背中が響いた。

 微笑みで託された願いを、微笑みにして返さなくっちゃいけない。やろう。

 夕方ぐらいには明理さんの家を出て、懐かしの刹那家へ帰ることに。

 話を思い返しながら気付く。亀夜と子虎が一番長いって、奴隷時代からの事を言っていたのかもしれないって。

 夕闇に照らされた亀夜の横顔。少し寂しげに感じられた。

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