第四話「魔王からの刺客」
紫竜暦187年、後暑季。
2月24日。
ルナティシアとしての転生から、約6年4ヶ月が経過した。
魔族――異星からの危険な知的生命体――への対抗手段は、魔力を消費するものばかりらしく、毎日、色んな方法での魔力総量の増加に、励んでいる。
――
屋敷の庭。
フィアーナ、ユキネ、リル、サクラたち4人とともに、テニスをしていると、急に、両足が沈み込み始めた。
足もとを見ると、大きな黒い渦が発生していた。
黒い渦の範囲は、フィアーナ、ユキネ、リルたち3人の足もとまで、達してしまっている。
「リョウさま、フィア、失礼します」
サクラがブラウスに、膝丈のスカートを合わせた姿で、声をかけて、両腕で、俺とフィアーナそれぞれの腰を抱きしめ、〖聖気〗――淡い金色の聖なるオーラ――の圧縮エネルギー製の両翼を羽ばたかせ、これ以上、沈み込まれないように、頑張ってくれる。
ユキネとリルのほうを見ると、イチゴが普段の愛らしい姿から、二足歩行のドラゴンに変化していて、両腕で、ユキネとリルそれぞれの腰を抱きしめ、両翼を羽ばたかせていた。
「うおっ」「きゃっ」
「にゃっ」「うわっ」「さらっ」
サクラとイチゴが頑張ってくれたが、俺たちは、勢いよく、黒い渦に、飲み込まれてしまった。
――
「うっ」「きゃっ」
「にゃうっ」「いたっ」「さらっ」
瞬く間の浮遊感の直後、地面に尻を強打して、声が漏れた。
〈ナノマシン〉の苦痛軽減のおかげで、痛みは、ほぼ感じない。
「みなさん、大丈夫ですか?
今、治癒します。
〖エリア・ヒール・モア〗」
首飾りの〈セラフィム・コア〉が輝いて、サクラがブラウスに、膝丈のスカートを合わせた姿で、左隣に現れ直し、俺たちに声をかけて、省略詠唱。
直後、金色の大きな魔法陣が俺たちの足もとに展開して、同色の光が俺たちの全身を包み込み、癒やした。
「ありがとう、サクラ」
「ありがと、さーちゃん」
「助かったわ」
「あんがと」
「さら」
「家族なんですから、
当然のことですよ」
3人とイチゴとともに、サクラに感謝を述べた。
「ここは?」
「街周辺の森の南東側みたいですね」
10メートル前方から、木々が並んでいるから、森の入り口か。
「前方に、警戒して」
ユキネが大きな半袖シャツ姿、3メートル前方に立った状態で、指示すると、白い魔法陣が彼女の右手もとに展開して、模造刀を生成した。
警戒しているため、猫耳は、レーダーのように動いていて、尻尾は、逆立っていて、普段より、太く見える。
「よし」
リルが大きな半袖シャツに、膝丈スカートを合わせて、緑色の半袖パーカーを羽織った姿、ユキネの右隣に立った状態で、若葉状の白い両耳に、長い金髪をかけて、前方に、美しく、しなやかな右手を向けた。
森の入り口を注視すると、樹木の陰から、赤黒い前髪みたいなものを確認できた。
ひとが立っているのか?
「人類ではなく、魔族です」
サクラが心の声を聞いて、声を少し抑えて、教えてくれた。
すると、フィアーナが橙色の袖なしワンピース姿で、右手を握ってくる。
俺が魔力成長期――10歳ぐらいの姿――だから、不安を和らげようとしてくれているんだろうな。
数秒後、黒い渦が森の入口前、2メートルの高さに発生して、成人サイズのものを落下させた。
成人サイズのものは、黒い全身鎧姿の人物だった。
アメリカのヒーローみたいだな。
「あれも、人類ではなく、魔族だと思います」
「な、名前は、で、デビル・サーヴァント。
せ、戦闘力は、に、2000!?」
リルが〖鑑定眼〗――聖霊族の能力――を発動させたらしく、震えながら、黒い全身鎧姿の魔族(仮)の情報を教えてくれる。
だが、彼女は、戦闘力に驚いて、中断してしまった。
「わ、わたしたちでは、
か、敵わないわね」
ユキネが震えながら、危機的な状況であることを教えてくれる。
恐怖によって、猫耳は、伏せていて、尻尾は、縮こまっていて、普段より、小さく見える。
ルナティシア女性の10倍だから、敵うわけがない。
パトロール中の〈マジック・アーマー〉――高さ5メートルの有人ロボット――、通ってくれ。
「ルナティシアの男児を発見。
排除を開始します」
デビル・サーヴァントが立ち上がって、宣言し、こちらに向かって、歩き始めた。
やばい、やばい。
「「はあ……はあ……、かはっ」」
デビル・サーヴァントは、ユキネとリルに迫ると、立ち止まった。
気づけば、ユキネとリルが地面に倒れて、うつ伏せになっていた。
「ユキネっ! リルっ!
おまえ、なにをしたっ!?」
「邪魔なため、戦闘不能にした」
「ふざけんなっ!」
デビサバに、右手の平を向けて、魔術を発動。
直後、青色の魔法陣が展開して、氷塊を放つ。
氷塊は、デビサバに直撃したが、霧散してしまった。
魔術、効かねえのかよ。
攻撃手段、魔術しかないのに。
俺とフィアーナは、動けるけど、であるは、無効化される。
「逃げよう」
絶望しかけると、フィアーナが左手首を掴んできた。
「でも、ふたりが――」
「ふたりは、わたしが応急処置しますから、
リョウさまは、フィアと逃げてください」
サクラが告げて、金色エネルギー製の両翼を広げて、羽ばたかせ、上昇。
「走るよっ」
フィアーナが振り向かせて、運動靴、膝上丈の黒い薄タイツ越しの美脚で、駆け出す。
それと同時に、成人サイズの物体が頭上を通過して、進行方向に着地した。
「うそでしょっ!?」
成人サイズの物体、改め、デビル・サーヴァントは、こちらに振り返って、歩き始めた。
「フィアーナ!?」
フィアーナは、恐いはずなのに、少し前進し、俺を背にした。
「フィアーナっ!
飛んで、逃げようっ!」
「多分、逃げ切れないよ」
飛んでも、だめか。
「かはっ!」
デビル・サーヴァントは、フィアーナに迫ると、立ち止まった。
気づけば、衝撃音と突風が発生するとともに、彼女の姿が消えていた。
フィアーナは?
周囲を見渡し始めると同時に、右のほうから、どさっ……という落下音が聞こえた。
そちらを見ると、フィアーナが数メートル先の地面に、仰向きに倒れていた。
「フィアーナ!」
慌てて、フィアーナのもとへと、駆け寄る。
「うぅ……」
フィアーナのもとに着くと、彼女は、苦痛により、美しく、温和で、愛らしい顔を歪め、冷や汗が吹き出している。
「サクラ! 治癒!」
「はい」
サクラが膝上丈の白い薄タイツ越しの美脚で、フィアーナのそば、俺の左隣に着地し、しゃがみ込んだ。
「ひどい。
リョウさま、協力してください」
「なにをすればいい?」
サクラの隣で、しゃがみながら、尋ねる。
「まず、フィアの胸もとに触れて、
魔力を流してください」
「フィアーナ、ごめんね」
フィアーナに声をかけて、胸もとに触れると、サクラが美しく、しなやかな右手を重ねてきた。
「フィアを癒やしてほしいこと、
〖シャイン・ヒール〗という魔術名を
詠唱してください。
ちゃんと、気もちを込めて、ですからね」
「わかった。
《魔力よ。フィアーナを癒してくれ。
〖シャイン・ヒール〗》」
「〖シャイン・ヒール〗」
癒やしてほしい……という気もちを込めて、詠唱を開始し、最後の魔術名でサクラが声を重ねて、ともに詠唱を終えた。
直後、金色の魔法陣がフィアーナの下に展開して、同色の光がフィアーナの全身を包み込み、彼女の表情を和らげた。
光が収まると、フィアーナがまぶたを開いた。
「リョウさまのおかげで、治癒できました」
よかった。
『条件を満たしました。
〈セラフィム・コア〉の解放レベルが
上昇しました』
『〈セラフィム・コア〉の
解放レベル上昇によって、
スキル〖聖剣憑依〗が使用可能に
なりました』
ルナエルさまっぽいボイスでのアナウンスが〈セラフィム・コア〉から、流れた。
聖剣憑依? どんなスキルなんだ?




