チラつく幻
明るさが瞼を温かくする感覚に意識が覚醒する。
目を開けて窓の方を見るとカーテンの隙間からやわな陽射しが漏れていた。
伸びをしてから身体を起こして、布団から出て部屋の隅へとたたむ。
身に着けている赤いチェック柄のパジャマはお母さんが買ってくれた。お母さんの色。
白い壁にフローリングの床。真ん中にはおっきくて四等分に分けられた魔方陣が描かれている。
いつもの私の部屋。そして、元々はお父さんの部屋。
形見として残っているのはタンスと机ぐらいかな。私にはまだ大きいんだけれど、繋がりを感じられるから大切に使ってる。
コンコンって、ノックの音が聞こえてきて振り返る。
「おはようちぃちゃん。今朝も早いねっ」
「おはよっ。子虎ちゃんも早いよ」
お部屋に入ってきたのは白いショートの髪をした細身のお姉さん。
紺色の甚兵衛をパジャマにしている。まっすぐ見ると子虎ちゃんのおへそ辺りが見えるかな。早くおっきくなりたいな。
ネコみたいな縦長の瞳孔にパッチリお目々をしていて、元気いっぱいなんだ。
足音も立てずに軽快に近づいてきては私の事をぎゅぅぅって抱き締めてくれる。
「ん~、今日もちぃちゃんはかわいいねっ」
「も~、毎朝ホント飽きないよね」
文句を言うんだけど、子虎ちゃんはへへって機嫌良く笑うばっかり。私の話聞いてくれてるのかな。
「それじゃ今日も一緒に朝シャンしようよ。サッパリして目がシャッキリするよ」
「はいはい。一緒に行こうね」
子虎ちゃんの白くて長い手を繋いで、一緒に洗面所へと向かう。
キレイに片付いてる廊下を歩いていると私も鼻が高い。
なんせ私が掃除を覚えるまでゴミでいっぱいだったもんね。明理おばあちゃんに指摘されるまで歩きにくいのが普通だって思ってたし。
優しく教えてくれたから一生懸命お掃除した。最初は上手くいかなかったけど、少しでも片付いてたらお母さんたち気付いて褒めてくれた。
お父さんよりも掃除が上手だ、って。
とっても嬉しかったけど今ならわかる。全然片付いてなんていなかったし、お父さんの足下にも及んでいなかったって。
特にお父さんの日記帳を翻訳してから身に染みてわかった。さすがに今の私なら追い抜けていると思うんだけどね。
洗面所に着いたらまずはパジャマを脱がなきゃね。
子虎ちゃんと一緒にパジャマを脱ぎ捨てて洗濯カゴへ。まだ2人はすぐに起きてくるからお洗濯はもうちょっと後。
すっぽんぽんでお風呂場に入って、子虎ちゃんを前に座らせる。私はシャワーを出して温かさをチェック。程よく湯気が湧き上がって、丁度いい温度になってきた。
「準備オッケーだね。いくよ子虎ちゃん」
「ありがとっ、いつも悪いねっ」
嬉しそうに弾んでる声。微塵も罪悪感なんてなさそう。私も楽しいからいいんだけどね。
スッキリしたシャンプーの香りを楽しみながら白くて短い髪を泡立てていく。
コレもお父さんがやってた事なんだよね。奴隷でありながら最初から完璧に浴室を使いこなした伝説の奴隷。
ホント私のお父さんながらに異常というか、お母さんたちとんでもない当たりを引いたというかなんだよね。
シャワーをかけて泡を流すと、子虎ちゃんは首を振って飛沫を飛ばす。
「ありがと、すっごく気持ちよかったよ。シャワー貸して、交代しよっかっ」
「お願いね」
正直自分でやった方がムラなくできるんだけど、やってもらうの嬉しいから甘えちゃう。運が悪いと後で整え直さないといけないけれどね。たまに泡も流し切れてないんだよね。
不器用で力強い手つきが子虎ちゃんだなって感じさせる。
2人でサッパリしてから服を着る。
子虎ちゃんは白のノースリーブにジーンズのホットパンツ。
私はオレンジ色のワンピース。右の肩紐に白い翼のアップリケをつけているお気に入り。
コレから朝食を作らなくっちゃね。昨日の晩に仕込みはしておいたからそこまで手間はかからないけど、それでもやっぱり面倒なんだよね。
お母さんたちが起きてくるぐらいに出来たらいいな。




