ロロテア
「……終わっちゃった、のかな?」
光が収まると、雨の独特な匂いが鼻についた。ジメっと肌に張り付く不快な湿気。お父さんと一緒にいた暖かい室内から弾き出されちゃったみたい。
刹那家の玄関屋根の下かな。よく整えられた庭が広がってる。
線を引きながら優しく降り注ぐ無数の雨。見上げると空一面を憂鬱な灰色雲が覆っていた。
「嬉しかったんだけど、ちょっと短すぎ……」
待って。お出かけする時、雨なんて降ってなかったよね。それにちょっと、春にしては気温が暑すぎるような。
ガチャリ。
「おや。久しぶりですね、ちぃちゃん」
背中にある玄関が開く音。振り向くと、お父さんが傘を持って出てきたところだった。
「えっ、あっ……なんで」
驚愕しながら思い出す。
そうだよ。日記ではちぃちゃんと3回出会ってたよ。じゃあ、コレって2回目。私、まだお父さんと一緒にいられる。
「僕はただ、普通に暮らしていただけですよ。ちぃちゃんはどうですか、アレからお家へは帰れましたか」
開いた口を塞げない私に自然と近付いて、頭を撫でながら心配してくれる。
何の疑問も抱かずに。私が娘のとも知らずに。家族のように。
もぉ、お人好しが過ぎるんだから。
「うんん。アレから直接今日まで飛んできたから、驚いちゃった。またお世話になってもいいかな」
頭を横に振ってからお願いする。
「構いませんよ。ちぃちゃんも難儀ですね」
あっさりと受け入れてくれる。
ニヤけてしまう口を隠さずに観察する。まだまだ細いけど、肉付きはよくなってる。栄養状態はバッチリだね。ソレに、1年前より穏やかになってる気がする。
「それで今からお買い物へ出かけるつもりだったのですが、ちぃちゃんはお留守番でもしてますか」
「さすがに不用心が過ぎると思うな。折角だから、一緒についてってもいいかな」
一応私、この時代では不審者なんだからね。それに時間は限られてるもん。できる限り、お父さんから離れたくない。
「わかりました……けど、生憎傘は僕の分しかありません。肩が濡れてしまうかもしれませんが、大丈夫ですか」
魔女なら雨天結界付きのホウキで移動するから、傘なんて不要だもんね。雨の日の風情を楽しむのも一興かな。
あでも、お父さんって確か貧弱だから濡れたら風邪引いちゃうよね。
「大丈夫。私は頑丈だもん。なんなら傘なんて差さなくても平気だから、気を遣わなくても平気だよ」
身体の強さをアピールしたら、お父さんがピンってデコピンしてきた。
「あたっ」
「こぉら。もっと自分の身体を労りなさい。風邪を引いてしまいますよ」
おでこを両手で擦りながら見上げると、ムスっとした顔を近付けてきた。
「はぁい。相合い傘でラブラブして歩きまぁす」
「よろしい。ふふっ」
お父さんの微笑みにつられて笑う。
表情が自由な感じ。1年前に比べて、抑えていた蓋がなくなったみたいだ。茶化し合える、心の距離が近い。
傘が雨を弾く音色を聞きながら、のんびり歩いてのお買い物が始まった。




