24
…………。
静かだ。
さっきまでの爆音が嘘みたいに、辺りはしんと静まり返っていた。
いや。
ちゃぷ。
ちゃぷちゃぷ。
水の音はする。
……。
おかしいな。
ここ、こんなに水深あったっけ。
目の前には、川と繋がった大きな水たまり。
いや、もう池だ。
川岸にあった岩も、草むらも、何もかも見当たらない。
…………。
やっちゃった。
これ。
絶対怒られるやつ。
「木を倒すでないぞ」
大鹿の言葉が脳裏によみがえる。
……。
木は倒してない。
うん。
木は。
…………。
地形を変えちゃったけど。
セーフ?
いや、アウトだろうなぁ。
僕はそっと後ろを振り返った。
森の入口。
大狼が立っている。
二匹のうさぎも、その足元から顔を覗かせていた。
…………。
みんな。
無事?
「…………」
大狼は口を半開きにしたまま動かない。
涎も止まっている。
……。
お。
よかったじゃん。
涎止まったね。
「……クゥン」
あ。
違う。
怖がってる。
僕を?
いや。
そりゃそうか。
自分でも怖いもんな。
僕は慌てて両手を振った。
大丈夫!
大丈夫だよ!
ほら!
いつもの僕!
……。
いつもの僕って何だろう。
まだ会って三日目くらいだけど。
すると折れ角のうさぎが、ぴょんと飛び出してきた。
「きゅっ!」
おお。
来てくれるの?
「きゅぅ!」
僕の脚へ頭を擦りつける。
……。
ありがとうね。
しゃがんで撫でてやる。
その様子を見て、大狼もゆっくり近づいてきた。
鼻先を僕の小手へ押しつける。
「クゥゥン……」
はいはい。
びっくりしたね。
僕もびっくりした。
……。
さて。
問題はこっちだ。
足元に散らばった大量の怪魚の肉。
一つ一つが、ちょっとした岩くらいある。
……。
これ。
どうやって持って帰るの?
僕は腰の蔓棒を見る。
ねえ。
何とかならない?
しゅる。
杖の先端が持ち上がった。
お。
頼もしい。
しゅるしゅるしゅる!
蔓が何本にも分かれ、地面に落ちた肉を次々と包み始めた。
おお!
さすが!
これなら――
ずしん。
…………。
杖がしなった。
あ。
重い?
しゅるしゅる。
さらに蔓が伸び、近くの木へ巻きつく。
一本。
二本。
三本。
まるで滑車みたいに、肉の塊を吊り上げていく。
……。
おおお。
天才じゃん。
僕、何もしてないけど。
大狼が吊り下げられた肉を見上げる。
「……ウォフ」
うん。
分かる。
夢のような光景だよね。
でも。
全部持って帰っても腐るよなぁ。
どうしよう。
冷蔵庫なんてないし。
魔法で冷やせたりしないのかな。
……。
あ。
魔法。
そういえば。
僕、魔法使えるんだった。
さっきの光線もそうなのかな。
…………。
いや。
待てよ。
冷やそうとして森を凍らせたらどうする。
やめよう。
大鹿さんに相談しよう。
あの人、いや鹿なら何か知ってるだろう。
そう思った瞬間。
「――お主」
…………。
あ。
聞こえた。
この声。
「何をした」
…………。
えーと。
大鹿さん?
どこから?
「どこからではない」
……。
なんか。
声が低い。
「今、森の水脈が大きく揺れた」
…………。
水脈。
ああ。
それは。
「しかも、川の流れが変わっておる」
…………。
えへ。
「えへ、ではないわ!」
うわっ!
念話なのに怒鳴られた!
「お主! 何をしたのだ!」
いや!
魚が!
でっかい魚が出て!
なんか光って!
僕も光って!
そしたら!
「……そしたら?」
…………。
池ができました。
「…………」
…………。
「…………」
……。
大鹿さん?
「……帰ってこい」
…………。
はい。
「すぐにだ」
はい。
「それから」
……。
はい?
「その魚の肉も持ってこい。話はそれからだ。」
…………。
お。
肉は持って帰っていいんだ。
よかった。
……。
いや。
絶対よくない。
僕は吊り下げられた大量の肉を見上げた。
その下では、大狼が尻尾をぶんぶん振っている。
……。
お前はいいよなぁ。
今日の晩ご飯、豪華だもんなぁ。
僕は肩を落とした。
首はないけど。
ああ。帰りたくない。




