第三話「追い風に乗って」
食事部屋に向かうと、リルが緑色の半袖パーカーに、膝丈スカートを合わせた姿で、テーブルに伏せていた。
「んー?」
眠っていると思って、静かに近づくと、リルが振り返った。
その動きに合わせて、長い金髪が流れるように、動く。
「リョウだ。
やっほー」
彼女は、俺を見るなり、嬉しそうに、美しく、温和で、人懐っこい顔を綻ばせる。
そして、瑞々しく、艶やかな唇を動かし、甘く、明るい美声で、声をかけてくれる。
上目遣いだ。可愛い。
「ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。
LLで、アニメを見てただけで、
寝てないよー」
LL――ルナティックの大手マルチサイト『ノーラバー・ノーライフ』の略称――ね。
VDRチョーカーを入手したら、使ってみたいと思ってたんだ。
フィアーナとユキネの魅力で、吹き飛んでたわ。
「ねぇ、ふたりきりで、
話したいことがあるんだけど、
いいかな?」
リルは、ほおを赤らめながら、尋ねてくる。
恥じらいながらの上目遣いで、このセリフ、反則だろ。
「うん。
俺の部屋で、話そう」
「じゃあ、果実水は、
やめといたほうがいいねー」
「大丈夫。
隣の部屋にするつもりだから」
「でも、あの部屋には、
おねえちゃん、入れないよ?」
入口は、アクア、フユネ、エメラじゃないと、開かないようになっているもんな。
「俺の部屋からなら、入れるよ」
「そーなんだ。
果実水を持って、行こー」
「うん」
リルとともに、果実水入りのペットボトル、コップふたつを持って、自室へと、向かった。
――
自室。
部屋の奥、壁の前に立って、コップを持ったまま、魔術を発動。
直後、白い魔法陣が目前に展開して、〖魔力糸〗を射出。
「便利だよねー、〖魔力糸〗」
「うん」
〖魔力糸〗は、壁のスイッチに直撃し、静止した。
すると、壁がアコーディオンカーテンのように、上がっていく。
「すごっ! 壁が上がってく」
リルが垂れ目で、緑色の大きな瞳を輝かせる。
「入って」
「この部屋、こうなってるんだ。
ここで、ママたちに、
あーんしてもらってるんだよねー?」
リルは、隣の部屋に入ると、見渡しながら、尋ねてくる。
「うん。
食事のときは、口に運んでくれてる」
男子が少ないから、必要以上に、お世話してくれるんだよな。
「リョウは、可愛いから、
甘えさせたくなるんだろうねー」
「そうなのかな?」
「ごめん、ごめん。
そんなことを言われても、
返答に困っちゃうよね」
低い机に、コップふたつを置いて、腰を下ろすと、リルが右隣に、膝立ちし、ペットボトルから、紫色の果実水を注いでいく。
「どうぞー」
「ありがとう」
「ユアウェルだよー」
感謝すると、リルは、これで返してくれるんだよな。
「のど、からからだよー」
リルが呟いて、果実水を口にする。
「ふぅ……生き返ったーっ。
ふわふわする。
寄りかかっても、いい?」
リルは、息を吐いて、尋ねてきた。
「いいよ」
「ごめんね。
んしょっと」
彼女は、体を寄せて、肩に頭を乗せてきた。
それによって、果実みたいな甘酸っぱいフェロモンが香り、体温が緑色の半袖パーカー越しに伝わってくる。
「ねぇ、こんな秘密基地みたいな部屋で、
寄り添っていると、夫婦みたいで、
ドキドキしちゃうねー。
こういう状況の相手は、
正妻のフィアがよかったよね?」
フィアにも、リルにも、悪いよな。
「ごめん」
「なんで、謝るのさ?」
「余計なことを思わせたから」
「気にしすぎ。
ちっちゃいことは、
気にしないで、飲みなよ」
「うん。ん?」
なんか、この果実水、香りが違う。
サクラ。
『この果実水の成分を鑑定します』
心の中で、声をかけると、サクラが〖念話〗を発動させたらしく、甘く、優しげな美声が耳もとで、聞こえた。
『強いお酒〈竜落とし〉並の
アルコールが混じっています』
やばそうな名前の酒だな。
「リル、飲まないで」
「えっ? もう飲んじゃったよ?
ほら」
リルのコップを見ると、中身がからっぽだった。
『落ち着いてください。
間違って、飲んでしまっても、
ナノマシンが働いてくれますし、
あとで、〖神聖魔術〗をかければ、
大丈夫ですから』
よかった。
サクラ、ありがとう。
「リョウ」
心の中で、サクラに感謝を述べたところで、リルがシャツの半袖を掴んでくる。
リルを見ると、美しく、温和で、人懐っこい顔を赤らめていた。
「リョウは、あたしのこと、
どう思っとるん……?」
リルは、美しく、しなやかな左手で、若葉状の耳に、長い金髪をかけて、なにわ言葉で、尋ねてきた。
「好きだよ」
だれでも、惚れるだろ。
「およめさんに、したいくらい?」
「うん」
「でも、モミノは、
顔も、声も、色っぽいし、
小麦肌がそれを引き立てるから、
うるさいだけのあたしより、
ずっと魅力的だよ?」
おしゃべり好きなだけで、うるさくないだろ。
「わかるけど、リルも、魅力的だよ」
「例えば?」
「きれいで、温和で、人懐っこい顔も、
甘くて、明るい美声も、好みだし、
明るくて、優しいところも、
人懐っこくて、
楽しそうに、色んなことを
話してくれるところも、好きだし、
特に、笑顔に惚れてる」
リルが嬉しそうに、美しく、温和で、人懐っこい顔を綻ばせて、瑞々しく、艶やかな唇で、口付けしてきた。
「えへへ。
嬉しすぎて、しちゃった」
照れ笑いしながら、美しく、しなやかな右手で、若葉状の耳に、長い金髪をかける。
耳かけによって、右手首の〈嵐のルナリング〉が揺れる。
『なあ、聖霊族は、あの可愛らしい耳が
敏感らしいからよ、
抱きしめながら、耳もとで、囁いてみようぜ』
俺の中の悪魔が囁いて、好奇心を刺激してくる。
どれだけ、出てくるんだよ。
ていうか、おまえ、可愛い系の断れなさそうな女子が好きなんだな。
「あはは。
めっちゃ、耳を見てくるやん」
「リル」
「今度は、甘えたなったん?
忙しいなー。
おねえちゃん、どこも行かんから、
ゆっくり、甘えればええよ」
抱きしめると、リルが後頭部を撫でてくれる。
抱きしめたことによって、果実みたいな甘酸っぱいフェロモンが濃く香り始め、緑色の半袖パーカー越しの豊満すぎる胸が押し当てられ、ドキドキしてしまう。
「リルおねえちゃん、大好き。
絶対、およめさんに、する。
わっ」
リルの耳もとで、囁くと、彼女が脱力して、倒れ込んでしまう。
とっさに、彼女の後頭部を守った。
「大丈夫?」
「うん。リョウが頭を庇ってくれたから、
どこも、痛ないよ」
よかった。
安堵したことで、果実みたいな甘酸っぱいフェロモンが濃く香っていること、緑色の半袖パーカー越し、圧倒的な豊かさの胸が押し当てられていることに気づき、ドキドキしてしまう。
「待って」
離れようとすると、リルが腕を掴んできた。
「リル?」
「おねえちゃんも、
リョウの全部が大好きだから、
したい」
「可愛すぎるだろ」
リルの瑞々しく、艶やかな唇に、深く、口づけした。




