20
さて、朝がやってまいりました。
今日もいい天気です。
みんな悠々と過ごしております。
1匹以外は…。
ちらっと横を見る。
大狼は涎がダラダラと溢れている。
もしかして泣いているのかも知れない。
クゥゥンと喉の奥で鳴いている。
流石に最初怖がっていた他のうさぎたちも心配で毛繕いをしているが大狼は逆に苦しそうだ。
本来のご馳走が目の前にいるのである。
むしろよく持っていたという思う。
これだけ頑張っているのだ。
この子が飢えないようにしないと。
そう思った。
「それならカンショと怪魚どもだな。
まー後は…」
ん?なんとも歯切れが悪いなー。
「後は?」
僕は問い詰めた。
「マンイーターも根や茎が食える。
しかし今どこにおるか分からん」
へーマンイーター…
人喰い?
「人喰いと言っても死骸や血を分解しているにすぎん。奴も森の一部なのだ。最近まではな。」
最近までは?また含んだ言い方するなー。
「見境なく襲い始めたのだ。これまでそんなことはなかった。」
イレギュラーだ。そう言っている。
一番のイレギュラーはお主だけどな。
え、なんか今言った?
フッ顔を逸らされた。
仕方ないから芋探しと魚退治から取り組むことにした。
さて。
芋と魚。
なんとも庶民的な献立である。
もっとこう、異世界らしいご馳走があると思っていたんだけどなぁ。
まあ、食べるのは僕じゃないんだけど。
「カンショならば川沿いの湿った土地に生えておる。葉に特徴があるゆえ、見れば分かる」
ほうほう。
「怪魚は昨日の川にもおる。ただし、むやみに水へ入るでないぞ」
はいはい。
「それから、マンイーターを見つけても手を出すな。まず我に知らせよ」
はいはいはい。
「……本当に分かっておるのか?」
分かってますって!
大鹿は疑わしそうに僕を見た。
そんなに信用ないかな、俺。
昨日だってちゃんと帰ってきたじゃない。
木は倒したけど。
……。
ああ、それか。
*
出発しようとすると、大狼がよろよろと立ち上がった。
「クゥン……」
お前も来るの?
「ウォフ……」
うーん。
どう見ても元気がない。
昨日からろくに食べてないもんな。
よし。
じゃあ今日はお前のための食料調達だ。
僕が頭を撫でると、大狼は鼻先を小手へ押しつけてきた。
……。
なんか。
最初に会ったときより甘えん坊になってない?
その後ろから折れ角のうさぎも跳ねてきた。
「きゅ!」
君も?
「きゅっ!」
いやいや。
今日は魚を捕りに行くんだよ。
危ないぞ。
「きゅぅ!」
……。
分かった。
分かったから、そんなに足を叩かないで。
結局、僕と大狼、それに二匹のうさぎで出発することになった。
蔓鹿は?
今日はお留守番らしい。
代わりに、あの便利な蔓の杖を持たせてもらった。
「木を倒すでないぞ」
最後までそれか!
*
川沿いを歩く。
昨日と同じ道のはずなのに、今日はずいぶん景色が違って見えた。
紫色の葉。
青く光る苔。
風もないのに揺れている細い草。
……。
あれ?
そういえば。
風がないのに揺れているのは、昨日も見たな。
魔法なのかな。
それともそういう植物なのか。
気になることは多い。
でも、まずは芋だ。
足元を探しながら進んでいると、折れ角のうさぎが急に立ち止まった。
「きゅっ!」
お?
何か見つけた?
うさぎは草むらへ飛び込み、葉っぱをくわえて引っ張り始めた。
おお。
それか!
近づいてみる。
ハート形の葉。
地面を這うように伸びる蔓。
……。
これ。
サツマイモじゃない?
いや、そっくりだけど。
異世界の芋だしな。
とりあえず掘ってみよう。
杖の先端を地面へ向ける。
ねえ。
これ、掘れる?
しゅるっ。
杖から細い蔓が何本も伸び、土の中へ潜り込んでいく。
おお。
便利便利。
すると。
ぼこっ。
ぼこぼこっ。
土が盛り上がり――
ずぼんっ!
巨大な塊が飛び出した。
…………。
でか。
僕の太ももくらいあるぞ。
芋ってこんなに大きくなるものなの?
「きゅぅ!」
うさぎたちは嬉しそうだ。
大狼も鼻を近づけた。
ふんふん。
……。
ぷいっ。
あ。
お気に召さない?
まあ肉食だもんなぁ。
でも食べられるなら食べてほしいところだ。
僕は芋を持ち上げてみる。
ずっしり。
いや、僕には軽いんだけど。
普通の人なら結構重そう。
……。
これ一本で何食分あるんだろう。
しばらく考えたあと、僕は腰の剣を見る。
…………。
いや。
やめておこう。
芋を切ろうとして森が真っ二つになったら困る。
代わりに杖へお願いして、蔓で芋を包んでもらった。
すると杖は、芋を背負うように器用にまとめてくれた。
おお。
買い物袋にもなるのね。
優秀。
*
それからしばらく川を上っていくと、水の流れが緩やかな場所へ出た。
大きな岩がいくつも転がり、深い淵ができている。
水面は静か。
……。
魚、いるかな。
僕は岩の上へ腰を下ろした。
大狼が隣へ座る。
二匹のうさぎは少し離れた草むらで遊び始めた。
さて。
どうやって捕まえよう。
釣り竿はない。
網もない。
餌もない。
……。
いや。
待てよ。
僕には便利な杖があるじゃない。
ねえ。
魚って捕まえられる?
杖の先端が、ぴくりと動いた。
そして。
しゅるしゅる。
細い蔓が水面へ伸びていく。
おお。
釣り糸みたい。
先端が水の中へ沈んだ。
…………。
…………。
…………。
暇だな。
大狼を見る。
涎。
だらだら。
お前、まだ出るの?
そんなに水分残ってる?
「クゥゥン……」
はいはい。
もう少し待ってね。
そのとき。
水面が揺れた。
ちゃぷん。
お?
来た?
ぐぐぐっ。
杖が引っ張られる。
おお!
引いてる引いてる!
これは大物か!?
僕は杖を両手で握った。
よし。
釣り上げるぞ!
ぐいっ!
――ざばあああああん!!
…………。
…………。
……。
でっか。
昨日の魚より大きい。
いや。
大きすぎない?
水面から飛び出した怪魚が、空中で大きく口を開いた。
鋭い歯が何列も並んでいる。
しかも。
脚が六本。
増えてるじゃん。
「ギシャアアアア!!」
……。
うわぁ。
やっぱり顔が怖い。
大狼が立ち上がる。
うさぎたちも草むらから顔を出した。
怪魚は空中で身体をひねり、僕へ向かって落ちてくる。
……。
ちょっと待って。
これ。
釣ったっていうより。
釣られたの、僕じゃない?




