9
なんか僕変かなー。
腕、腰、刀、ところどころを見せる。
まー普通ではないけどさ。
少しこちらを見た後、大鹿は何事もないように脚をたたんで休み出した。
まーまーせっかくだから休んで行きなよー。
妖精たちがきゃっきゃしながらおいでと呼ぶ。
不思議と行き先に案内するように木々も蔓や葉を伸ばして示してくれている気がした。
促されるまま、その先へ進んでみる。
木々の間を抜けると、さっきまで外からは見えなかった場所がぽっかりと開けていた。
なんだここ。
大きな木を中心に、色とりどりの花が円を描くように咲いている。
その根元には木の実や果物が積まれ、葉っぱを編んだような小さな籠まで置かれていた。
妖精たちの家……なのかな。
よく見ると太い幹には小さな穴がいくつも開いている。
窓らしきものから顔を出している子もいた。
「こっちこっちー!」
「ここすずしいよー!」
「おっきいのも入れるよ!」
おっきいの。
僕か。
それとも狼か。
まあ両方か。
後ろを見る。
狼もついてきていた。
さっき魚をたらふく食べたからか、来たときより随分と満足そうな顔をしている。
二匹のうさぎはもう我が家のような振る舞いだ。
「きゅっ!」
「きゅきゅっ」
草むらに飛び込んでいった。
どうやら、本当にここがこの子たちの居場所らしい。
よかった。
帰ってこられたんだな。
折れ角の子も――
……あれ?
帰ってきたなら、僕についてくる必要もないのか。
そう思った途端、なんだか妙な気持ちになった。
いやいや。
出会ってまだ半日も経ってないぞ。
何を寂しがってるんだ。
「はい!」
目の前に何かを差し出された。
さっきの妖精だ。
両腕で抱えているのは、赤くて丸い木の実。
「どうぞ!」
…………。
食べ物。
「あっ」
妖精が僕の首元を見る。
木の実を見る。
もう一度、首元を見る。
「…………」
僕も木の実を見る。
たぶん。
「…………」
「食べられない?」
……たぶん。
分からない。
試しに受け取ってみる。
赤い実を持ち上げる。
そしていつもの癖なのか、そのまま顔があるはずのところへ――
持っていく。
…………。
当然、何もない。
「…………」
「…………」
近くにいた妖精たちまで静かになった。
なんだよ。
そんな目で見るなよ。
分かってたよ。
俺だって。
たぶん。
すると一人の妖精が、恐る恐る近づいてきた。
「そこに入れたら?」
指差している。
首元の黒いモヤ。
いやいやいや。
さっきお前の仲間が突っ込んで悲鳴あげてたところだぞ。
「やってみようよ!」
「やってみよー!」
「入れて入れて!」
急に盛り上がるな。
……。
まあ。
どうせ食べられないし。
僕は赤い実を摘まんだまま、首元へ近づけてみる。
あと少し。
黒いモヤに実が触れる。
その瞬間。
――すっ。
手応えもなく。
赤い実が、消えた。
「…………」
「…………」
「…………」
え?
次の瞬間。
僕の胸の奥で――
何かが、ほんのりと温かくなった。
「入ったぁー!」
「食べた!」
「食べた食べた!」
妖精たちが大騒ぎする。
いや。
食べた……のか?
口もない。
味もしない。
腹に入った感じもしない。
なのに。
確かに何かが身体へ入ってきた感覚だけが残っている。
さっきの――
魚の血。
あれと少し似ている。
でも、何かが違う。
僕が自分の胸をぺたぺた触っていると。
「きゅっ!」
草むらから、さっきのうさぎが戻ってきた。
折れた角の子も一緒だ。
そして何を思ったのか。
二匹とも僕の足元へ座った。
……あれ。
帰らないの?
少し離れたところでは、大鹿が伏せたままこちらを見ている。
その隣には。
いつの間に移動したのか、大狼まで寝そべっていた。
…………。
なんだこれ。
俺もここで寝ろってことかな。




