時の禁呪書
お父さんが作った簡単なチャーハンを食べながら、料理のコツについて質問攻めをした。
だって悔しいくらい美味しかったんだもん。折角教えてもらえるチャンスが舞い降りたなら、教えてもらわなきゃ損だもんね。
ただ私にはちょっと多すぎたから、残した分はお父さんに食べてもらった。
……あれ? ここは後でスタッフが美味しく頂きましたって思っておく場面なのかな。
スタッフ誰だよ。まぁいいや。
落ち着いてから簡単な裁縫も教えてもらう。教えてもらったのはパッチワークのヘアバンド。
短時間で出来る一品物で、お父さんから初めて教えてもらった幻の一品。加えて初めて作るお母さんたちの服の端切れを使ってるから特別感が半端じゃない。
ズルする形で一方的なんだけれど、初めてを共有出来てしまった。
お父さんが作ったお手本と、教えてもらった自作のヘアバンドが2つ。
宝物って、案外簡単に手に入る物なんだね。けど、このタイミングでしか得られなかった。
「ありがと。すっごく嬉しい」
「いえいえ。ちぃちゃんお上手でしたよ」
ヘアバンドを抱き締めながらお礼を言うと、優しく頭を撫でてくれた。
もぉ、お父さんってば。私の頭を撫でるの癖になっちゃってるじゃない。しょうがないから撫でられてあげよう。えへっ。
「ずっと聞きたかったのですが」
「何かな」
「ちぃちゃんがどうしてこの刹那家に……それも僕の部屋にいたのか教えてもらえますか」
あっ……
温かでポワポワした空気が一瞬でヒリついたように感じた。
言ってもいいのかな。だって図書館でたまたま落ちてきた呪文書って、どう考えても時の禁呪書だよね。現に私、過去に来てお父さんと出会ってるし。それ以外考えられないし。
固まった表情と思考。説明しなきゃ私は不法侵入した不審者。だけど説明したら禁忌に触れた魔女として失望されちゃう。例え、偶然だったとしても。
俯いてどう動くべきか模索するんだけれど、考えなんて一向にまとまらない。
「大丈夫です。怒りませんから」
「えっ」
見上げると、温かな笑みのままのお父さん。
私が抱えてる事の重大さなんて、わかってないよね。でも、話しちゃってもいいような……寧ろ話したいような。話しちゃおう、少しでも、私を知ってほしいもん。
「図書館……」
まず一言、場所が口から漏れる。
「はい」
「瞬間転移を覚えたくて、呪文書を借りに来てたの。そしたら本棚の上の方から別の呪文書が落ちてきた」
「はぁ……」
首を傾げながら相槌を打ってくれる。そりゃまだわからないよね。
……そういえば、何で急に落ちてきたんだろう。普通あの手の禁呪書って厳重に保管されてるはずだよね。噂では禁呪書は人を選ぶって伝えられてるけど……まさかね。
「拾い上げようとしたら魔法が発動しちゃったんだ。足下から魔方陣が浮かび上がって、ピカって光って、気がついたらあの部屋にいたの」
起こった事をそのまま口に出してみたけど、自分でもわけわかんないや。
「えっと。つまり、呪文書が勝手に瞬間転移を発動させたんですか」
あぁ。確かに肝心な事を話してないや。
お父さんの答えに、首を横に振る事で否定する。
「違うの。瞬間転移じゃないの。たぶん私、場所どころか時を飛んじゃって……えっ?」
話の途中で、急に足下から魔方陣が光り出した。
驚いて目を丸くするお父さん。だけど私だっていきなりで驚いてる。
「なっ、これは」
身体が勝手に浮かび上がる。ちょっと前にも起こった状況だ。直感で理解した。また時を飛んでしまうって。
「えっ、うそっ。私まだ……」
まだ何も説明できていない。まだお父さんとお喋りしたい事だってたくさんある。もっとたくさんの家事を教えてもらって、褒めてもらって、お母さんたちをどう思ってるかとか……
必死にお父さんへ手を伸ばしたんだけど、溢れる想いは魔方陣の発光にかき消されたよ。




