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第三話「魔王との遭遇」


 バトル回。




 紫竜暦(しりゅうれき)189年、後暑季(こうしょき)。

 2月15日。


 ルナティシア――ルナティック人――の転生から、8年3ヶ月が経過した。

 デビル・サーヴァントとの戦闘から、数えると、2年になる。

 この2年間で、〖飛燕斬(ひえんざん)〗の応用によって、〈セラフィム・コア〉の解放レベルが上昇し、〖聖剣憑依(ひょうい)〗発動中の魔力消費量が激減した。




――


 アクアたち家族8人が寝静まった夜中。

 特訓をするべく、自室から抜け出した。


 扉が閉まったところで、首飾りの〈セラフィム・コア〉――桜色の結晶――が輝く。

 直後、サクラが精霊状態で、頭上に現れた。


『照らします』


 サクラが〖念話〗を発動させたらしく、甘く、優しげな美声が耳もとで、聞こえた。

 直後、金色の魔法陣が彼女の目前に展開して、同色の光を生成し、発光させ始めた。




 屋敷の地下にやってきた。


「ん? まただよ」


 鍛練(たんれん)室に迫ったところで、足が沈み込んだ。

 足もとを見ると、黒い渦が発生していた。

 また転移させられるのか。


「サンダルの時に……うおっ!」


 数秒後、落下するように、黒い渦に飲み込まれた。




――


「うっ」


 またたく間の浮遊感の直後、衝撃が尻から伝わってきて、声が漏れる。

 〈ナノマシン〉のおかげで、痛みを感じないから、いいけど、このシステム、やめてほしい。


「リョウさま、治癒しますね。

 〖モア・ヒール〗」


 首飾りの〈セラフィム・コア〉――桜色の結晶――が輝いて、サクラがブラウスに、膝丈スカート姿で、隣に現れ直した。

 そして、俺の尻に、美しく、しなやかな右手を向けると、瑞々(みずみず)しく、艶(つや)やかな唇を動かし、甘く、優しげな美声で、省略詠唱。

 直後、金色の魔法陣が右手の延長線上に展開して、同色の光を放ち、俺を癒やした。


「ありがとう、サクラ。

 ここは?」

「街周辺の森の北側ですね」


 サクラが魔術で、光球を生成して、周囲を照らしながら、教えてくれた。



「よお、器持ち」 


 男性の声が左のほうから、聞こえた。

 そちらを見ると同時に、サクラが照らしてくれる。


「まっぶしっ」


 赤黒い瞳の軽薄そうな青年がシャツに、ズボンを合わせた姿で、青白い右手で、顔への光を遮った。

 赤黒い髪と瞳、青白い肌は、上級以上の魔族の特徴だ。

 人類の敵だからか、敵意が溢(あふ)れてくる。


「構えた……ってことは、

 俺のことを知ってるみてえだけど、

 名乗らせてもらうぜ」


 敵意を露わにして、右手を向けると、赤黒い瞳の軽薄そうな青年が言う。

 おまえのことは、知らねえよ。


「俺は、ネトニス・デモニオ。魔王だ。

 おまえは、俺が召喚した」


 赤黒い瞳の軽薄そうな青年、改め、魔王ネトニスが名乗った。

 デモニオ……って、悪魔のことだよな?

 危機的な状況だから、単語の中に、弱点などの糸口が隠れているかもしれないため、単語の意味を吟味する。


「さすが、元・低魔(ていま)惑星人。

 知識の量だけは、すげえな」


 心の声が漏れたらしく、ネトニスが拍手しながら、肯定して、元・低魔惑星人だということを言い当ててくる。


「知っているんだな」

「遊者(ゆうしゃ)は、元・低魔惑星人で、

 確定だからな」


 そういうシステムなんだな。


「低魔惑星は、

 人類には、生きにくいらしいが、

 俺たち人外には、最高の場所だ。

 人類を苦しませれるからな」


 悪趣味な。


「低魔惑星人は、簡単に操れるからよ、

 簡単に、核戦争を起こさせられる。

 核戦争が起これば、不自由なやつらが

 生まれて、苦しむだろ?

 それを見ながらの酒池肉林が

 最高なんだよな。

 想像しただけで、

 テンションが爆上がりするぜ」


 ネトニスが楽しそうに、言いやがる。

 不自由だったから、怒りが湧き上がってきた。

  

「ふざけんな!

 健康なやつは、自由に体を動かせるし、

 恋だって、想い合えたら、結ばれて、

 その先にも、進めるけど、

 こっちは、自分で、体を動かせないし、

 想い合えても、結ばれない」


 不自由じゃなかったら、初恋の彼女と結ばれてたし、幸せにも、なれた。

 転生するまで、このことを思い続けていた。


「結婚報道や他人の妻子の話で、

 痛感させられて、

 涙が溢れるくらい、辛(つら)くなって、

 死にたくなる。

 でも。自殺しようにも、

 体を動かせないから、できないんだぞ!

 このどうしようもない辛さが

 わかるか!?」

「わかんねえよ。

 ていうか、俺たちデビリアは、

 アースの汚染には(・・)、関わってねえよ」


 アースでの遺伝子異常は、別の人外によるものらしい。

 フユネが教えてくれたから、知ってる。


「それに、不自由だったおかげで、

 いい女だらけの最高な星に、

 転生できたんだろ?」

「うるせえ!

 おまえらだって、地球以外の星を

 汚染させたことがあるんだろうが!

 死んで、償(つぐな)え!」


 怒りに身を任せて、魔術を発動。

 直後、〈空のルナリング〉――水色のシリコン製リストバンド――が輝いて、青い魔法陣が右手の延長線上に展開し、氷塊を生成する。


「〖黒渦(くろうず)・吸魔(きゅうま)〗」


 青い魔法陣が氷塊を生成すると同時に、ネトニスが省略詠唱。

 直後、黒い渦が青白い右手の延長線上に発生して、青い魔法陣とともに、氷塊を魔力に戻し、飲み込んでいった。


「なっ!?」

「驚いたか? 今のは、〖黒渦〗。

 魔王専用スキルでな、

 魔力や物質の吸収、排出、召喚ができる」


 魔力を吸収されるのか。

 どうすれば、ダメージを与えられる?


『リョウさま。

 お気もちは、わかりますが、落ち着いて、

 〖聖剣憑依〗を使用してください。

 〖聖気(せいき)〗を纏えば、

 吸収されないはずですから』


 サクラが〖念話〗で、教えてくれる。

 想像どおり、闇の力への対抗には、聖なる力……というわけか。



「〖排出〗」


 省略詠唱すると、〈空のルナリング〉が輝いて、白い魔法陣が右手元に展開し、赤色を帯びた状態の模造刀を生成した。


「〖ボロウド・ブレード〗」


 左手で、首飾りの〈セラフィム・コア〉――桜色の結晶――を掴んで、魔力を流し込み、赤色を帯びた状態の模造刀の鍔(つば)中央に触れさせ、省略詠唱。

 直後、サクラが光の粒になって、〈セラフィム・コア〉に入っていった。   

 続けて、〈セラフィム・コア〉が眩(まばゆ)く輝いて、赤色を帯びた状態の模造刀と融合し、鍔中央に収まった。


 〈セラフィム・コア〉融合状態の模造刀が魔力を吸収して、刀身から、〖聖気〗――聖属性の淡い金色のオーラ――を溢れ出させ、包み込んだ。

 そして、体内の魔力が〖聖気〗に変化して、体外へと溢あふれ出し、全身を包み込んだ。



 居合の構えになって、体の捻(ねじ)りを加えたところで、模造刀の〖聖気〗を増加させ、薄く圧縮。


「〖ホーリー・スワロー〗」


 体の捻りを戻すとともに、模造刀を振るうと、圧縮〖聖気〗製の斬撃が放たれた。

 圧縮〖聖気〗製の斬撃は、ネトニスに跳躍回避されて、彼の右側を通過してしまった。


「うそだろ?」


 〖飛燕斬〗は、速いから、回避されにくいはずなのに。


「神聖系の攻撃は、回避すんのが正解だな。

 くらったら、再生すんのが面倒だからな」


 こちらを舐めきっているのか、ネトニスが有益な情報を漏らす。

 ムカつく。

 


「それじゃあ、次、俺のターンな。

 〖肉体変化・武器〗」


 ネトニスが省略詠唱すると、彼の右手が拳銃に変化。

 彼が拳銃を発砲すると、破裂音とともに、弾丸が放たれ、俺の右太ももを撃ち抜いた。


「うぐっ」


 血液が右太ももから流れて、紺色の和服を汚しながら、ふくらはぎへと伝っていく。

 〈ナノマシン〉の苦痛軽減のおかげで、痛みは、ほぼ感じないが、ものすごく熱い。

 

「〖狂邪気〗での攻撃だから、

 治癒が効かねえだろ?」


 強い闇の力には、〖聖気〗は、勝てないのか。



「2連続で、攻撃してきたからよ、

 また俺のターンで、いいよな?」


 ネトニスが確認し、拳銃を発砲すると、破裂音とともに、弾丸が放たれて、俺の左肩を撃ち抜いた。

 くそっ、どうすれば、この状況を打破できる?

 出血中の左肩、右の太ももを押さえながら、考える。


『リョウさま。

 4時の方向、教会があります。

 教会に向かえば、

 〖聖剣覚醒〗が使用可能になりますので、

 撤退させられると思いますから、

 飛翔して、向かいましょう』


 サクラが〖念話〗で、打開方法を教えてくれる。

 教会に向かおうにも、負傷しているし、すぐに撃ち落とされるぞ?


『左肩と右足は、

 気もちを込めて、詠唱すれば、

 治癒できるはずです。

 治癒が済んだら、魔術を使って、

 ネトニスの周囲に、霧を発生させて、

 凍結させてください』


 霧だけだったら、無意味だけど、凍結させてしまえば、少しは、時間が稼げそうだもんな。



「《魔力よ、傷を癒してくれ。

 〖シャイン・ヒール〗》」


 右の手足に魔力を集中させつつ、詠唱。

 直後、〖聖気〗が輝いて、左肩と右足を癒やし、熱を消失させた。


「〖ディープ・ミスト〗」


 続けて、右足の魔力を使用して、省略詠唱。

 直後、右手首の〈空のルナリング〉が輝いて、金と青、2色混合の魔法陣が、ネトニスの足もとに展開し、同色の濃霧を発生させた。 


「俺は、レベルマの〖神気(じんぎ)〗持ちだ。

 視界を奪っても、意味ねえぞ」


 金と青、2色混合の濃霧が、ネトニスを包んだと同時に、4時の方向に駆け出すと、彼が言い放ってくる。

 

「わかっとるわ!

 〖チルド・フリーザー〗」


 振り返って、ネトニスに言い返しつつ、付近の樹木に触れ、省略詠唱。

 直後、右手首の〈空のルナリング〉が輝いて、金と青、2色混合の魔法陣が、ネトニスの足もとに展開し、同色の冷気を噴射して、彼の全身を凍結させていく。



 ネトニスの全身を凍結できたと同時に、教会に向かって、駆ける。

 そして、圧縮〖聖気〗製の両翼を広げ、羽ばたかせ、上昇し、飛翔での移動を開始した。




――


 遡(さかのぼ)ること、少し。

 

「俺は、レベルマの〖神気〗持ちだ。

 視界を奪っても、意味ねえぞ」 


 ネトニスが金と青、2色混合の濃霧に包み込まれた状態で、リョウに言い放ちつつ、〖神気〗の〖魔力探知〗を発動。


(全身が凍結する)


 〖神気〗の〖予見眼(よけんがん)〗がネトニスに数秒後のことを教えた。

 だが、彼は、行動しない。


「わかっとるわ!

 〖チルド・フリーザー〗」


 リョウが振り返って、ネトニスに言い返しつつ、付近の樹木に触れ、省略詠唱。

 直後、金と青、2色混合の魔法陣が、ネトニスの足もとに展開して、同色の冷気を噴射し、彼の全身を凍結させていく。




 リョウが飛び去って、数分後。

 氷塊状態のネトニスの全身がワインレッドに変色して、解凍されていく。


「あいつ、バカだな。

 俺は、不死身みてえなもんだから、

 凍結させても、すぐ動けるのによ」


 完全解凍されたところで、ネトニスは、青白い首や関節を動かしながら、呟(つぶや)く。

 続けて、彼が全身に、力を込めると、全身が赤黒く輝き、黒鳥の姿になった。

 黒鳥姿の彼は、ワインレッドの炎の鶏冠(とさか)、両翼、尻尾(しっぽ)を有していて、禍々しい。


「じゃあ、あいつを殺して、

 始祖の復活を阻止するか。

 始祖に、呪いの件を後悔させてやる」


 ネトニスは、宣言して、ワインレッド炎の両翼を羽ばたかせ、上昇し、リョウを追って、飛翔での移動を開始した。






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