第九話「軽音部2」
後半、三人称でのバトル回。
紫竜暦193年、後暖季。
11月7日。
入部から、約7ヶ月が経過した。
学園祭から、数えると、8日になる。
――
放課後。
部室で、セーラー服姿のヒナタたちとともに、次の披露曲を決めていると、扉が開いた。
振り向くと、赤色の大きな瞳の北銀獣族女子がセーラー服姿で、部室に入ってきた。
やんちゃそうだし、セーラー服のボタンを留めずに、はだけさせているし、少し苦手だな。
「おっ、いたいた」
北銀獣族女子は、俺を見て、美しく、凛々しく、華やかな顔を綻ばせた。
そして、学生靴、膝上丈の黒い薄タイツ越しの美脚で、駆け寄ってくる。
その動きに合わせて、長い黒髪、衣服の裾が靡く。
さらに、右手首の〈星のルナリング〉、淡い赤色のキャミソール越しの豊満すぎる胸が揺れる。
濃い桜色のスカーフに、金鈴付きの〈VDRチョーカー〉、ひとつ上の先輩で、遊女――遊者種の女性――ってことか。
「やっぱ、かわいい顔してるな」
北銀獣族な先輩女子が美しく、しなやかな左手で、顎を掴んできて、強制的に、目線を合わせてきた。
背、高っ!
「あーしは、2年のスズリ。
よろしく、オウカ」
北銀獣族な先輩女子、改め、スズリ先輩がやや甘く、明瞭な美声で、自己紹介してくれる。
オウカって、誰だよ?
「彼は、リョウです。
先輩の人違いじゃないですか?」
「違ってねえよ。
入学式で、おうかしてえって言ってたから、
こう呼んでるんだよ」
ツバサが紹介してくれて、指摘すると、スズリ先輩は、優しい感じで、否定した。
どうして、知っているんだ?
「入学式は、上級生の端末に
中継されるからね」
シグレが教えてくれる。
全校生徒に知られてる。
めっちゃ恥ずかしい。
「ふっ、それにしても、びびりすぎだろ」
スズリ先輩が軽く笑う。
それによって、可愛らしい八重歯が現れた。
「男は、守るもんなんだから、
いてえことは、しねえよ」
彼女は、美しく、しなやかな右手で、頭を撫でながら、言ってくる。
撫でる動きに合わせて、右手首の〈星のルナリング〉が揺れる。
それ以外は、するんだろうな。
「恐怖心、吹き飛ばしてやるよ」
スズリ先輩が美しく、凛々しく、華やかな顔を近づけてくる。
「な、なにをなさるおつもりで?」
「キスに決まってんだろ」
ケンカに明け暮れてそうな見た目だけど、思いきり、遊女だわ。
それも、フユネと違って、攻めるほう。
「俺には、フィアーナ……じゃなくて、
ユキネとハルネがいるので、
遠慮させていただきます」
こういうタイプは、フィアーナより、ユキネのほうが対処できそうだから、切り替えた。
「だれだ?」
「1年の声がきれいな猫耳ちゃんと
妹ちゃんです。
学園祭のとき、アナウンスしてました」
シグレがスズリ先輩に、ふたりのことを教えてくれる。
「あー、美声後輩か。
あいつ、ねえちゃんなんだな」
よかった。
知ってくれてた。
「でも、同じクラスの遊女に、
甘えさせられてるんだから、
わかってくれるだろ。
だから、あーしに甘えやかされな」
「ろっぴーの気もちを考えてあげてください」
「スズリ先輩、強引すぎます」
スズリ先輩が強引に口付けしようとしてくるが、シグレ、ツバサが彼女を引き離してくれた。
ヒナタは、俺を守るように、前に立った。
「くそっ。
おまえら、角付きは、
母性の塊のくせに、
力が強すぎなんだよ」
それは、わかるわ。
「せ、正当な理由がない限り、
うちの部員には、触れさせません」
ヒナタが勇気を出して、スズリ先輩に言い放った。
「ユキネ? の許可があれば、
いいんだな?」
「ま、まあ」
「今度、決闘して、
許可を取ってくるか」
やばいこと、言い出した。
――
翌日の昼休み。
ユキネが学校の屋上に、足を踏み入れた。
屋上の中央には、スズリがセーラー服姿で、仁王立ちしている。
「先輩がこれの差出人ですか?」
「そうだ。
あーしは、2年のスズリ」
ユキネがセーラー服姿で、紙を見せて、尋ねると、スズリは、肯定し、名乗った。
「下駄箱に手紙って、
古風な手法で、懐かしくなりました」
「そう思ってくれるやつで、よかった。
アドレスを知らねえから、
下駄箱に、手紙を入れたんだよ。
こんな時代に古すぎるかと思いながら、な」
決闘が始まるのに、和やかな雰囲気になってしまっている。
「それで、どうして、手紙をくれたのですか?」
「あーしと決闘してもらうためだ。
あーしが勝ったら、
オウカ……1年の始祖返りを
甘やかさせてもらう」
「決闘しなくても、
甘やかしてもらって、構わないのに」
「もう会話は、終わってるぞ」
スズリが接近して、両拳による連続攻撃を放ってくる。
ユキネは、〖神気〗の〖予見眼〗を発動させていて、彼女の動きが予測できるため、攻撃を回避したり、手刀で、受け流していく。
「ちっ!」
スズリが拳による連撃をやめて、回し蹴りを放ってくるが、ユキネは、跳び退き、回避した。
「おまえ、あーしの攻撃、見えてるだろ?」
「はい。
予見できないと、魔王や配下から、
旦那さまを守れませんから、
模擬戦では、使うようにしているんです」
スズリが後方に跳躍して、確認すると、ユキネは、正直に返答した。
「始祖返りが魔王とかに狙われるって、
ガチだったんだな」
魔王たちに命を狙われているのは、始祖返りではなく、〖始祖の器〗所持者なのだが、多くの人々は、事情を知らないため、勘違いしている。
「解除しますね」
「いや、いい。
秘策を思いついたからな」
スズリが接近して、ユキネを抱きしめ、彼女のふわふわ黒色尻尾を掴んできた。
それによって、ユキネは、脱力し、体勢を少し崩してしまった。
スズリは、それを見逃さず、上段での回し蹴りを放つ。
「あーしの勝ちな」
彼女は、上段での回し蹴りを寸止めして、言った。
「姑息な真似して、ごめんな」
「いえ。勉強になりました。
女体化できる魔族に、
こうされることも、
あるかもしれませんし」
ユキネは、体勢を整えると、服の乱れを直し、スズリを見上げる。
「文句を言わねえとか、
おまえ、いいやつすぎるだろ」
「剣士ですから」
「剣士か。
どれくらい、すげえ剣士なのか、
見せてくれねえか?」
「わかりました。
〖魔力変換・氷棒〗」
ユキネが省略詠唱すると、青い魔法陣が右手もとに展開して、氷の棒を生成した。
スズリは、跳躍して、後退した。
ユキネが〖真なる銀獣〗を発動すると、黒色の長い髪、愛らしい猫耳、ふわふわ尻尾が白銀色へと染まって、〖闘気〗が彼女の全身を包み込んだ。
「あーしも」
スズリも、〖真なる銀獣〗を発動すると、〖闘気〗を纏った銀髪状態になった。
「きーちゃん!」
「ユキ!」
扉が勢いよく、開いて、フィアーナが〖闘気〗由来の四肢鎧、〖星天の王気〗を纏った状態で、リルとともに、現れた。
「あれ? 魔族は?」
「いないわよ。
スズリ先輩に本気を見せて……と
頼まれたから、
真獣化とバフブレを使ってるだけよ」
「そうなんだ」
「勘違いしちゃったねー」
「だね」
フィアーナとリルがセーラー服姿で、照れ笑いする。
(ふたりとも、愛らしいんだから)
ユキネがふたりの様子を見て、美しく、お淑やかで、涼やかな顔を綻ばせる。
「気を緩めたら、
本気を出せなくなるぞ」
「ごめんなさい」
スズリが注意すると、ユキネは、謝って、真剣な表情に戻った。
「気を引き締めて、
本気で、行きます!」
「来い!」
ユキネは、接近しながら、腕を引き、体を捻る。
そして、腕の引き、体の捻りを戻すとともに、スズリの肩上へと、突きを放った。
「はっやっ!」
スズリには、ユキネの攻撃は、見えなかったようだ。
スズリからすれば、ユキネは、戦闘力が10倍という格上の相手なのだから、当然である。




