第五話「始祖アイギスの嵐天姫」
後半、三人称。
|紫竜暦193年、後暑季。
2月、初週。
ルナティシア――ルナティック人――としての転生から、12年3ヶ月が経過した。
――
上空。
〈インテリジェンス・ブルーム〉――飛行補助AI搭載の金属箒――に跨って、風属性魔術を継続発動させ、街周辺の森へと、飛翔していた。
「リョウー!」
女性の声が4時の方向から、聞こえた。
膝を少し伸ばして、前進をやめ、足からの風を弱めて、降下する。
そうしながら、そちらを見ると、垂れ目で、緑色の大きな瞳の王竜族おねえさんなフウランさん――始祖アイギスの嵐天姫――がいた。
彼女は、ブラウスに、膝丈スカートを合わせて、水色の袖なしローブを羽織った姿で、〖闘気〗由来の両翼を羽ばたかせ、こちらへと近づいてくる。
『守らないと』
サクラが呟く。
俺が着地すると、ブラウスに、膝丈スカートを合わせた姿になって、俺の右側に現れた。
フウランさんは、戦闘ブーツ、膝上丈の白い薄タイツ越しの美脚で、着地して、駆け寄ってくる。
その動きに合わせて、桜色グラデーションの長い白銀髪や服の裾が靡く。
さらに、装飾品が揺れるが、豊満すぎる胸は、ブラウスの特殊効果で、微動だにしない。
「まだ覚醒してません!
リョウさまは、よわよわです!」
「魔力の質で、わかる。
わらわは、500年も、
生きておるからの」
サクラが細い両腕を広げて、瑞々しく、艶やかな唇を動かして、甘く、優しげな美声で、言い張る。
すると、フウランさんは、美しく、温和で、魅惑的な顔を綻ばせて、返答する。
〖王気〗が覚醒すると、魔力の質が変わるらしいんだよな。
「本当に、わかっています?」
「シオンの紹介に囚われすぎじゃ。
わらわは、バトルが好きなだけで、
わからずやでは、ないぞ?」
フウランさんは、バトル大好きだけど、優しいんだよな。
「フウランさんは、
なにをしてたんですか?」
「魔族狩りじゃ。
上級以下は、禁止になっておらぬからの。
リョウは、空中散歩か?」
サクラの肩越しに、尋ねると、フウランさんは、瑞々しく、艶やかな唇を動かして、甘く、華やかな増艶美声で、返答して、逆に尋ねてきた。
「いえ、初めての魔族狩りに
向かうところです」
「初めてか。
よし。わらわが抱きしめて、
勇気付けてあげるかの」
「できるんですか?」
サクラが心の声を漏らす。
「わらわも、王竜族の女じゃぞ?
勇気付ける程度、余裕でできる。
じゃから、退いてくれ」
「はい……」
サクラは、渋々、俺の右側に移動した
すると、フウランさんが細い両腕で、抱きしめてきた。
それによって、甘ったるいフェロモンが濃く香り、水色のローブ、ブラウス越し、圧倒的な豊かさの胸が押し当てられる。
だが、彼女は、始祖アイギスと契約しているため、ドキドキしない。
「よしよし。
リョウは、たくさん努力したんじゃ。
上級以下の魔族など、敵ではないからの」
フウランさんが俺の後頭部を撫でながら、勇気付けてくれる。
さすが、王竜族おねえさん。
母性が強すぎて、ずっと撫でられていたい。
「はい。おしまい。
勇気が出てきたかの?」
「はい。出てきました。
ありがとうございます」
「うむ。それじゃあ、行くかの。
ほれ、わらわの背中に乗れ」
フウランさんは、こちらに背を向けて、しゃがんだ。
「えっと……?」
「ついていこうと思っての。
同行するんじゃから、
魔力を浪費せずに、済むように、
背負っていくことにした」
「ついてくるんですか?」
サクラが少し嫌そうに尋ねる。
「お主だけでは、
リョウを守れぬかもしれんぞ?」
「うっ。おねがいします」
痛いところを突かれちゃったな。
「失礼します」
「うむ」
声をかけて、水色ローブ越しの背中に、体を預ける。
そうしたことによって、甘ったるいフェロモンが濃く香り始めた。
「行くぞ」
フウランさんは、背負った状態で、立ち上がった。
そして、声をかけてきて、森へと、駆け出した。
――
森の中。
開けた場所に到着した。
「下ろすぞ?」
「はい」
フウランさんは、甘く、華やかな増艶で、告げて、着地させてくれる。
「ここまで、ありがとうございます」
「どういたしましてじゃ」
感謝を述べると、フウランさんは、美しく、温和で、魅惑的な顔を綻ばせて、返答してくれた。
「これが〈魔巣門〉。
魔族の巣の出入り口じゃ」
フウランさんが指先露出の白い手袋越しの右手で、前方の赤黒結晶の扉を示して、教えてくれる。
「触れると、開き、
潜り抜けると、巣の中に入れる。
む?」
フウランさんは、魔族の巣の入り方を伝授してくれると、5時の方向を見た。
「〖邪気〗が近づいてくる。
この〖邪気〗、狂血魔か。
リョウを狙ってるな」
ネトニス、自分の強い配下に、俺の命を奪わせる気だな。
他力本願せずに、自ら、奪いに来いよ。
「〖生成〗」
フウランさんが省略詠唱すると、白い魔法陣が右手もとに展開し、薙刀を生成した。
「わらわが退けるから、
リョウは、安心して、巣を攻略しておれ。
危険だと思ったら、
〖聖剣覚醒〗を使用して、
逃げるんじゃぞ?」
「はい」
「では、またな」
「はい。また」
「〖ハイド・アクセル〗」
フウランさんが省略詠唱すると、彼女の姿が見えなくなり、突風が発生した。
「行くか」
『そうですね』
〈魔巣門〉に触れると、自動で、開く。
〈魔巣門〉を潜った。
――
上空
「うおっ!?」
フウランは、イクサが両足の裏から、炎を噴射させて、飛翔している姿を発見すると、接近して、霊体化を解除した。
イクサは、いきなり、フウランが目前に現れたことに、驚いた。
「おぬし、
〖始祖の器〗を襲うつもりであろう?」
「そう思うよな。
俺は、友達になりてえだけで、
襲うつもりは、ねえよ」
フウランが確認すると、イクサは、溜息を吐いて、否定した。
「はははっ。
魔族が人類と友達になりたいとはな」
「自分でも、変だと思うけど、
そこまで、笑わなくても、いいだろ」
フウランが豪快気味に笑うと、イクサは、嫌そうにする。
『サテラから、通信です』
フウランの〈VDRチョーカー〉が起動して、AIルーが告げる。
「仲間からの連絡だ。
ちょっと待っててくれ」
「おう」
「《応答》」
フウランが呟くと、半透明の薄板状ディスプレイが彼女の視界中央に出現して、サテラの美しく、温和で、聡明な顔が映し出された。
「どうした?」
『目の前の魔族、炎狂血だよね?』
「そうだが?」
『話をさせてほしいから、
ドローンに接続してもらっていい?』
「わかった。〖排出〗」
フウランが省略詠唱すると、白い魔法陣が左手の平に展開して、〈デュアル・ドローン〉――10センチ四方のドローンで、カメラ、スピーカー機能を有する――を出現させた。
「それ、音楽を聴く機械じゃん。
のんの言う通り、
誰でも、持ってるんだな」
「《ルー。
〈デュアル・ドローン〉に繋いで、
スピーカーモードを起動》」
続けて、AIルーに指示する。
直後、白い光が〈VDRチョーカー〉の縁を走り始めて、〈デュアル・ドローン〉が起動した。
「おぬしと話したいそうだ」
「俺と話?」
『あー、あー。
聞こえてるかな?』
サテラの美声が〈デュアル・ドローン〉から、聞こえ始めた。
「おう。聞こえてる」
『よかった。
ぼくは、サテラ』
「あー、あの写真の女か。
じゃあ、この女、
やべえやつじゃねえか!」
「初対面の相手に、
やばいとか、言うでない!」
イクサが驚くと、フウランが注意する。
『フウラン、静かにしてて。
まずは、君の名前を
教えてもらえるかな?』
「俺は、イクサだ」
『イクサだね。
早速なんだけど、
ぼくの写真は、どこで、見たの?』
「数日前に、通信での会議があったんだ。
嵐狂血が水色のローブを羽織った女を
見たらしくて、
まおーひ? のミゾレ……っていう女が
あんたの写真を表示して、
ローブの確認させてた」
イクサは、フウランたちが狂血魔たちを討伐してくれそうだから。正直に返答する。
彼は、魔族嫌いであり、ほかの狂血魔を全滅させて、魔王になりたいから、平気で、情報を漏らす。
『ほかの狂血魔の姿は、見たかな?』
『ミゾレの姿しか、見えなかった』
イクサは、声を知っているが、情報になり得ないと判断したようだ。
『そうか。
ミゾレのことを教えてくれる?』
「おう。
ミゾレは、このフウランと同じ人種で、
角が青かったな。
あと、通信なのに、
強いのが伝わってきた。
氷狂血は、わかんねえのか、
口説いてやがったけど」
右手で、フウランと彼女の刃角の順に示して、返答する。
「どれくらいの強さかな?
ちなみに、フウランの戦闘力は、
30万越えだけど」
「そんなに、強えのかよ!?
20万は、ありそうだと思ったけど、
フウランが30万なら、
あの女は、もっと強いかもしれねえ」
『なるほど。
服とか、装飾品は、どうだった?』
「青くて、ぴたっとしたワンピースに、
黒いのを羽織ってた。
るなりんぐ? だったか?
あれが青くて、禍々しかった」
『そうか。
ぼくからは、以上だよ。
ありがとう』
「おう」
サテラが感謝を述べると、イクサは、照れくさそうにする。
『教えてくれた代わりに、
君の質問に答えるよ』
「じゃあ、ひとつだけ」
イクサは、質問を用意してなかったため、考えたが、ひとつしか、絞り出せなかったみたいだ。
『どうぞ』
「おまえらから見て、
器持ちは、いいやつか?」
『うん。いい子だよ。
大好きな娘のために、頑張るし』
「愛いおのこじゃ」
イクサがリョウのことを尋ねると、サテラとフウランが返答した。
「そうか。
気が合いそうだな」
『ふふっ、炎狂血らしい感想だね』
イクサが笑顔になって、呟くと、サテラが笑った。
「頭を使って、疲れたし、帰るわ」
『じゃあね』
「じゃあの」
「おう」
イクサは、両足の裏から、炎を噴射させて、飛び去った。




