移りゆく日常の風景
子虎ちゃんとリビングで分かれてキッチンに入ると、紫色の人影が既に料理をしていた。
「あれ、グレープ。今日は朝早いね」
スマートなコウモリ型の鳥人で、名前はダーク・グレープ。氷竜ちゃんが召喚した奴隷だよ。
「おはようさん、ちぃちゃん。くぁぁぁ、朝起きるのは辛ぇわぁ」
「グレープ夜行性だもんね。ムリせずにもうちょっと寝てたら」
「そうしたいのは山々なんだがよぉ。手伝わねぇと氷竜が怒んだよ」
気怠げなあくびに不機嫌な瞼。それでもキッチンに立って手伝ってくれるところ優しいんだよね。
「ありがとグレープ。ちゃちゃっと朝食作って食べちゃったら二度寝しなちゃいなよ」
「そうさせてもらうわ。やる事終わったらな」
グレープの顔を見上げてニカって笑うと、澄ました笑みが返ってきた。2人並んで料理を作るのはもうお手の物だ。
とは言え普段はお昼と夕飯がメインで朝食なんて滅多にないんだけどね。ついでに言うと一番キッチンに立ってくれるのグレープだし。
いい匂いがキッチンに充満し、家の中をゆっくりと侵食していく。
そろそろ匂いに気付いて、誰かお部屋から飛び出てくるかな。
今日お休みの亀夜ちゃんはまだ寝てるだろうから、先に起きてくるのはお母さんかな。
そう思って足音に耳を澄ましていたら、聞こえてきたのはトコトコとおぼつかない足音だった。
「あれ、おはよう樺澄。今日は早いね」
子虎ちゃんが気付いて樺澄ちゃんの元へと駆け寄っていく。
「ママおはよぉ。朝起きれたの偉い?」
「偉い偉い」
じゃれ合いながら再びリビングへ戻ってくる2人。
樺澄ちゃんは私より200歳は年下で、子虎ちゃんの子供だ。私は記憶が曖昧で覚えてないけれど、樹木系の奴隷と婚礼生誕の儀を執り行って生まれたのが樺澄ちゃんなんだ。
黄緑色をしたショートのくせっ毛が特徴で、プニプニしていてかわいいんだよ。
うん、朝ご飯も出来た事だし、そろそろお寝坊さんたちを起こしに行かないとね。
配膳をグレープに任せて、お母さんたちを起こしに2階へと上がる。んだけどお母さんの方は丁度お部屋から出てくるところで起こす手間がなくなった。
「おはよっ、お母さん。朝ご飯出来たところだよ」
「おはよ、ちぃちゃん。いつもありがとねっ」
お母さんは赤い艶やかな髪を腰の辺りまでスラっと伸ばしていて、コレまた赤いワンピースを着こなしてるの。スタイルいいから私もお母さんみたいに成長したいなって思ってる。
「私がやらないとまともなご飯にありつけないもん。お片付けだってやらないと散らかっちゃう一方だしねっ」
ご飯は美味しい方がいいし、お家だってキレイに片付いていた方が住みやすいもん。
なのにお母さんはウって胸を押さえて後退っちゃった。別に追い詰めてるつもりはないんだけどな。
「とにかくお母さんは先にリビングに行ってて。私は氷竜ちゃんを起こしてくるから」
「毎回の事だけど、気をつけなさいよ。寝起きの氷竜は……」
「私が相手でも手加減しない、でしょ。もうわかってるよ」
ヘタに起こそうとすると手痛い反撃してくるもんね。最初の方こそ泣かされまくったけど、もう対策はバッチリだから。
「気をつけなさいよ」
心配の声を背に氷竜ちゃんのお部屋へIN。
土魔法の盾を角度調整しながら精製しつつ氷竜ちゃんのベッドへ近付いて身体をゆする。
すると逆鱗に触れた竜の如く不機嫌な眼光を飛ばしながら反射的に激流の魔法を放ってきた。
角度はバッチリ。激流は土の盾に弾かれ、物を流さぬよう床を伝って廊下へと流れてゆく。この事も計算に入れてお片付けをしているから損害はないと思う。
身体をゆするは反撃をされるのを5回ほど繰り返してようやく氷竜ちゃんは身体を起こしてくれた。
「う゛ぅぅぅぅ」
「ようやく起きてくれた。早くしないとお仕事遅刻しちゃうよ」
櫛を手に、不機嫌に唸っている氷竜ちゃんのボサボサな髪を梳いていく。ウェーブのかかった青い髪がキレイなんだよね。
長袖の青いワンピースを引っ張り出してお着替えを手伝う。腰の紐を丁寧に結んで完成。
着替えが終わる頃にはすっかり氷竜ちゃんの機嫌は治っていた。
「おはよっ、氷竜ちゃん。朝ご飯食べよっ」
「そうね~。ご飯にしましょうか~」
笑顔で仕方ないかって溜め息を漏らしながらぁ、氷竜ちゃんはようやくベッドから起き出てくれたよ。
いつも通りの朝だねっ。




