「高二病はお金がかかるんですね。中二病ノートとかはございませんかね」
帰宅後、冬海は両親-出かけている間に父親も帰ってきていた-と少しだけ雑談を交わし、帰っていった。そんなわけで、菜摘は2階の春斗の部屋で先程のチョコレートを食べながらバスケ漫画を読んでいた。部屋の中にあるものはテレビと本棚、机。それと大きなCDラック。CDラックの中身の大半は洋楽のCDだ。良さそうなスピーカーとコンポ、レコードプレイヤーもある。今はそこまでこだわっていないようだが、学生時代は音楽好きだったのだろう。
少しして、風呂に入っていた春斗が上がってくる。手にはレモンサワー缶が2本あった。
「よーし、二次会と行くか。メイド、飲むか?」
「酔ってらしたんじゃないですか? まぁ、お付き合いしますよ」
レモンサワーの缶を受け取り、缶を開ける。
「じゃあ、乾杯」
「かんぱ~い」
せっかくなので声を作って乾杯。久々に飲んだ気がする。
「貴方様、明日の昼食は何かご希望がございますか?」
「どうした急に。帰省ノルマのうどんとラーメンは食ったしな」
「いえ、冬海様が『ともちゃんのラーメンが美味しい』と仰られていましたので」
「あー、姉貴はわかってないな。ともちゃんはちゃんぽんのほうが美味い。いいよ。久々に聞いて懐かしくなったしな」
「ではわたくしはラーメンとちゃんぽんを……」
「ともちゃんのちゃんぽんをナメるな。両方食べたいなら、俺が中を頼んでシェアしてやるよ」
この言い方的に大盛りの店なのだろうか。だとすれば冬海がちゃんぽんに触れなかったのもわかる気がする。
「中でいいんですか?」
「中の下に小とセットサイズがあるからな」
「中の下にサイズを刻んでいるタイプのお店ですか」
「ラーメンは普通サイズだから安心しな」
「へぇ、楽しみです」
「焼き飯セットになると全ラーメンと全チャーハンが出てくるけどな。あと餃子が3個ついてる」
「炭水化物の塊じゃないですか」
どうやら、半チャーハンという単語が存在しない中華料理屋らしい。
「それにしても貴方様、音楽がお好きだったんですか? CD屋さんかと」
「ん? まぁな。就職したときに全部持ってくわけにもいかなかったし、お気に入り以外はこっちに置きっぱなしだよ。今のコンポも向こうで買ったやつだしな。実家に帰ったときに聴くのがちょっとした楽しみだよ」
「レコードまであるじゃないですか。どうしたんですか」
「まぁ……そっちのほうがかっこいいって思ってたんだわ。高二病ってとこだ。実際にレコード聴くと味があっていいもんでな」
「へぇ……」
プレイヤーの中にはレコードが入っていたので、それをかけてみる。往年のロックバンドのレコードだ。日頃レコードを聴く機会はないので、新鮮な音色に聞こえる。少しノスタルジックな気分になった。
「聞いたことのある曲ですね。それにいい音がします」
「そのスピーカー、中古だったけど結構いい値段したからな。リサイクルショップから気合で持って帰ったもんだわ。チャリでな」
どう考えても自転車の籠には入らないサイズだ。気合で抱えたのだろうか。
「高二病はお金がかかるんですね。中二病ノートとかはございませんかね」
「いやあ、中二病にはかからなかったからな。それは無いわ」
机上の写真は部活の集合写真だろうか、バスケのユニフォーム姿である。この様子だと中二病を患っていた気はしないが、とりあえず引き出しを開けてみる。そこには、別のものが入っていた。
「……確かに、中二病とは縁の遠いものですね」
入っていたのは、アダルトDVDだ。総集編なのか、240分とか書かれている。一昔、いや、ふた昔前の作品なのだろう。女優のメイクが物語っている。それを見た春斗はレモンサワーを噴きかけた。
「わざわざ出すなよ……」
「いや、わざわざ取っておかなくても。セクハラですよ、セクハラ」
「自分で机を開けといて。まぁ、中学のみんなで金を出し合って買った、思い出のDVDだからな。捨てるに捨てられないわ」
「……10年以上前の作品なんですね。道理でメイクに時代を感じるわけです」
「部活のみんなで金を出し合って、チャリで40分かけて自販機まで行ってな。全員でこの部屋で見て。青春の1ページだよ」
「確かに、性春の1ページですね」
漢字の違いに気付くだろうか。
「ちなみにそれ、もう1つ思い出話があってな。最初の女優のインタビューのとき、男優が『けしからんねぇ~』って言ってたんだけどよ」
「それが仲間内で流行ったってコトですか?」
「まぁそんなとこだ。部活の顧問の口癖が『けしからん』だったから、俺らの中で大ウケして。部活の中で言いまくってたら女子の間にも流行っちまって。女子は顧問の誇張モノマネって思ってたんだろうな。元ネタを言えないまま、今に至る」
「……けしからんねぇ~」
「言わなくていい、言わなくていいから」
仲間内での鉄板ネタになっているのは想像がついた。
「では、今日はけしからん方々との会だったのですね」
「けしからん会呼びはやめてくれ。まぁ間違ってないけどな」
アダルトDVDを机の中にしまって、レモンサワーを飲む。田舎の静かな夜に、レコードの古い曲がよく似合った。
贅沢言わないから田舎の実家で一緒にレコードを聴いてくれるメイドさんが欲しい。




