第八話「軽音部」
紫竜暦193年、前暖季。
4月13日。
学生になってから、6日が経過した。
今日から、部活動に参加できる。
――
ホームルームを終えて、放課後になり、ツバサ以外の女子が部室へと、移動してから、10分が経過した。
ツバサは、俺の撮影のため、部活は、入らないらしい。
「リョウどの!」
〈VDRチョーカー〉で、目的地のデータを確認しながら、教室の入り口に向かっていると、後方から、男子の声が聞こえた。
振り返ると、ぽっちゃりの北聖霊族男子なノアが立っていた。
「これ、落としましたぞ」
「ありがとう」
ノアが素朴で、誠実で、親しみやすい顔を綻ばせて、ハンカチを手渡ししてくれた。
「拙者は、拾っただけですから。
して、ツバサ殿は、
なにをされているんでござるか?」
ノアが撮影中のツバサを見て、穏やかで、和ませるような声で、尋ねてくる。
「密着撮影だけど」
ツバサは、〈デュアル・ドローン〉を持った状態の右手を下ろして、返答した。
「〈コイセカ〉が好きで、
その主人公に似てるらしくて」
「なるほど。
〈コイセカ〉というと、
ルナティックのラノベですな」
「えっ!? 知ってるの?
ファンだったりする?」
ツバサがハイテンションになって、ノアに尋ねる。
「が、概要は、知ってますが、
まだ未修でござるよ」
「そっか……」
ノアが気押されながら、返答すると、ツバサのテンションが下がった。
「つー」
「おにいちゃん!」
「うっ、イケメン……」
ギンガが近寄ってきて、ツバサに声をかけると、彼女のテンションが高くなった。
ノアは、素朴で、誠実で、親しみやすい顔を引き攣らせている。
前回の生で、男前に、嫌なことされたのか?
「ふたりが部活に遅れちゃうから、
そろそろ、行かせてあげて」
ギンガは、ツバサの頭を撫でながら、部室への移動を促してくれる。
「おにいちゃんの言う通り。
リョウ、行くよ」
「う、うん」
ツバサとともに、教室を後にした。
――
目的地の部屋に到着した。
「はーい」
扉をノックすると、美声が聞こえて、足音が近づいてくる。
扉が開き、シグレが現れた。
「リョウだ。
部活の場所がわからなくなった?」
「いや……」
「どの部活?」
「軽音楽部」
返答すると、シグレは、垂れ目で、橙色の大きな瞳を輝かせる。
「軽音楽部は、うちの部なんだけど、
入ってくれる……ってこと!?」
「う、うん」
「ありがとう」
「ちょっ……!」
シグレは、感謝を述べて、抱きしめてきた。
それによって、果実みたいな甘酸っぱいフェロモンが濃く香り、セーラー服越しの豊満すぎる胸が押し当てられ、ドキドキしてしまう。
「急に、抱きついて、ごめん。
嬉しくて、やっちゃっただけだから、
訴えないで」
シグレが抱き着くのをやめて、謝罪する。
「証拠映像を撮られてる。
ツバサが代わりに訴えるってこと?」
「おねえちゃんの友達を
訴えたりしないって」
「そうだよね。勘違いで、よかった」
シグレは、返答を聞いて、安心したみたいだ。
「リョウの入部は、
勘違いじゃないよね?」
「うん。勘違いじゃないよ」
「よかった!
入って、入って!」
シグレは、美しく、しなやかな左手で、左手首を掴んできて、部室の中へと導いてくれる。
部室に入ると、王竜族女子が背を向けて、ギターを弾いていた。
「ヒナ、入部希望者だよ」
「うん」
めっちゃ集中してる。
「ヒナ、こっちを向いて」
「なっ!?」
シグレが王竜族女子なヒナタの肩を掴んで、こちらのほうに、向かせる。
ヒナタは、俺たちを見るなり、美しく、温和で、可憐な顔を赤らめて、シグレの背後に、隠れてしまった。
「ごめんね。
ヒナ、人見知りで」
人見知りの上に、前髪を上げた姿を見られたんだから、隠れるよな。
「ツバサは、ともかく、
なんで、あの子がここに?」
「うちらの部に、入りたいんだって」
ヒナタが垂れ目で、青色の大きな瞳で、ちらちら……と、こちらを見ながら、甘く、あどけない美声で、シグレに尋ねる。
「理由、聞いて」
「理由――」
「好きなひとに、歌を聴いてもらいたくて」
「わたしと同じ」
こちらが入部理由を述べると、ヒナタは、呟いて、隠れるのをやめた。
その動きに合わせて、右手首の〈雨のルナリング〉、そして、セーラー服越し、シグレと同じ豊かさの胸が揺れる。
「う、歌を聴いてもらいたい……っていうことは、
ぼ、ボーカルになるんだよね?」
「う、うん。
そ、そうだよ」
「ふたりとも、緊張してるっ。
うけるっ」
シグレが俺たちの様子を見て、笑い始めた。
「ま、まず、音域を確認させてほしい」
「わ、わかった。
お、おねがいします」
「う、うん」
ヒナタが〈VDRチョーカー〉に触れると、白い光が縁を走り始める。
そして、空中で、左手のひとさし指を動かす。
「じゅ、準備できたよ。
お、音域確認用の曲を流すから、
そ、それに合わせて、
は、発声してほしい」
「わ、わかった」
「な、流すよ?」
「お、おねがいします」
「う、うん」
ヒナタが空中で、左手のひとさし指を動かすと、音域確認用の曲が机の上の〈デュアル・ドローン〉から、流れ始めた。
音域を確認したところ、転生前と比べて、高音が出せるようになっていた。
始祖返りは、高音が出せるらしい。




