第十話「軽音部3」
紫竜暦194年、前暖季。
4月の3週目。
ルナティシアとしての転生から、13年が経過した。
学生になってから、1年になる。
2年生に進級して、スカーフが赤色から、濃い桜色になった。
――
放課後。
「このバンドを完成させるために、
部員を増やしたいんだけど、
いい募集方法、ある?」
部室に集まると、ヒナタが全員に、尋ねてきた。
キーボードがいないもんな。
「あーしとツバサがいるんだから
増やさなくても、いいだろ」
「わたしは、撮影係ですからね」
ツバサがバンドメンバーではないと否定する。
参加したら、撮影できないもんな。
「ポスターとか、どうかな?」
「なっつ」
「ルナティシアからしたら、
1000年以上前の募集方法だけど?」
こんな技術が進んでいる惑星では、古すぎて、だめだよな。
「あーしは、好きだけど、
どうだ?」
スズリ先輩がヒナタに尋ねる。
スズリ先輩も、ユキネの下駄箱に、手紙を入れてたもんな。
「珍しさ、懐かしさで、意識を引ける。
リョウ、おねがい」
「うん」
こうして、部員募集のポスターを作製することになった。
その夜、屋敷の変換生成機――材料や魔力を消費して、ものを生成する機械――で、用紙と色鉛筆を出力して、ポスターを完成させた。
――
2日後の昼休み。
部員4人で、手分けして、ポスター8枚を貼ることになり、俺は、2年と1年の教室前の壁を担当する。
2年の教室前の壁に、ポスターを貼り終えて、1年の教室前に移動した。
ツバサは、ウィステリアとの約束があるため、同行を中断したから、いない。
「あっ。
貼ってから、拾おう」
ポスターを貼るため、ポスター裏の上下に、変換生成機産の固形のりを塗り、壁に貼ろうとしたところで、固形のり入り容器の蓋を落としてしまった。
「この蓋? 先輩のですか?」
「うん。
なっ!?」
壁に貼り終えると、女子の声が聞こえた。
そちらを見ると、やや垂れ目で、濃い桜色の大きな瞳の北聖霊族女子が立っていた。
小悪魔っぽいし、セーラー服の胸もとをはだけさせているし、苦手だな。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
固まっていると、北聖霊族女子が固形のり入り容器の蓋を渡してくれる。
赤色のスカーフに、金鈴付きの〈VDRチョーカー〉、ひとつ下の後輩で、遊女ってことか。
「そんなに、驚くなんて、
すごく集中してたんですね」
「う、うん」
北聖霊族な後輩女子が美しく、蠱惑的で、小悪魔っぽい顔を綻ばせて、笑う。
敬語なしで、返事してしまったけど、後輩だから、大丈夫か。
「部員を募集しているんですね」
北聖霊族な後輩女子が接近してきて、腕を絡めてきて、瑞々しく、艶やかな唇を動かし、不自然に甘く、惑わすような美声で、話を切り出す。
接近する動きに合わせて、長い茶髪、膝上丈の水色スカートの裾が少し靡く、右手首の〈花のルナリング〉が揺れる。
腕を絡められたことによって、果実みたいな甘酸っぱいフェロモンが濃く香り、はだけ気味のセーラー服越しの豊満すぎる胸を押し当てられて、不覚にもドキドキしてしまう。
接し方も、声も、小悪魔すぎるだろ。
「う、うん。
そ、そうらしいよ」
俺のイメージだけど、フィアーナとの幸せを壊されそうだから、関わりを持たなくて、済むように、他人事みたいに、話す。
「貼っていたのに、
ここの部員じゃないんですか?」
「お、俺は、た、頼まれただけだからね」
「じゃあ、先輩は、どこの部員なんですか?」
「えっと……あの……」
やばい。
とっさのことだったから、そこまで、考えてなかった。
「ふふっ、本当は、軽音部ですよね?」
さすが、小悪魔。鋭い。
「い、いや……?」
声が上ずった。
終わった。
「かっこいい部活なんですから、
恥ずかしがる必要ないですよ」
「それも、そうだね」
恥ずかしくて、隠したと思われた。
よかった。
「先輩、おもしろいですし、
わたしも、軽音部に入ろうかな?」
やばい。入部されたら、困る。
「やめといたほうがいいよ。
部長は、無口だし、
副部長は、笑ってばかりだし、
先輩と撮影係は、こわいし」
みんな、ごめん。
「個性豊かで、おもしろそうですね。
よし。わたし、軽音部に決めました」
「そっか……」
このままだと、将来、フィアーナとの幸せが破壊されてしまうけど、策が思いつかないから、もう諦めるしかない。
そう思ったところで、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「それじゃあ、先輩、また」
「う、うん」
北聖霊族な後輩女子が腕を解放して、教室へと戻っていく。
これから、思いやられるな。
「リョウ先輩」
「ひゃい!?」
急に、囁かれて、右を見ると、北聖霊族な後輩女子がいた。
教室に戻ったんじゃないのかよ。
「ふふっ、
わたしの名前は、ミル・カンロです
ミルちゃんのこと、
ちゃんと覚えていてくださいね」
「わ、わかった」
北聖霊族な後輩女子、改め、ミルは、前傾姿勢になり、はだけ気味のセーラー服越し、圧倒的な豊かさの胸を強調させた状態で、名乗った。
飴を彷彿とさせる名前だな
「リョウ先輩、また放課後に会いましょうね」
ミルは、今度こそ、教室に戻っていった。
できれば、会いたくないよ。
――
放課後。
部室に集まって、学園祭での披露曲を決めていると、扉がノックされて、開いた。
そちらを見ると、ミルが部室に入ってきた。
「リョウ先輩、来ましたよ」
ミルが俺を見るなり、膝上丈の黒い薄タイツ越しの美脚で、駆け寄って、抱き着いてくる。
駆け寄る動きに合わせて、長い茶髪、膝丈の水色スカートが靡く。
抱き着かれたことによって、果実みたいな甘酸っぱいフェロモンが濃く香り、はだけ気味のセーラー服越し、圧倒的な豊かさの胸が押し当てられ、ドキドキしてしまう。
「ろー。おまえの知り合いか?」
「ポスターを貼ってるときに、
知り合いました」
スズリ先輩が尋ねると、ミルが腕を絡めてきて、返答した。
「腕を絡めないで。
そこは、フィアさんの場所なんだから」
ツバサがミルに注意してくれる。
「だれですか?」
「あんたと違って、
根っからの美少女で、
リョウの正妻よ」
「わたしも、可愛いですよ」
うるせえ。
「根っからの美少女は、
自分で言わないの」
そうだ、そうだ。
「入部希望者か、聞いて」
「はい。
おもしろそうなので、入部します」
ヒナタがシグレの背後に隠れた状態で、幼馴染の彼女に頼む。
すると、シグレが尋ねる前に、ミルが肯定し、入部理由を述べた。
「やりたいポジション、あんのかよ?」
「どういうものがあるんですか?」
スズリ先輩が尋ねると、ミルは、俺に尋ねてきた。
「聞いてるのは、スズリ先輩でしょ」
ツバサちゃん、ありがとう。
「ぼ、ボーカル、ギター、ベース、
ドラム、キーボードの5つ」
「できれば、キーボードを
やってほしいんだけどね」
ヒナタが紹介して、シグレが続いた。
「キーボードが合ってそうですけど、
いろいろ、試していいですか?」
「い、いいよ」
試す必要があるのか?
「はい。
肩にかけて」
シグレがミルに、肩かけストラップ付きのギターを渡す。
「リョウ先輩、かけてください」
「なんでだよ!?」
自分で、かけろよ。
それか、シグレちゃんに、かけてもらえよ。
「リョウ先輩、
優しくしてくれそうなんですもん」
「変なところを触ってしまっても、
なにも、言わないでよ」
「変なところ……って、どこですか?」
ミルが嫌な笑みを浮かべて、尋ねてくる。
やっちまった。
「先輩をからかわないの」
「えー」
ツバサが注意して、ギターのストラップをミルの肩にかけた。
残念がるな。
このあと、ミルは、俺をからかえなくて、残念そうにしながら、楽器を試して、結局、キーボード担当になった。
第三章「青年期 青春編」、終了。
次回、第四章、開始。




