時の邂逅
「……えっ、ここは……」
光が収まると、本棚に囲まれた空間じゃなくなっていた。視界に映るのはとても見窄らしくて、最低限の調度品しかないシンプルな一室。
窓から差し込む優しい陽射しに木製の机、ちょこんとしたタンスと隅にたたまれた布団。そして床にデカデカと描かれた見覚えのある魔方陣。
「私の、部屋?」
にしてはなんか、違和感あるんだよね。薄らと色合いが違うような、ソレにどこか新しい気がする。
「けどこのデタラメな魔方陣は間違いなく私の部屋にしかない代物なんだよね」
お母さんたちが昔、中々奴隷が定着しない事でヤケになって、4人で4分割して描いた唯一無二の魔方陣だもん。
「って事は、あのいきなり光り出した呪文書は瞬間転移の呪文書だったのかな」
急に発動するなんてはた迷惑な呪文書だよね。グレープと樺澄ちゃんを驚かせる事になるけど、事情を説明しに行かなくっちゃ。あっ、亀夜ちゃんにもどうにか連絡入れられないかな。
ドアの方へ振り向いてお留守番してる2人を探しに行こうと思ったんだけれど、流れる視線が机の上を通った時に気を引かれてしまった。
「あれ? 大切な日記帳が出しっぱなしだ。ちゃんと本棚にしまったはずなんだけ……ど?」
待って、明らかに物が少ない。樺澄ちゃんが部屋に入ってイタズラしたのかな。でもだとしたらもっと散らかってそうだし。泥棒もわざわざピンポイントで私の机の上を荒らさないでしょ。どういう事。それに……
「そもそも何で1冊目の日記帳がポツンと机の上に出てるの?」
他の日記帳も見当たらないし、私が翻訳した日記帳もぱっと見なさそう。どうなってるの。
何かのヒントにならないかと、縋る思いで日記帳に手を伸ばしてページを捲る。
「って、お父さんの日記帳に状況を判断する材料があるわけ……えっ?」
パラパラと捲っていたらかなり早い段階で空白になった。
急いでページを戻して最終日を確認する。
「どうして途中で止まってるの。内容は特に何の変哲のない日みたいだし……待って」
そう言えばこの日付近に気になる内容があった気がする。妙に印象的だったから覚えてる。確か、この次の日付……
「あの、どちら様でしょうか?」
「えっ?」
ドアを開けて姿を現した奴隷に困惑する。
……誰? って言うか。何?
魔女ととてもよく似た容姿をした、初めて見る種族の奴隷。黒髪のショートに黒目をしていて、肩幅が魔女より広い。体付きに柔らかさがなくて胴が広いんだけれど、どこかやつれてる感じがする。どう考えても栄養状態がよくないよ。
言葉も出せずに驚きながら見つめ合っていたんだけれど、奴隷が私の手元に視線を向けると指を差した。
「ソレ……」
「これ?」
最後に書かれたページが開かれているお父さんの日記帳……の事。
「見てもおもしろくないと思いますよ。僕の世界の文字で書いてあるので、何が書いてあるかわからないでしょう」
待って。今何って言った。僕の世界の文字。これお父さんの日記帳でしょ。って事は、そういう事なの。いくら何でもあり得ないでしょ。いくらわけわからない呪文書だったからって、そんな事。確信……とにかく確信が欲しい。
「あなた、名前は!?」
間違っていてほしいような、合っていてほしいようなウヨウヨする気持ちで、勢い任せに尋ねたよ。




