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奴隷日記  作者: 幽霊配達員
白の書
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108/109

ロロテア

「……終わっちゃった、のかな?」

 光が収まると、雨の独特な匂いが鼻についた。ジメっと肌に張り付く不快な湿気。お父さんと一緒にいた暖かい室内から弾き出されちゃったみたい。

 刹那家の玄関屋根の下かな。よく整えられた庭が広がってる。

 線を引きながら優しく降り注ぐ無数の雨。見上げると空一面を憂鬱な灰色雲が覆っていた。

「嬉しかったんだけど、ちょっと短すぎ……」

 待って。お出かけする時、雨なんて降ってなかったよね。それにちょっと、春にしては気温が暑すぎるような。

 ガチャリ。

「おや。久しぶりですね、ちぃちゃん」

 背中にある玄関が開く音。振り向くと、お父さんが傘を持って出てきたところだった。

「えっ、あっ……なんで」

 驚愕しながら思い出す。

 そうだよ。日記ではちぃちゃんと3回出会ってたよ。じゃあ、コレって2回目。私、まだお父さんと一緒にいられる。

「僕はただ、普通に暮らしていただけですよ。ちぃちゃんはどうですか、アレからお家へは帰れましたか」

 開いた口を塞げない私に自然と近付いて、頭を撫でながら心配してくれる。

何の疑問も抱かずに。私が娘のとも知らずに。家族のように。

 もぉ、お人好しが過ぎるんだから。

「うんん。アレから直接今日まで飛んできたから、驚いちゃった。またお世話になってもいいかな」

 頭を横に振ってからお願いする。

「構いませんよ。ちぃちゃんも難儀ですね」

 あっさりと受け入れてくれる。

 ニヤけてしまう口を隠さずに観察する。まだまだ細いけど、肉付きはよくなってる。栄養状態はバッチリだね。ソレに、1年前より穏やかになってる気がする。

「それで今からお買い物へ出かけるつもりだったのですが、ちぃちゃんはお留守番でもしてますか」

「さすがに不用心が過ぎると思うな。折角だから、一緒についてってもいいかな」

 一応私、この時代では不審者なんだからね。それに時間は限られてるもん。できる限り、お父さんから離れたくない。

「わかりました……けど、生憎傘は僕の分しかありません。肩が濡れてしまうかもしれませんが、大丈夫ですか」

 魔女なら雨天結界付きのホウキで移動するから、傘なんて不要だもんね。雨の日の風情を楽しむのも一興かな。

 あでも、お父さんって確か貧弱だから濡れたら風邪引いちゃうよね。

「大丈夫。私は頑丈だもん。なんなら傘なんて差さなくても平気だから、気を遣わなくても平気だよ」

 身体の強さをアピールしたら、お父さんがピンってデコピンしてきた。

「あたっ」

「こぉら。もっと自分の身体を労りなさい。風邪を引いてしまいますよ」

 おでこを両手で擦りながら見上げると、ムスっとした顔を近付けてきた。

「はぁい。相合い傘でラブラブして歩きまぁす」

「よろしい。ふふっ」

 お父さんの微笑みにつられて笑う。

 表情が自由な感じ。1年前に比べて、抑えていた蓋がなくなったみたいだ。茶化し合える、心の距離が近い。

 傘が雨を弾く音色を聞きながら、のんびり歩いてのお買い物が始まった。

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