時のイタズラ
亀夜ちゃんだけ休日でまだ寝てるけど、みんな揃ったから朝食を食べるよ。
おぼつかない手つきで一生懸命食べる樺澄ちゃんを微笑ましく見守りながら箸を進める。
「ちぃちゃんは今日、図書館に出かけるのよね」
「うん。亀夜ちゃんにつれてってもらうんだ」
トーストをかじり合いながらお母さんと今日の予定についてお話しする。
「確か~、瞬間移動の呪文を覚えたいのよね~」
「そうそう。だから呪文書を借りに行くの。亀夜ちゃんみたいにシュンシュン移動できたらかっこいいし、ソレに便利そうだもん」
「でも呪文って覚えるの大変だからねっ。ホントに亀夜はよく覚えるなって感心しちゃうよ」
子虎ちゃんが大変さを語りつつ、無事に習得した亀夜ちゃんの事を称えた。何でも一度覚えようとして挫折したんだって。
「ママ、私もシュンシュンしたい!」
「あははっ。樺澄はもっと賢く、大きくなってからね」
フォークを握りしめたプニプニの手を突き上げて望む樺澄ちゃん。熱があるっていいね。
談笑しつつもいそいそと朝食をおなかに収めて、お母さんたちはお仕事へ出かけていった。
私は樺澄ちゃんを見守りつつも洗い物をして、洗濯機を回しながらお掃除をしていく。
時折お手伝いするって言ってくれるから、大雑把にやれるスペースだけ任せてみる。子供は熱しやすく冷めやすいからね。熱がある時に叩かないと何もやらなくなっちゃうから、やりたい時にやらせるのって大事なんだよね。
眠い目をしていたグレープはお部屋でダウンしてるよ。一時間したら復活するからって言ってくれてた。
睡眠時間も大切だから無理しなくていいのにな。
「ちぃちゃん、樺澄も、おはよ……う」
時間をかけつつも家事を終わらせた頃に、背後から声をかけられた。
「亀夜ちゃんおはよっ。グッスリだったね」
「おはよぉ」
振り返ると黒髪黒目のお姉さんが立っていた。黒いローブに長ズボン、目を眠そうに半開きになっている。
亀夜ちゃんはいつもフっと唐突に現れるから油断すると悲鳴出ちゃうんだよね。面白がってやってるから対抗したくなっちゃうけども。
ついでに私も驚かす側になってみたいし。
亀夜ちゃんが起きてきたタイミングでグレープも起きてくれたから、私達は図書館へ出かける事にする。グレープと樺澄ちゃんはお留守番。
お昼ご飯の仕込みはもう済んでるから、後はグレープが作ってくれる。
みんなで庭に出ると、亀夜ちゃんはどこからともなく、私はホウキ置き場から私のホウキを手に取った。身長に合った子供向けのホウキで、お母さんが買ってくれたんだ。
細い柄の内側には魔力を飛行魔法へ変換する魔方陣が刻まれているから、どんな魔女でも空を飛べるようになっている魔女の必需品だよ。
ホントは私もお母さんと一緒で風魔法を使えるから自力で飛べるんだけれど、ホウキを使って飛行するのがマナーみたい。
宙に舞ってからホウキに腰掛けて姿勢を安定させる。因みに昔お母さんみたいに立って乗ろうとしたら他のみんなに怒られた……お母さんが。
「いってらっしゃぁい」
グレープの側で手を振る樺澄ちゃんを見下ろしながら、亀夜ちゃんに先導されて青空を飛ぶ。
誰でも安定して空を飛べる利点がホウキにはあるんだけれど、やっぱり風魔法で強引に風を切り裂きながら飛ぶ感覚の方が、自分の力で飛んでるぞって感じがして好きだな。
燕子さんも同意見らしいし、風属性持ちの魔女のサガなんだろうね。
見下ろす住宅街は市街地へと移り変わっていき、中空にも魔法で浮かぶ巨大建物が姿を見せるようになる。
様々な施設がある中で私達は、魔法図書館へと入場する。
荘厳かつ静寂な空間。数多くの本棚が鎮座し、無数の本が収められている。
紙媒体で分厚さを誇る本は魔法による劣化処理を施されていて、古臭さこそあれどボロボロではない。
「それじゃ、私は樺澄ようの絵本を見繕ってく……る。ちぃちゃんは、1人で探せる……かい」
「大丈夫だよ。もしわからなかったら施設の人に聞くから。また後でね」
図書館内で亀夜ちゃんと別れて呪文書コーナーへと足を踏み入れる。歴史というか、威圧を感じられる気がする。
といってもこの辺に収められているのは一般魔法の呪文書。世の中には禁呪書もあるらしいけど、間違っても一般人が手に取れるような所には収められていない。
厳重管理ってヤツだね。
「まぁ聞いた話によると、禁呪書には意志が存在していて魔女を選ぶなんてあるらしいけどね」
おとぎ話もいいところだよね。さて、瞬間転移の呪文書はぁ……あった。また分厚いな。
本の背に手を伸ばして、頭の部分に指を引っかけて本棚から抜き出そうとする。本当はこの本の抜き方をしちゃいけないんだけどね。本が傷みやすいから。
コトリ。
「ん?」
本棚の上の方から物音が聞こえて見上げると、一冊の呪文書が落ちてきた。
床へと落下して、無造作にページが開かれる。
「ありゃりゃ。そんな本棚を揺らすほど強引じゃなかったと思うけどな」
引っかけた指を本の背から外して、先に落ちてきた呪文書を片付ける。
「何の呪文書だろ……えっ!?」
手が呪文書に触れた瞬間、足下に青白く輝く魔方陣が浮かび上がった。
「ちぃちゃん、どうし……なっ!」
本棚の影から亀夜ちゃんが来てくれて、反射的に手を伸ばした。
「亀夜ちゃん。助けっ……」
けど助けを呼ぶ声は、魔方陣の発光によって遮られたよ。




