大きな背中
「きれいだなぁ」
手をつない廊下を歩いている時にも感じていた。リビングについて部屋を見渡したときに確信に変わった。
この刹那家があり得ないぐらい整理整頓されている。半日目を離すだけでゴチャゴチャに荒れるこの刹那家を!?
お母さんから褒められた整理整頓の術に自信を持っていたのに、パッと見ただけで勝れる要素が見当たらないだなんて。
まだ直接動きを見ていないのに圧巻されてしまった。
いや、まだだ。確かに整理整頓はお父さんの方が上かもしれないけど、お料理なら負けないもん。
「……? どうかしましたか」
「うんん、なんでもない」
1人で黙って首とか振ってるのを奇異に目で見られちゃったみたい。とりあえずごまかせたかな。
「あれ、机の上に何かある」
「あぁ、服を作っている途中だったんですよ。今片付けますね」
そっか。お父さん、洋裁も出来たんだっけ。凄く興味ある。
「ねぇ、見てもいい」
「まだ形が出来たぐらいで装飾を施していませんが、それでもいいなら構いませんよ」
「ありがとう」
逸る気持ちを抑えきれずに駆け寄って、オレンジ色の衣服を広げる。
「わぁ、凄い。かわいい」
キャミソールだ。たぶんお母さんのかな。確かにまだシンプルなんだけれど、手作りとは思えないほど縫い目が自然だ。
「お気に召しましたか」
「うん。ホント凄いよ」
振り向いたら平然そうにしてるんだけれど、ムズかゆそうな満更でもない笑みが待っていた。
こんなに凄い技術を持っているならもっと自信を持って誇れば……そういえばこの技術って血の繋がった家族から虐待の末、生き延びる為に否応なしに身に着けた術なんだよね。
違うんだ。私とは、踏んだ場数も突き落とされた絶望も。
「ちぃちゃん?」
でも、だからって言って憐れまれたいわけじゃないよね。私だってお母さんたちにいっぱい褒められて育ってきたんだもん。
だから、お父さんの事もいっぱい褒めてあげなくっちゃ。
「気に入っちゃった。私も本気で作ってほしいぐらい。なんて、はた迷惑かな」
茶目っ気を見せながら、心を鷲掴みにするぐらい魅力的な服なんだぞって伝える。
自信を持って胸を張ってほしいから。お父さんには堂々としていてほしいから。そして、褒められる事の嬉しさを噛み締めてほしいから。
無茶な要求にお父さんは目を丸くして驚いたけど、すぐに表情を綻ばせたよ。
「ははっ、光栄ですね。服はムリかもしれませんが、簡単な小物なら一緒に作れるかもしれませんね。やりますか?」
お父さんとの……共同作業。
「やりたい。うわぁ、凄く嬉しい」
ぴょんぴょんって跳ねちゃうくらい嬉しい。勢い余って踊り出したい気分だね。
「けどまあその前に、腹ごなしをしませんとね」
「そうだね。私もお手伝いしていい。料理は得意なの」
「チャーハン作るだけなんですけどね。でも一緒に作りましょうか」
グイグイ行ったら根負けしてくれたね。お父さんって、意外と押しに弱いんだな。
この後2人で並んで料理したんだけど、私が手解きを受けるくらいお父さんは上手だった。
ヒョロいクセに大きな背中を見せてくれるよ。




