↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首を括った先は、デュラハンでした。  作者: from_Uta
始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/26

19

グッッ…


辛い顔をしながら首をブンブン振り回している。

そうして話をしてくれるのを待った。

しかし、彼は言わないと決めたらしい。

苦しみながらこちらをまた睨みつけてきた。

僕はそれが答えだと知り、棒を逸らして転ばせた。


ガハッ


地面に膝を浮かせた所で肩を抑え身動きを止めた。

「ク、コロセ」

彼は吐き捨てるように言ったのだった。


うーん、なんだか辛そうだしなー、

とりあえずほっぽり出すか。


僕は指で頸動脈を抑えることにした。

数分で大悪鬼は眠るのだった。

まーこんなもんでしょ。初めてにしちゃ上出来よ。


大悪鬼を担ぎ出し、蔓で悪鬼ども。その上に積み上げていく。


よいしょっと、僕はそれらを離れた森のはじに置いてくるのだった。


さて。

これでよし。

悪鬼たちは森の外れにまとめて置いてきた。

蔓でぐるぐる巻きにされている姿は、なんとも情けない。

さっきまであんなに威勢がよかったのにねぇ。

まあ、目が覚めたら解放してやるように蔓にはお願いしておいた。

もう悪さするんじゃないぞー。

……聞こえてないだろうけど。

僕は軽く手を振り、その場を後にした。

*

「プィ! プィ!」

帰り道。

さっき助けたカピバラのような生き物たちが、僕の後をついてきていた。

あれ。

君たち、まだいたの?

「プィィ」

一匹が僕の脚甲に身体を擦りつける。

おお。

人懐っこいな。

でも、君たちにも帰るところがあるんじゃない?

しゃがみ込んで頭を撫でてやる。

ふわふわ。

……いや、結構ごわごわだ。

見た目ほど柔らかくないのね。

すると、一匹が森の奥へ走り出した。

少し進んでは振り返る。

「プィ!」

……。

ああ。

ついてこいってこと?

「プィ!」

はいはい。

分かりましたよ。

僕は蔓鹿から降り、小さな案内人たちの後を追った。

*

木々の間をしばらく進むと、少し開けた場所に出た。

大きな木の根元。

そこにはいくつもの穴が空いていて、柔らかな草が敷き詰められている。

「プィィィ!」

僕についてきた一匹が鳴くと、穴の中から次々に仲間たちが顔を出した。

おお。

大家族じゃない。

十匹。

いや、もっといるな。

小さいのもいる。

親子かな?

「プィ、プィ!」

みんなで僕の周りをぐるぐる回る。

……。

なんだなんだ。

お礼でもしてくれてるの?

それなら気にしなくていいんだよ。

無事で何より。

一匹が木の根元から、ころころと丸い木の実を転がしてきた。

僕の足元へ。

「プィ!」

……。

くれるの?

「プィ!」

おお。

ありがとう。

でもね。

僕、口がないんだよね。

……。

そういえば昨日は食べられたな。

木の実を拾い、首のない部分へ近づける。

ぽすっ。

消えた。

…………。

おお。

やっぱり食べられる。

便利な身体だなぁ。

味は分かんないけど。

動物たちは嬉しそうに鳴き、また穴の周りを走り回り始めた。

よかったよかった。

さて。

そろそろ帰りますか。

大鹿さんにまた怒られる前にね。

*

蔓鹿のところへ戻る途中。

ふと、足元に妙なものが落ちているのが見えた。

……ん?

何だこれ。

茶色い紐。

いや、ただの紐じゃないな。

細い麻紐が何本か絡まっている。

その先には、小さな布切れ。

……。

人の手で作ったもの?

拾い上げてみる。

麻のような粗い布。

何かを包んでいたのか、折り目がついている。

端には、乾いた草の葉が数枚くっついていた。

……。

薬草でも束ねてたのかな。

昔、農作業でこういう紐を使ったことがある気がする。

何を結んでたっけ。

…………。

まあいいか。

でも。

この森に、こんなものが落ちているんだ。

ということは。

人も来るのかな。

僕は周囲を見回した。

静かな森。

鳥の声。

風に揺れる葉。

……。

誰もいない。

ただ、少し先の低い枝に、同じような布の切れ端が引っかかっていた。

あら。

結構派手に引っかけたのね。

慌ててたのかな。

それとも荷物が破れた?

まあ、誰かの落とし物だろう。

僕は麻紐を軽く丸めて腰の隙間へしまった。

……。

あれ。

何で持って帰るんだ、俺。

別に使い道ないぞ。

……。

ま、紐は何かと便利だからね。

そういうことにしておこう。

*

蔓鹿は相変わらず木陰で待っていた。

お待たせ。

背中に跨がる。

しゅるしゅる。

蔓が脚を固定する。

よし。

帰ろうか。

「…………」

分体の耳がぴくりと動いた。

そして。

ダンッ!

うおおおお!

だから!

出発するときは一声かけてくれって!

森の景色が勢いよく後ろへ流れていく。

でも、行きより少しだけ余裕がある。

木々の間をすり抜けながら、僕は今日のことを考えていた。

魔力の修行。

悪鬼たち。

助けた動物たち。

そして、拾った麻紐。

……。

そういえば。

あの大きな悪鬼。

最後まで名前を聞けなかったな。

いや。

僕も名乗れなかったんだけど。

…………。


ま、いいか。

また会うこともあるかもしれない。

そのときは、もう少し穏やかに話せるといいね。

*

やがて。

見覚えのある大きな木が見えてきた。

泉。

花畑。

飛び回る妖精たち。

おお。

帰ってきた。

「帰ったぞー!」

念話を飛ばしてみる。

すると。

「わー!」

「首なしさんだー!」

「帰ってきたー!」

妖精たちが一斉に飛んできた。

おおお。

ちょっと待て。

そんなに集まると――

「ねえねえ! 悪い奴らどうしたの?」

「やっつけた?」

「食べちゃった?」

……。

食べてないよ。

「えー!」

えー、じゃない。

食べないって。

妖精たちが僕の肩や腕に次々と止まる。

その向こうで、折れ角のうさぎが駆け寄ってきた。

「きゅぅ!」

おお。

ただいま。

頭を撫でてやる。

狼も木陰から顔を上げた。

……。

あれ。

お前。

また寝てたの?

気楽なもんだなぁ。

すると。

「戻ったか、阿呆」

…………。

出た。

大鹿さん。

開口一番それですか。

「森の木を倒すわ、魔力を垂れ流すわ、挙げ句に悪鬼どもと戯れておったようだの」

戯れてないよ!

ちゃんと追い払ってきたんだから!

「ほう」

大鹿がゆっくり立ち上がる。

「殺したか?」

……。

いや。

殺してない。

ちょっと痛い目には遭ってもらったけど。

大鹿はしばらく僕を見つめていた。

「……そうか」

それだけ。

……。

あれ。

怒らないの?

「なぜ怒る」

いや。

森を荒らした奴らだし。


「森で生きる者が争うことなど珍しくもない。問題は、己の欲のために必要以上の命を奪うことよ」

……。

なるほど。

「もっとも、あやつらが再び同じことをするならば、そのときは考えねばならぬがな」

うん。

それはそうだね。

大鹿は僕の腰の蔓棒へ視線を向けた。

「それで、我が杖は役に立ったか?」

ああ!

すごかったよ!

伸びるし!

曲がるし!

勝手に動くし!

めちゃくちゃ便利!

僕は杖を掲げた。

すると蔓の先端が、誇らしげにぴんと伸びる。

「……ふむ」

大鹿が目を細める。

「随分と懐かれたものだ」

……。

え?

杖にも懐くとかあるの?

「我の分体の一部だからの。意思くらいはある」

へぇぇ。

じゃあ、これ。

生きてるの?

「生きておるとも言えるし、そうでないとも言える」

……。

また難しいこと言う。

「ともあれ、今日はもう休め」

お。

修行終わり?

「うむ。これ以上木を倒されても困る」

…………。

まだ言うか。

僕は肩をすくめた。

首はないけど。

そのとき。

腰に挟んでいた麻紐が、ぽとりと落ちた。

あ。

大鹿がそれを見る。

「……何だ、それは」

ああ。

帰り道で拾ったんだよ。

誰かの落とし物みたい。

大鹿が鼻先を近づける。

ふん。

ふん。

「……人の匂いがするな」

やっぱり。

人間もこの森に来るんだね。

「来ることはある」

大鹿はそれ以上、何も言わなかった。

僕も深くは聞かなかった。

だって。

今はまだ。

この森のことすら、ほとんど知らないんだから。

「ほれ、阿呆。そこを退け。兎どもが飯を待っておる」

はいはい。

分かりましたよ。

僕は麻紐を拾い直し、腰へしまった。

妖精たちはまた騒ぎ始め、うさぎたちは草の中へ跳ねていく。

狼は大きなあくびをした。

泉の水面には、夕暮れの光が揺れている。

……。

なんだか。

帰ってきたって感じがするなぁ。

まだ二日目なのに。

僕は大きな木の根元へ腰を下ろした。

すると折れ角のうさぎが膝に飛び乗り、もう一匹が足元に丸くなった。

……。

うん。

悪くない。

こんな一日も。

首がなくても、帰る場所はできるものなんだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。