エピソード4
それで「ごめんなさい」と「いいよ」でいいのかな?
声は出してないけれど意図は伝わったのかな?
角の折れたうさぎと大きな狼の顔を見比べながら問いかけた、胸元のうさぎは本当にいいのか?!お前を食おうとしてたんだぞと言っているのか後ろ足で僕の鎧に地団駄を踏んでいる。
ガシャガシャと凄くうるさい、、、
まーまーいいじゃないの。赤ちゃんをあやすようにゆさゆさしてみた。
段々と落ち着いてきたかも。
それにしてもこの狼本当に大きいなー。
顔つきもかなり猛者という感じのいかちい顔つきである。
ただ、、、
所々傷だらけだ。うさぎたちというわけでも無さそうだ。
そして毛皮であまり分からないけれど、多分、いや結構痩せている。顔の頬もげっそりだ。目の光だけが煌々と光って見えた。
お前お腹すいてるのか?
声は出ない。
はーはーしているこのわんちゃんも何だか愛おしく、いやよく見ると痛々しい狼を撫でてやるのだった。
先にも何にも、
この子のご飯どうするかなー、
あれ、僕ってご飯いるの?
狼は撫でられると、一瞬だけ身体を強張らせた。
大きな耳がぴくりと動く。
逃げるでも、牙を剥くでもない。
ただ、どうしていいのか分からないようにこちらを見上げている。
そのまま首筋を撫でる。
ごわごわしている。
腕の中の兎とはまるで違う。
毛は硬く、ところどころ固まっているようだった。
それでも何度か撫でているうちに――
すっ。
狼の目が細くなった。
……かわいいな、こいつ。
見た目はものすごく怖いけど。
さて。
問題はこいつのご飯だ。
狼なんだから、やっぱり肉だよな。
でも、肉……。
ちらり。
腕の中の兎を見る。
「きゅ?」
違う違う。
そうじゃない。
ぶんぶんと手を振る。
「きゅぅ?」
その仕草に狼もこちらを見る。
……いや。
お前も見るな。
そもそも。
あれ?
僕って、ご飯いるの?
そう思った途端、妙なことに気がついた。
お腹が空いていない。
というより――
空腹という感覚そのものが、ない。
最後に何かを食べたのはいつだ?
思い出そうとして。
……やめた。
なぜだか、その先を考えるのが嫌だった。
喉は?
渇いていない。
さっきからずっと歩いたりしゃがんだりしているのに、息が上がることもない。
そもそも――
呼吸してるのか?
胸元へ手を当てる。
硬い甲冑。
当然、それしか分からない。
じゃあ首元なら。
手を上へ滑らせ――
やっぱり、途中から何もない。
…………。
考えれば考えるほど怖くなってきた。
「きゅ」
胸元から声がした。
見ると、兎がこちらを見上げている。
「きゅぅ」
……まあ、いいか。
今すぐ困ってないなら。
それよりこいつだ。
狼へ視線を戻した、そのとき。
――ぐるるるるるる。
低い音。
僕は固まった。
腕の中の兎も固まった。
折れ角の兎まで固まった。
三人そろって狼を見る。
狼も固まっていた。
「…………」
ぐるるるるる……。
もう一度。
腹だ。
狼はゆっくりと顔を背けた。
……恥ずかしいのか?
さっきまで兎を食い殺しかけていたような奴が?
なんだかおかしくなって、もう一度頭を撫でる。
よし。
飯を探そう。
何があるか分からないけど。
立ち上がろうとして――
折れ角の兎が先に動いた。
ぴょん。
ぴょん。
数歩進む。
こちらを振り返る。
「きゅっ」
また進む。
そして振り返る。
……ついてこいってことか?
胸元の兎も「きゅっ」と鳴いた。
狼は何も言わない。
けれど立ち上がった。
改めて見ると、本当に大きい。
僕の腰よりずっと高いところに背中がある。
なのに、腹回りだけが不自然なほど細かった。
折れ角の兎が、また跳ねる。
僕らはその後を追った。
*
しばらく森を歩くと。
木々の向こうから、これまでとは違う音が聞こえてきた。
さらさら。
一定の調子で続いている。
水……?
紫色の葉を掻き分ける。
そこには、小さな流れがあった。
川というには細い。
けれど透き通った水が、色とりどりの小石の間を流れている。
折れ角の兎は迷うことなく駆け寄った。
もう一匹も僕の腕から降りたそうにもぞもぞする。
そっと地面へ下ろしてやると、
ぴょん!
二匹そろって水辺へ向かっていった。
ぺちゃぺちゃと水を飲む。
狼もゆっくり後を追い、大きな身体を屈めた。
ぺろ。
ぺろ。
ぺろ。
……すごい飲むな。
相当喉も渇いていたらしい。
僕もその隣へしゃがみ込む。
水。
そういえば、喉が渇いていないとはいえ――飲めるのかな。
両手で水を掬おうとして。
その手が止まった。
水面に。
誰かがいる。
黒ずんだ甲冑。
傷だらけの胸当て。
大きな肩当て。
腰から垂れた古びた革と金属。
そして――
その上には。
何もない。
揺れる水面に映っているのは、
首から上だけが、ぽっかりとなくなった騎士だった。




