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段々と道が険しくなる。勾配も少し上がってきたか、どうやら川上の方に向かっているのようだ。
緑や紫の草たち、食べてるのか分からない実をした果実やキノコ類も見られる。
たまに動く植物もある、大概は小さい。
3匹ともあまり気にしていないようだ。
向こうもあまり気にしていない。
いや、少し道を譲ってくれているようにも思う。
木々の先から見える山々。一際大きい山も見える。
きゅ、きゅきゅきゅっ
山に近づくと目的地に近づいてるのか嬉しそうに駆け足で2匹のウサギが向かう。
森の先で何やら光ってるように見えた。
それがゆらゆらと、いや中には早く動いている。
きゃっきゃという声も聞こえてくる。
よく見ると羽を4枚生やした子供たちが、いや小人たちが戯れながら、地面にはお花やさまざまな草が生い茂っている。
角の生えたウサギをはじめ、カピバラのようなやつも見たことないものもいる。木々には様々な鳥が羽を休めている。
そして、少しひらけた泉のようなところには1匹の本当に立派な角と体躯をした鹿がこちらを見つめていた。
鹿は動かない。
泉のほとりに四本の脚を据え、ただ静かにこちらを見つめている。
でかい。
狼もかなり大きいと思ったけど、それよりさらに大きい。
何より角だ。
何本にも枝分かれした立派な角が、まるで木そのものみたいに頭上へ広がっている。その隙間には蔦のようなものまで絡み、小さな白い花が咲いていた。
……あれ、地毛ならぬ地花なのかな。
「きゅーっ!」
「きゅきゅっ!」
二匹のうさぎが駆け出した。
あ。
僕を案内してたんじゃなくて、ここに帰ってきたかったのか。
二匹は鹿のところまで走ると、その周りをぴょんぴょん跳ね始めた。
「きゅっ、きゅきゅ!」
「きゅー!」
鹿がゆっくりと首を下げる。
まず最初のうさぎ。
鼻先を近づけ、匂いを嗅ぐような仕草。
次に――折れ角の子。
「…………」
鹿の動きが止まった。
折れた角へ鼻先を近づける。
背中。
腹。
傷があったはずの場所。
何度も確かめている。
やがて鹿の視線が上がった。
僕を見る。
……。
いや。
正確には、僕の首があるはずの辺りを見ている。
なんだか気まずい。
治したの僕です。
たぶん。
どうやったのかは分からないけど。
そんなことを身振りで伝えようか迷っていると――
「この子を助けたのは、あなた?」
声がした。
え?
辺りを見回す。
小人たちは遊んでいる。
狼も後ろにいる。
鹿。
…………まさか。
「こちらよ、こちら」
今度は上。
ふわり。
淡い光が降りてきた。
四枚の透き通った羽。
手のひらに乗ってしまいそうなほど小さな女の子が、僕の目の前――
いや。
顔があるはずの位置で止まった。
近い近い。
小人……妖精?
金色がかった髪。
草と花を編んだような服。
そして。
ものすごく僕を見ている。
上から。
下から。
横へ回って。
反対側から。
もう一度正面。
「…………」
僕もたぶん、見ている。
目はないけど。
妖精は首を傾げた。
「あなた――」
一拍。
「お顔、どこに置いてきたの?」
…………。
俺が聞きたい。
「きゅっ!」
折れ角のうさぎが抗議するように鳴いた。
「あら、ごめんなさい」
妖精は素直に謝ると、再び僕を見る。
その後ろでは、他の妖精たちも異変に気づき始めていた。
一人。
二人。
三人。
木の陰からも。
花の中からも。
光の粒みたいなものが次々と浮かび上がってくる。
「なになに?」
「だれ?」
「おっきい!」
「くろい!」
「首ないよ?」
「ほんとだ!」
「どこいったの?」
「落とした?」
……。
囲まれた。
十人どころじゃない。
四枚の羽をぱたぱたさせながら、妖精たちが僕の周りを飛び回る。
一人なんて首元のすぐ上に座ろうとして――
すぽっ。
黒い靄の中に下半身が入った。
「…………」
「…………」
妖精が固まる。
僕も固まる。
「きゃああああああ!?」
慌てて飛び出した。
「なにこれ! なにこれ!」
……知らないって。
周囲から、きゃっきゃと笑い声が上がる。
なんだか。
随分と賑やかなところへ来てしまったらしい。
そんな中でも。
泉のほとりの大鹿だけは笑わなかった。
静かにこちらを見つめている。
僕の身体。
腰の剣。
そして――小手。
魚の血を吸い込んだ、あの場所を。
鹿の瞳が、ほんの少しだけ細くなった。




